利香の闘病日記

 「ねえ利香ちゃん、もうすぐ15年目の結婚記念日がくるけど・・・」

「また、バーベキューしない?」


私が一言、言おうとすると・・・

「え〜?また、バーベキュー?ヤダ!」

「虫は居るし、暑いし、日焼けするし!」

中3の長女の日向(ヒナタ)がユウ君にくってかかった。

私はユウ君と一緒に居るだけで十分幸せだと思うけど・・・


「それじゃ〜?15年目の区切りだし、ホテルでジャズでも聴きながらディナーとかは?」


「そんなに大袈裟じゃなくて家族だけでやろうよ。」

「長女の日向も来年受験だし、長男の陽太も中学生になったばかりで部活動もあるんだから・・・」

何言ってるのこの人?って思う事はいつもの事だ。

でも、私はこんなユウ君の子供っぽいところも嫌いじゃない。

結局、家でお祝いする事となった。

ユウ君はテーブルにワインを置いて、それを開けた。ラベルには15年前の日付が入っていて・・・

ユウ君はソムリエみたいに語り始めた。

「これは結婚した年につくってもらって、そして記念日に開けようと思ってたんだ。昔、○○のワインというマンガがあって、俺すきだったんだよ。」

開けたボトルからは暫くすると部屋いっぱいに香りが拡がって、私達はその香りにつつまれた。

「子供達はソーダで割って味見だけだな!」

子供達の小さい頃の写真や動画もユウ君は引っ張り出して来て、子供達と一緒にキャーキャー言いながら観てた。

束の間の家族の時間が過ぎて行った。


それから数日後、私はものすごい腹痛に襲われ救急車で病院に運ばれた。

鎮痛剤を打たれ痛みは和らいだが・・・

病院でいろいろな検査を受けた結果、子宮頸がんという診断をうけた。

私の場合、ステージ4で身体中に癌が散らばってるという事だった。

医者からは余命半年と宣告されてしまい、東京のK大学病院を紹介され、そこに入院して治療する事となった。


私の闘病生活は辛かった。

目眩や吐き気、頭痛、むくみ、脱毛等が容赦なく私を襲って、私から希望というモノを奪っていった。

放射線で一つガンを叩いても、新たに二つ見つかる様な事が繰り返された。

私のガンは肺にも拡がり、とうとう人工呼吸機に頼るようになってしまった。

遂には、ユウ君や子供達にも辛くあたるようになっていた。

・・・私はいったいいつまでいきられるのだろうか?

ボッーとして息苦しい身体で天井を観ていると、ユウ君が女の人を連れて病室に入って来た。

私は彼女が誰だか直ぐに判った。

「加奈?生きてたの?私、死んじゃたんじゃないよね?」

加奈は私におそるおそる近付いて顔を見せた。

私も加奈も涙が頬をつたった。

「加奈私ね、もうダメみたいなの。ガンなんだ!」

「加奈は今、結婚してるの?」

加奈は小さく首を横に振った。

「約束覚えてるかな?」

「加奈が帰って来るまで、ユウ君をしっかり見守ってほしいって・・・」

「私、約束果たす為に頑張ったよ。」

「加奈、今でもユウ君の事好き?」

加奈はコクリと頷いた。

「ユウ君も加奈の事、今でも好きだよ。この間、加奈とのツーショト写真を大切にしまってあるのを見つけたの!」

「ねえ加奈、私に代わってユウ君を見守ってくれないかな?」

「結婚はしてもしなくてもいいから・・・」

「ユウ君もいいよね?私の事はたまに思い出してくれればいいから・・・」

「でも・・・ 次に生まれ変わった時は、加奈より私が一番じゃないとダメだからね!」

ユウ君はただただ頷いてくれた。


「ゴメンね。疲れちゃた!眠ってもいいかな?」

私は、息は苦しかったけど少しホッとして笑顔で眠りにつく事ができた。

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