高章寺で
俺達は山の山頂にあるとは思えない大きな山門に迎えられた。仁王門とかいうらしい。
お寺の境内は山頂なんて忘れさせる程広かった。
三重塔とかもあるし、血ノ池や賽ノ河原なんかもあった。
加奈はキョロキョロしながら
「すぐ近くで毎日生活しているのに、こんな所にがあるなんて知らなかった。」
なんて言ってるけど、俺も二回目なんだから似たようなもんだ。
本堂の中に地獄絵図が有るようだか、拝観時間があと三十分くらいらしい。
地獄絵図は昔、絵本で観たことがある絵の巨大盤みたいな感じだった。でも、“こんな所に加奈を行かせたくない”と思ったら涙が頬をつたってきた。
“このお寺は悪行を働いた女の人に悔い改めてもらう場所でもあります。”
とか書いてあるから・・・
「やっぱり私、ココに来るべきだったんだね。」
って加奈はうつむいてしまった。
「ふざけるな!加奈は何もしていない。加奈は何も悪くなんかない!」
俺はついムキになって叫んでしまった。
本堂の裏手には霊場があってそこには何百もの卒塔婆があがっていた。
「ねえ裕二、もし私が亡くなったらココに卒塔婆あげてくれるかな?」
「加奈が亡くなるなんて考えたくもないけど・・・ 加奈が望むなら・・・」
辺りは夕日に朱く染まり、異世界みたいにみえた。
「あっ!暗くなる!帰らなきゃ!」
俺達はもと来た石段を降り始めた。
暗くなってから、街灯もない石段を降りるなんて危険このうえない。
「痛い!足を挫いた!」
加奈が足首をおさえていたので、有無を言わさず俺がおんぶした。
「裕二、私の胸の感触楽しんでないよね?」
美人が怒ると怖いというが・・・
加奈はなぜか笑顔だった。
俺の背中にポツリと冷たいモノが落ちてきた。
「裕二私ね、大人になったら絵本作家になりたかったんだ。子供達にイッパイ夢を届けてあげたかった。」
ポツリと加奈は呟くと黙ってしまった。
「ねえ裕二、利香の事どう思う?」
「利香ちゃん?ちょとお嬢様ぽいけど、気が利くし、可愛いし、胸が… あっ!今のは無しで!」
「どうせ私は胸無いですよ・・・!」
「いや、今十分当たってます。ごめんなさい!」
「わかったわよ!」
「それはいいから! それで・・・利香は裕二の事すきらしいの・・・」
「だから私が居ない間、利香に裕二の事を監視して貰おうと思うの!」
「エッ? 利香ちゃんが・・・ 俺の事を? っていうか監視って何だよ?」
「ウルサイな! 帰ってこないかもしれない人をいつまでも待ってないで、新しい恋をしなさい!そのほうが私だって安心なの。」
加奈は涙目になって、うつむいて黙ってしまった。
石段を下り終え、駅に停めた自転車で加奈は帰って行った。
家までおくりたかったが、泣き顔見られるのは絶対ヤダってひかなかった。
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