【短編版】追放された転生重騎士はゲーム知識で無双する
猫子
第1話
今日は俺ことエルマ・エドヴァンの〈加護の儀〉の日であった。
エドヴァン家の広間に親族が集まり、俺を見守っている。
加護とはクラスとも呼ばれ、か弱い人間達が魔物に対抗できるように、神々が授けてくれる力のことである。
クラスを得た人間は身体能力が強化されると同時に、様々なスキルと呼ばれる力を得ることができるようになるのだ。
クラスには魔法剣士や黒魔術師といったものがあり、それぞれ戦闘スタイルや役割が変わる。
満十五歳となった次の年始まりの日が、その人物の〈加護の儀〉の日となる。
血筋や言動、運命によってクラスは左右されると言われており、〈加護の儀〉までの十五年は神々が新たな戦士の本質を見極めるための時間だといわれている。
当主のクラスは貴族家の権威にも大きな影響を与える。
エドヴァン伯爵家は代々、剣系統の強大なクラスである剣聖を有して領地を守護し、導いてきた。
当然、次期当主として、俺にもその役割が期待されている。
「大丈夫だ、エルマ。お前がこれまで勤勉に鍛錬を積んできておったことは、父である俺がよぅく知っておる。お前は俺の子……必ずや、強力なクラスを剣の神様が授けてくれようて」
エドヴァン家当主である父が、俺の肩へ手を置いた。
「ええ、わかっています父上。心配などしていませんよ」
俺は父へと小さく頭を下げ、老神官へと向かった。
通常〈加護の儀〉は教会で行うものなのだが、この老神官は俺の〈加護の儀〉のためにわざわざ父が館へと招いたのだ。
それも都市で最もレベルの高い、【Lv:50】の神官を。
別に神官の質はクラスに左右しないだろうが、俺に少しでもいいクラスを引いてほしい、という親心から行った願掛けのようなものだ。
しかし……なんだろう? この状況、妙なデジャヴを感じる。
昔から何かを知ったり見たりする度に、それを前々から知っていたような感覚に襲われることがあるのだ。
まあ、ただの気のせいだろうが……。
「では、ご子息様や、失礼いたしますな。〈バプテスマ〉!」
老神官がそう口にした途端、俺の周囲に魔法陣の青白い光が浮かんだ。
身体に何か……力が定着していくのを感じる。
〈バプテスマ〉は聖魔法に属するスキルであり、条件を満たした人間に加護、クラスを発現させることができるのだ。
「これで完了いたしました。貴方は〈ステータス〉を使えるようになったはずです」
〈ステータス〉というのは、クラス持ちであれば誰もが扱える力である。
自身のクラスの状況を空間に文字列として投影し、確認することができる。
「はい、では……〈ステータス〉!」
そう唱えた瞬間、光が集まり、俺の手許に〈ステータス〉が形成されていく。
それを見て、俺ははっとした。
やはり、俺はこれを知っている。
五年、いや、もっと前……そう、俺が生まれるより前に。
この世界は、俺が前世でやり込んでいたVR対応オンラインゲーム、〈マジックワールド〉と全く同じなのだ。
色々と理解しがたいが、そうとしか言いようがない。
一日二十時間をこのゲームに費やした日もあり、隅から隅まで知り尽くしている。
敢えて言うのならば、前世の俺の妄執が転生の垣根を超越したのかもしれない。
その瞬間、俺は歓喜と、勝利の確信があった。
前者の歓喜は、熱中していたゲームの世界に入り込んだその喜び。
そして後者の勝利の確信は、俺が〈マジックワールド〉のあらゆるクラス、スキル、そして魔物の性質を熟知している、ということである。
〈マジックワールド〉では、キャラメイク時にこの世界の神より二十近い質問を受け、その結果に応じたクラスでキャラが生成される、というものになっていた。
どうやらこの世界では、十五歳までの生き様によって決定されるようだが。
生まれたばかりの赤ん坊が自身の生き様の面接を受けるわけにもいかないので、現実とゲームの擦り合わせによって生じた変化なのかもしれない。
どのクラスでも上手くやってみせる自信はあるが、やはり〈マジックワールド〉で愛用していた、
俺は祈りながら、〈ステータス〉へと目をやった。
――――――――――――――――――――
【エルマ・エドヴァン】
クラス:重騎士
Lv :1
HP :10/10
MP :4/4
――――――――――――――――――――
俺は表示を見た瞬間、笑みが込み上げてきた。
勝った……〈マジックワールド〉最強と呼ばれる、インチキクラス、重騎士だ。
重騎士は守り特化で、敵の攻撃を引き付けて味方を守るクラスである。
少なくともサービス開始からしばらくの間はそう言われていた。
だが、他の防御クラスと比べても性能に応用が利かず活躍の幅が狭く、攻撃性能が低すぎてレベルもまともに上げられない、不遇クラスを超えた欠陥クラスだといわれていた。
特に〈マジックワールド〉は、如何に効率よくレベルを上げるかがキャラを鍛える一番のポイントであった。
その時点で、能動的に攻撃できない重騎士は、ゲームコンセプトから見放されている、とまでされていた。
それでも物好きはいるもので、サービス開始からしばらく経った頃、重騎士の性能検証を徹底的に行う解析チームが現れた。
使えない使えないといわれれば、逆に使いたくなるのが人間の性というものである。
俺も関心が出て、サブキャラで重騎士を作って解析に協力していた。
その結果、重騎士は守り特化を隠れ蓑にした、とんでもないテクニカルキャラであることが判明したのだ。
膨大な知識量と技量と工夫を必要とする反面、それらをクリアしてしまえば他の最強格のクラスを圧倒できるポテンシャルを秘めていた。
それが判明したのは、サービス開始から実に五年後のことであった。
俺はずっと使い続けていたメインキャラを捨て、重騎士のサブキャラに乗り換えた程である。
俺が重騎士を引いたのはある意味当然のことだったのかもしれない。
神様が審査してくれているのならば、前世であれだけ重騎士の解析と育成に傾倒していた俺を、別のクラスに追いやるはずがない。
「やりました父上! 重騎士です!」
やり直しの利かない一度きりの勝負で、熟知しているインチキクラスを引けたのは大きい。
俺は嬉々としてそう報告した。
だが、父は、引き攣った顔で俺を見る。
「い、今……何と言った? け、剣聖と、そう言ったのであるよな?」
父の表情を見て、遅れて思い出した。
前世の記憶と混合していた。
この世界では、わかりやすい強クラスが持て囃されており、晩成型やテクニカルなクラスへの評価が低いのだ。
恐らく、クラスの解析と検証が進んでいないためだろう。
「いえ、その……」
俺が言い淀むと、父は鬼のような顔をしてつかつかと歩み寄ってきた。
「おい見せろ……見せよ!」
俺の横に立ち、〈ステータス〉を覗き見る。
「じゅ……重騎士だと!? どういうことだ! 〈ステータス〉が軒並み低い上に、ロクな攻撃スキルも覚えぬ、ただの木偶人形……まごうことなき外れクラスではないか!」
父が唾を飛ばし、俺をそう罵倒する。
俺は理解が追い付かなかった。
父は自分勝手なところはあるが、自身の子息である俺に対しては、厳しいながらに優しい面もあった。
それが、こうも一変するとは思ってもいなかった。
「お、落ち着いてください。軒並み低いわけではありません、HPと防御力は最上位クラスで……」
「どうでもよいわそんなことは! お、俺の顔に、泥を塗りおって! 他家の貴族に、どう説明しろというのだ! エドヴァン家の血筋で、こんな外れクラスを引こうとは! 貴様の怠慢と、腐った性根が原因に違いない! それ以外に考えられんわ! この、この役立たずめ!」
父は俺の襟を掴むと、そのまま床へと引き倒した。
身体を打ち付けることになった。
「かはっ! げほっ……」
横っ腹を打ち付け、体内の空気が外へと押し出される。
さすがに手加減はしているだろうが、前線に出て何度も魔物の討伐を行ってきた父の筋力を、【Lv:1】の状態で受けたのだ。
命があってよかった。弾みで殺されかねない。
「はぁ、はぁ……チッ! こんな事態を想定したわけではないが、館内で行ってよかったわい! 外でこんな赤っ恥を晒したら、エドヴァン家がどうなることか!」
父はそう怒鳴ると、がしがしと自身の頭を掻く。
「ああ、エルマなどを信頼しておったのが間違いであったのだ! この出来損ないの次に、子に恵まれんかったのが俺の不幸だ! もう少し早くに手を打たねばならんかった!」
親族達も黙りこくって、俺達の様子を眺めていた。
父同様に、俺を見下しているような目もあった。
同情してくれているらしい人もいるが、何も口を挟むことはしない。
エドヴァン伯爵家は当主の言葉が絶対である。
というよりも、クラスとレベルが全てを支配するこの世界では、貴族や権威者の力が俺が元いた国、日本よりも遥かに強いのだ。
上位貴族の当主は皆、強大なクラスと絶対的なレベルを有した人類最強格の英雄ばかりで、平民が絶対に逆らえない社会になっている。
〈マジックワールド〉ではそこまでではなかったのだが、ゲームの世界が現実と擦り合わせられた結果とでもいうべきなのか。
「あの、ボクも〈加護の儀〉を受けることになっているんだけど、いい?」
静寂を破ったのは、黒髪の少女だった。
ぱっちりと開いた目に長い睫毛で、色白で綺麗な肌をしている。
整った顔立ちこそしているが、薄い表情と、だらりと伸びた髪が、何となく不吉な空気を漂わせていた。
彼はエドヴァン伯爵家の分家の子女……つまり叔父、父の弟の娘である。
名前をマリスという。
幼少の頃は何度か遊んだ覚えがあるが、父は何となく俺とマリスが会うのを嫌がって遠ざけようとしている節があり、ここ五年は遠目に見る程度で、ほとんど言葉を交わしたことさえなかった。
「し、しかし、その、今は……!」
マリスに急かされた老神官は、そう言ってちらりと俺へ目をやった。
父が落ち着くまで、後回しにしたいと思ったのだろう。
「いや、よい。早く〈加護の儀〉を始めろ」
だが、父は急にすっと表情を切り替え、老神官へとそう伝えた。
俺はそのとき、なんとなく嫌な予感がしていた。
すぐに老神官が、また俺へとそうしたように、マリスへと〈バプテスマ〉の魔法を掛ける。
マリスは〈ステータス〉を開くと、口許を歪め、微かに笑みを浮かべた。
「剣聖……か。悪いね、エルマ様の才を、奪ってしまったみたいで」
嫌な予感が的中した。
自尊心が高く、傲慢な父だ。
日頃、分家の者を下に見て、暴言を吐いたり、無茶な命令を出したりしていたこともある。
その子女が剣聖のクラスを得たと知れば、ただでさえ悪い父の機嫌が……。
「素晴らしいぞ、マリスよ……! さすが、エドヴァン家の人間だ!」
父は感涙を流し、マリスへと抱擁した。
「マリス、今日からお前は我が娘……エドヴァン伯爵家の跡継ぎだ!」
俺は呆気に取られ、ただただその様子を眺めていることしかできなかった。
他の者達も同様である。
マリスは父の抱擁に対し、いつも通り無感動な目で、彼の顔を観察しているようだった。
その後ちらりと俺を振り返り、目が合った。
それからまた口許を歪め、薄い笑みを湛えた。
「エルマ様……いや、エルマに次期当主は荷が重いと、前々から思っていましたよ」
マリスがそう言うと、父はそこでようやく俺のことを思い出したように彼女への抱擁を解き、俺へと振り返った。
「失せよ、エルマ! 俺の期待を裏切った貴様は、もはや息子ではない。エドヴァン家の本家に重騎士が出たなど、恥でしかないわ! 即刻、この館から出ていけ!」
「ち、父上、それはさすがに……! 重騎士は、強いクラスなんです! 俺が必ずエドヴァン家を……!」
「黙るがいい! 俺が酷なことを言っていると思うか、エルマ? 違う! 貴様が、それだけのことをしたのだ! 二度とその面を見せるな! 外でエドヴァンの姓を名乗るなよ、そのときは俺が貴様の首を刎ねてやるわ!」
父は癇癪を起したようにそう喚き、俺の言葉を聞き入れてはくれなかった。
俺は僅かな金銭だけ持たされ、その日の内に館を追い出されることになった。
◆
「クソ親父め……酷い目に遭った」
顔が割れれば面倒なことになりかねないため、馬車を用いてエドヴァン家の館のある街からは離れ、その隣街である都市ロンダルムまで来ていた。
エドヴァン伯爵領からは出ていないものの、特に俺の顔が隣街の領民にまで広まっているわけではない。
馬車の遠出にも場所と時間が掛かる。
しばらくは、この街を拠点に生活することになるだろう。
俺は街で取った宿のベッドに腰を掛けていた。
本当に酷い目に遭った。
転生前の記憶が戻っていなければ、一生立ち直れなくなるところだっただろう。
ただ、前世の戻った俺としては、正直貴族の暮らしはごめんであった。
この世界の貴族は権力が強いが、それは強者としての義務を負っているためだ。
自由に旅をしながら生きていた方がよっぽど気楽に暮らせるだろう。
「せっかく手に入れた〈マジックワールド〉の世界……節々まで自由に堪能させてもらわないとな」
ただ、ゲームの設定とこの世界の歴史や風土は全く違う。
国名も地名も何一つ一致しない。文化もかなり違っている。
この辺りはまた追々調べていく必要がありそうだ。
……しかし、その前にまず、クラスとスキルの検証だ。
これが一番楽しみだ。ただ、ここの仕様が変わっていたら、かなりの痛手になる。
知らない間にアプデされていて、重騎士の壊れ性能がなくなっていたらとんでもない事態だ。
貴族次期当主の立場であれば、周囲に説明のできない奇行に奔走することはできなかっただろう。
「やるべきことはいくらでもある。なんだ、丁度いいじゃないか」
それに、父親だってあんな奴だとは思っていなかった。
いや、前世の記憶を取り戻して価値観が広くなった今としては、身勝手で無茶ばかり口にして、他人に厳しく自分に甘い男だったと認識できる。
エドヴァン伯爵家は当主に意見できる人間がいないせいだろうか。
次期当主となったマリスも、変わり者だとは知っていたが、あんな奴ではなかったはずだ。
俺を見て、嘲笑っていた。
覚えはないが、恨みでも買っていたのだろうか。
しかし、追い出したいなら、出ていってやるさというようなものだ。
ほとほとあんなところ、出る口実ができてよかった。
俺は窓の外を見て、溜め息を漏らした。
「……さようなら、母上、父上」
無論、割り切れない気持ちはある。
あんな男でも今生の父だったのだ。
だが、今は前を向いて行くしかない。
ぼうっとしていれば野垂れ死ぬだけだ。
パン、と自分の頬を打った。
「よし、しんみりタイム終わり! クソ親父の千倍強くなって、見返してやらないとな」
何せこっちにはそれだけの知識という武器がある。
「〈ステータス〉」
俺の言葉に応じて、光が宙に俺の上方を投影していく。
――――――――――――――――――――
【エルマ・エドヴァン】
クラス:重騎士
Lv :1
HP :10/10
MP :4/4
攻撃力:3+5
防御力:3+5
魔法力:5
素早さ:3
【装備】
〈下級兵の剣〉
〈鉄の鎧〉
【特性スキル】
〈なし〉
【通常スキル】
〈なし〉
【称号】
〈なし〉
――――――――――――――――――――
改めて自分のステータスを確認する。
〈下級兵の剣〉と〈鉄の鎧〉は、宿に来ると途中に適当に見繕ったものだ。
これで最低限の格好がつく。
自身のステータスよりも遥かに強い武器は、重くてまともに扱えない。
今はこれが限界である。
どうせすぐ役に立たなくなるが、今はこれでいい。
初期のレベルは装備さえ整っていれば簡単に上げられるため、ここで惜しむべきではない。
俺は〈ステータス〉へと手を触れる。
「スキルツリー画面っと……」
〈ステータス〉にはもう一つの画面がある。
それがスキルツリー画面である。
――――――――――――――――――――
【スキルツリー】
[残りスキルポイント:5]
〈重鎧の誓い[0/100]〉
〈防御力上昇[0/50]〉
〈下級剣術[0/50]〉
――――――――――――――――――――
これは要するに、自分がどの分野のスキルを得るかを選択できる、というものである。
各スキルツリーにスキルポイントを割り振り、それに応じたスキルを得ることができる。
[残りスキルポイント:5]となっているが、これはクラスを得た際に手に入る初期ボーナスのポイントである。
後はレベルが一つ上がるごとに【1】ずつ増えていく。
どう割り振るかが命運を分けるといっても過言ではない。
スキルツリーはクラス固定のものと、キャラメイク時にランダムで手に入るものの二種類がある。
この中で固定は〈重鎧の誓い〉だけだ。
〈重鎧の誓い〉は重騎士専用スキルツリーである。
最弱のネタスキルツリーといわれていた。
嵌ればまあまあ強いが、圧倒的に扱い辛かったり、そもそも使用タイミングのないものが多いのだ。
〈防御力上昇〉はそれなりに有用なスキルツリーだ。
スキルは手に入らないが、ひたすら防御力をぐんぐん伸ばすことができる。
〈下級お前、スゲェ奴だな!剣術〉もまあ悪くない。
伸ばしきれば、特殊なアイテムを用いて上位の剣術スキルツリーへ進化させることができる。
どちらも実用性が高い。
「ま……こうするんだけどな」
〈ステータス〉に手で触れて操作する。
――――――――――――――――――――
【スキルツリー】
[残りスキルポイント:0]
〈重鎧の誓い[5/100]〉【+5】
〈防御力上昇[0/50]〉
〈下級剣術[0/50]〉
――――――――――――――――――――
〈重鎧の誓い〉が最弱のネタスキルツリーといわれていたのは、あくまで〈マジックワールド〉の初期の時代の話である。
検証され尽くした今、最強のスキルツリーであることは証明済みだ。
スキルツリーを最大にするまで最短でも【Lv:95】まで掛かるのだ。
しょうもないステータスアップや、他クラスの劣化スキルツリーの〈下級剣術〉に振っている余裕はない。
【〈重鎧の誓い〉が[2/100]になったため、通常スキル〈城壁返し〉を取得しました。】
【〈重鎧の誓い〉が[5/100]になったため、〈防御力:+10〉を取得しました。】
よし来た。
俺はニヤリと笑った。
――――――――――――――――――――
〈城壁返し〉【通常スキル】
相手の近接攻撃の直撃を受けてダメージを封殺できた場合、スキル使用者の防御力に応じたダメージを与えることができる。
――――――――――――――――――――
ダメージ封殺とは、こちらの防御力が上回っており、ダメージを与えられなかった状況のことだ。
もっとも〈マジックワールド〉のダメージ計算式は基本的に【〈ダメージ〉=〈攻撃力〉-〈防御力〉/2】となっている。
無論、当たりどころや命中部位に左右されるが。
要するに完封状態を出すことは難しく、格下相手にしか通用しない。
だが、ここで先程〈重鎧の誓い〉で得た、オマケの防御力上昇が生きてくる。
初期レベル帯における【防御力:+10】は大きく、防具をしっかり整えていれば、ロクな攻撃スキルもない低レベル帯の魔物ではほぼ突破できない。
そうして安易に飛び込んできた魔物は、重騎士の重い防御力を受けて消し跳ぶことになる。
中には状況次第で突破してくる魔物もいるが、俺は魔物の大まかなステータスを把握している。
怪しい魔物がいれば戦わなければいいだけだ。
「さて、明日が楽しみだ」
翌日、俺は都市ロンダルムの近隣にある森へと来ていた。
ここには手頃な強さの魔物が出没すると事前に確認していた。
なるべく街に近い浅い場所を徘徊しておけば、万が一の事故が起きることもないだろう。
こっちは【Lv:1】なので、その手の事故は何としてでも回避する必要がある。
まずは低レベル帯を抜けないと話にならない。
城壁作戦でレベルを上げさせてもらおう。
「ゲコッ! ゲコッ!」
しばらく森を歩いていると、早速魔物が現れた。
青いぬめぬめとした身体を持つ、全長一メートル程度の魔物……ラーナである。
鳴き声から察する通り、カエルをモチーフとした化け物だ。
「〈ステータス〉」
俺は魔物へと剣を向ける。
――――――――――――――――――――
魔物:ラーナ
Lv :2
HP :7/7
MP :3/3
――――――――――――――――――――
〈ステータス〉には、対象の簡単なレベルとHP、MPを確かめる力もある。
他のステータスやスキルはわからないが、レベルだけわかれば大体は見当がつく。
「ゲコォッ!」
ラーナが飛び掛かってくる。
俺はそれを敢えて鎧の胸部で受け止め、弾き返す。
「〈城壁返し〉!」
鎧が輝きを帯び、ラーナが吹き飛んだ。
向こうの方がレベル上であったにもかかわらず、ラーナは身体が弾けて手足が飛び散った。
【経験値を2取得しました。】
【レベルが1から2へと上がりました。】
【スキルポイントを1取得しました。】
頭にメッセージが響く。
無事に初のレベルを上げることができた。
「……しかし、こうして見るとえげつないな」
重騎士の攻撃力は低い。
普通に戦えば、こちらのダメージもほとんど通らない。
泥仕合になっていただろう。
何なら〈下級剣術〉にスキルポイントを振っていれば、普通に殴り負けていた可能性も高い。
余計な体力を使えば、今日稼げる経験値が減少する。
効率的にサクサク行こう。
潰れたラーナの死骸の肉が溶け、青い石だけが残っていた。
水属性の魔石だ。
魔物は不安定なマナの塊であり、命を失えばその肉体は消え失せる。
そうして核である魔石だけを残すのだ。
「【Lv:2】の魔石……安いだろうが、まあ今は確保しておくか」
俺は青い石を拾い上げたとき、後ろから慌ただしい音が聞こえてきた。
「たすけっ、助けてくれぇ!」
振り返ると、こちらへ走ってくる、剣士の男が目についた。
俺と同じくらいの歳だ。
「冒険者か」
あまり狩場で冒険者同士がかち合うのはよくない。
余計なトラブルの許になる。
「ここっ、殺される! 殺されるぅ!」
剣士が悲鳴のような声を上げる。
彼の背後に、十近いラーナの姿が見えた。
「ゲェッ! ゲェッ!」
こちらを威嚇するように鳴いている。
魔物の群れの擦り付けはマナー違反もいいところだが、自身の命が懸かっているのだ。
仕方のないことだろう。
「俺に任せろ」
俺は剣士とすれ違うように前に出た。
「おっ、お前! ほ、本当に行けるのか? あ! そんな身なりで、実は名の通った冒険者だったり……!」
「実はさっき、生まれて初めてレベルが上がったところだ」
俺が正直に口にすると、剣士ががっかりと肩を落とした。
「だ、駄目じゃないか! 俺より全然弱っちいじゃないか! 新人があんな数の魔物捌けるわけないだろ! よ、鎧脱げ! そんなもん装備してたら、逃げられる相手も逃げられなくなるぞ!」
剣士が慌ただしく俺へとそう言う。
十近い数のラーナが飛び掛かってくる。
俺は剣を後ろに下げ、ぐっと身体に力を入れた。
「ゲェェェェエエエッ!」
「フンッ!」
〈城壁返し〉を発動させる。
俺に飛び掛かってきたラーナが、次々に爆ぜていった。
一体、また一体と。
【経験値を2取得しました。】
【経験値を3取得しました。】
【レベルが2から3へと上がりました。】
【スキルポイントを1取得しました。】
【経験値を4取得しました。】
【レベルが3から4へと上がりました。】
【スキルポイントを1取得しました。】
次々に俺のレベルアップを示す声が響いてくる。
ものの二分で、辺りは青いラーナの体液塗れとなっていた。
「フンッ!」
最後の一体を〈城壁返し〉で吹き飛ばす。
【経験値を2取得しました。】
【レベルが7から8へと上がりました。】
【スキルポイントを1取得しました。】
あっという間に【Lv:8】になってしまった。
これでスキルポイントは【7】溜まった。
【称号〈不動の者〉を得ました。】
ついでに称号を手に入れた。
何らかの条件を達成したことを称えるためのものである。
――――――――――――――――――――
〈不動の者〉【称号】
攻撃行動を取らずに十体以上の魔物を討伐した証。
静止状態での防御力を【+10%】する。
――――――――――――――――――――
これでまた〈城壁返し〉の発動条件を満たしやすくなった。
称号はスキルやスキルツリーを得る条件になることもある。
積極的に集めていく必要がある。
「ふむ、順調だな」
システムに関しても、今見た限りは〈マジックワールド〉と同一と考えて問題なさそうだ。
「た、助かったが……お前、何者だ?」
剣士は、森で妖怪にでも会ったかのような顔で俺を見ていた。
「命の恩人に酷い言いようだな」
俺は言いながら〈ステータス〉を開き、確認を行う。
――――――――――――――――――――
【エルマ・エドヴァン】
クラス:重騎士
Lv :8
HP :10/28
MP :4/11
攻撃力:7+5
防御力:24+5
魔法力:9
素早さ:9
【装備】
〈下級兵の剣〉
〈鉄の鎧〉
【特性スキル】
〈なし〉
【通常スキル】
〈城壁返し〉
【称号】
〈不動の者〉
――――――――――――――――――――
よしよし、各ステータスも問題なく伸びている。
これでもっとまともなレベル上げを行えるようになったというものだ。
「俺はアレスってんだ。冒険者になりたくて田舎村から出てきたんだが……【Lv:1】でパーティー組んでるのなんて、元々の知り合いばっかりみてぇでよ。せめて【Lv:3】までは単独で上げてる奴じゃなきゃ信用できないって言われて、焦っちまってたんだ。本当に助かったぜ、また改めて礼がしたい」
「俺はエルマ・エルド……いや、ただのエルマだ」
家名を口にするなと、クソ親父からそう言われていたな。
「礼なんて考えなくていい。丁度いいレベル稼ぎになった。魔石は全部、もらっていくがな」
「エルマか! なぁ、戻ったら二人組のパーティーに入れてもらえる当てがあるんだが、エルマも来ないか? 一人でフラついてたってことは、お前もあぶれてたんだろ? 防御特化のクラスは低級冒険者の間じゃ不人気だろうが……俺は、お前をスゲェ奴だと思う! 絶対他の連中も説得してみせる! 今、助けてもらった恩もできたからな!」
アレスはぐっと握り拳を作り、熱くそう語った。
「いや、結構だ」
「な、なんでだよ……。今の戦い方、盾クラスなんだろ? 一人でやってたって、一生レベル上がんないぞ? 変な意地張らずに……」
「俺が一人で戦えるところは、今証明したと思うが」
「確かに……」
アレスの言うことは正しい。
通常、防御特化のクラスは、敵の攻撃を引き付け、仲間を守ることでその真価を発揮する。
ただ、俺のやりたいレベル上げでは、ぞろぞろと仲間を連れていれば、経験値が分散されるばかりで美味しくないのだ。
他の者達が俺の言葉を信じてくれるかどうかも怪しい。
アイテムやスキル、称号の獲得も行いたい。仲間を何人も連れていれば動きにくいだけだ。
……それに、仲間にするならば、探索に特化したクラスか、できることの多い万能型の魔術師クラスがありがたい。
もっともどちらのタイプも爽快に戦える機会が少ないため〈マジックワールド〉でも使用者は少なく、需要は恐ろしく高かった。
そう都合よく仲間にはできないだろうが。
「でもよ、今のやり方だといずれ無理が出るに決まってる! 低レベル帯を抜けたら、防御特化クラス一人じゃやっていけねぇ相手ばっかりだ!」
「やりよう次第で何とでもなるからなぁ……」
スキルツリーも、クラス固有のものでさえなければ、アイテムや聖職者系のスキルを用いて、新たに得ることもできる。
〈初級剣術〉と〈防御力上昇〉を捨てて必要なスキルツリーを得れば、充分攻撃性能も補える。
その自由度の高さが〈マジックワールド〉の人気要素でもあった。
……もっとも、スキルポイントは取り返しのつかない要素なので、スキル構成に失敗して引退する人も多かったが。
「エルマ、俺はお前のために言ってんだよ! お前、スゲー奴だよ! だからこそよ、ソロで効率悪く続けようとしてるのなんか放っておけねえよ! ラーナばっかり狩れたって仕方ないだろ? 俺と一緒にもっと上を目指そうぜ!」
アレスがそう口にしたとき、どさりと俺達の前方に魔物が落ちてきた。
巨大な蜘蛛である。
真っ赤な毛に全身が覆われており、全長二メートル以上はある。
頭部は赤毛であるものの、巨大な口のついた、八つ目の猿になっていた。
「ギィイイイイイイイイ!」
アランダエイプが、牙の並んだ口を開けて咆哮を上げる。
「う、う、嘘だろ……!?」
アレスが絶望の声を出す。
俺は素早く〈ステータス〉で調べた。
――――――――――――――――――――
魔物:アランダエイプ
Lv :16
HP :31/31
MP :11/11
――――――――――――――――――――
レベル倍の魔物だった。
……こういうのに遭遇しないように、都市浅くでやってたんだがな。
アランダエイプは毒を持っており、素早く、移動妨害の毒を吐く。
そして攻撃力が高く、気配を隠すスキル〈忍び足〉を持つ。
どうやらアレスが逃げ回っている間に、アランダエイプを引き付けてしまっていたらしい。
アランダエイプは好戦的で足が速い。
〈城壁返し〉も、格下虐めのスキルであって、格上相手にはほぼ無力だ。
攻撃の直撃を完封しなければ、発動条件を満たせない。
攻撃完封の条件は、相手の攻撃力の倍の防御力が必要となる。
同格相手に使えるスキルではない。
おまけにアランダエイプは〈火炎爪〉のスキルを有している。
腕の速度を引き上げ、同時に攻撃力を受ける。撃たれればその瞬間にお終いだ。
「さ、さすがに、お前にコイツを押し付けるわけにはいかねぇ……! おおおお、俺が引き付ける! そ、その内に逃げてくれ……!」
アレスが俺へとそう提案する。
勇敢な言葉とは裏腹に、言った傍から後悔していそうな程に足が震えていた。
「……いや、俺がやろう。任せてくれ」
俺の頭の中には、前世で貯め込んだ〈マジックワールド〉の知識が総動員していた。
レベルだけ分かれば、アランダエイプの他のステータスも全て割り出せる。
さっきからずっと考えていて、結論が出た。
この勝負、勝てない相手じゃない。
「む、無茶だ! いくらなんでも! アランダエイプは、新人がどうこうできる程度の魔物じゃない! お前が凄いのはわかったが、物理的にどうしようもない!」
アレスが顔を真っ蒼にして叫んだ。
確かに、そう思うのも無理はない。
これだけレベル差があれば、こちらの攻撃はロクに通らず、逆に向こうの攻撃は全てが致命傷だ。
だが、俺には〈マジックワールド〉時代の百戦錬磨のデータがあった。
「〈ステータス〉!」
俺は前へと出ながら〈ステータス〉を開き、スキルツリーの画面を操作する。
さっき手に入れた【7】のスキルポイントがある。
――――――――――――――――――――
【スキルツリー】
[残りスキルポイント:0]
〈重鎧の誓い[12/100]〉【+7】
〈防御力上昇[0/50]〉
〈下級剣術[0/50]〉
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勿論、〈重鎧の誓い〉に全振りだ!
【〈重鎧の誓い〉が[10/100]になったため、通常スキル〈ディザーム〉を取得しました。】
今俺がアランダエイプに勝つのに必要なスキルだった。
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〈ディザーム〉【通常スキル】
斬りつけた相手の攻撃力を短時間の間、一段階減少させる。
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こちらが攻撃に成功した場合、一時的に相手の攻撃力を下げるスキルだ。
正確には、きっかり一分間、【20%】減少させる。
「来いよ、猿蜘蛛。俺が相手をしてやる!」
俺はアランダエイプへとそう叫んだ。
アランダエイプの八つの目が俺を睨む。
「ギィイイイイイ!」
ハイリスク、ハイリターン……。
〈マジックワールド〉でレベルを上げたければ、格上をガンガン狩っていくしかなかった。
この世界もきっと同じなのだ。
「こういうときが一番燃える」
アランダエイプが大きく口を開ける。喰らいついてくるつもりだと、すぐにわかった。
俺は間合いの外側で足を止め、アランダエイプとの距離を保ちながら左側へと移動した。
伸ばした頭は、俺には届かない。
アランダエイプは俺より遥かに速い。
だが、モーションや動きのパターン、リーチはわかっている。
そう安々とは当たらない。当たるところに入らなければいいのだ。
ましてや相手は知性のない魔物だ。
アランダエイプは隙を晒したが、ここでは踏み込まない。
一撃入れても、その後に〈ファイアネイル〉の反撃を受ければ、俺なんて一撃で殺される。
アランダエイプが前脚を伸ばして殴り掛かって来るが、俺はそれも大きく退いて回避する。
「ギィイイイイイ!」
アランダエイプが叫ぶと、魔法陣が浮かび上がり、仄暗い緑色の光が飛んできた。
相手を毒状態にする〈ポイゾ〉のスキルだ。
間合い外をうろちょろする俺が鬱陶しくなり、遠距離で攻撃できる魔法を使ったのだ。
俺の狙い通りだ。
俺は真っ直ぐ、アランダエイプへと飛び掛かった。
格上がこの距離で放った魔法は、まず避けられない。
だったら、被弾覚悟で突撃する。
状態異常付与の魔法なので、即死させられることはない。
俺に〈ポイゾ〉の光が当たり、気分が一気に悪くなった。
俺は吐き気を堪えながら刃を振るう。
「〈ディザーム〉!」
刃が紫の光を放ち、アランダエイプの首を斬った。
だが、剣がまともに通らなかった。
ほとんど効いていないようだったが、しっかりと【攻撃力減少】は乗ったはずだ。
「ギィイイイイ!」
アランダエイプは前脚を持ち上げ、その先の爪に炎を灯そうとした。
〈ファイアネイル〉のスキルだ。
「それは成功しないぜ。〈ポイゾ〉はMP消費【7】……〈ファイアネイル〉はMP消費【5】だ」
そしてこのアランダエイプのMP最大値は【11】である。
既に〈ファイアネイル〉は使えない。
だからあの間合いを保ち、〈ポイゾ〉を使わせたのだ。
〈ファイアネイル〉は炎属性のマナを宿し、その際のマナを流用して瞬間的な筋力を引き上げるスキルだ。
故に魔法系統のスキルでないながらも、MPの消耗量がやや高い。
アランダエイプの隙を突き、俺は再度剣を振るった。
「〈ディザーム〉!」
〈ディザーム〉の攻撃力減少効果は、最大で三回まで重複する。
もっとも一分しか持たないため、しつこく〈ディザーム〉をくらわせていれば、その間に最初に掛けた効果が切れてしまうが。
これでアランダエイプが受けた〈ディザーム〉は二発、攻撃力が【40%】減少している。
俺は逃げるようにアランダエイプから距離を取る。
アランダエイプはちょこまかと動き回る俺に苛立ちが募っているようで、間髪入れずにすぐさま後を追って突進してきた。
俺はアランダエイプへと向き直り、正面から胸を張って待ち構えた。
これで条件は整った。
MP切れで手持ちのスキルが使えず、〈ディザーム〉を二発受けて攻撃力を二段階減少させたアランダエイプ。
そして俺は称号〈不動の者〉のお陰で、静止状態での防御力が【+10%】される。
戦闘決心前に脳内でシミュレーションしたが、この条件であれば丁度アランダエイプの攻撃を封殺し、〈城壁返し〉の発動条件を満たすことができる。
「ギィイイイイイッ!」
アランダエイプが、俺の鎧の胸部に牙を立てる。
その直後、鎧が輝きを帯びてアランダエイプを弾き返した。
「〈城壁返し〉!」
アランダエイプの巨体が軽々吹き飛び、その場にひっくり返った。
「ギ、ギ、ギィ……」
アランダエイプが、八つの目で俺を睨む。
「まだ生きてるのはさすがだが、これで終わりだ!」
俺は飛び掛かり、アランダエイプの腹部に刃を突き立てた。
〈城壁返し〉で大ダメージを受けていたアランダエイプは、この一撃でついに息絶えた。
【経験値を28取得しました。】
【レベルが8から12へと上がりました。】
【スキルポイントを4取得しました。】
アランダエイプの身体が溶けていき、茶色のくすんだ輝きを帯びた魔石が残った。
地属性の魔石だ。
ふむ、それなりの大きさがある。
「予想外のトラブルだったが、初日で【Lv:12】まで持っていけたのはありがたいな」
俺は早速〈ステータス〉を開き、ポイントを割り振った。
――――――――――――――――――――
【スキルツリー】
[残りスキルポイント:1]
〈重鎧の誓い[15/100]〉【+3】
〈防御力上昇[0/50]〉
〈下級剣術[0/50]〉
――――――――――――――――――――
む……?
【4】全て振りたかったのだが、【15】までしか入らなかった。
【現在、これ以上〈重鎧の誓い〉を成長させることはできません。】
覚えのあるメッセージだ。
〈マジックワールド〉の
少し歯痒いが、まあこれは大した問題ではない。
すぐに解決できる。
【〈重鎧の誓い〉が[15/100]になったため、通常スキル〈パリィ〉を取得しました。】
それよりも、こっちの恩恵の方がずっと大きいというものだ。
これで基本スキルが揃ってきた。
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〈パリィ〉【通常スキル】
剣や盾で相手の攻撃を受け流し、隙を作る。
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〈パリィ〉は強力なスキルだ。
使用者の知識と技量次第への依存が大きく扱い難いと言われていた時期もあったのだが、それは即ち実力者同士の戦いであればとんでもない反則技に化けるということだ。
「お、お前……本当に何者なんだ……?」
アレスは呆然とした顔で、俺の手にしている魔石を見つめていた。
「……確かにこの調子なら、どこまでも一人でやってけそうだな……。余計なお世話だったみてぇだ。俺なんかが心配することじゃなかったな」
アレスは少し寂しげにそう零す。
「なんだか悪いな」
俺はそう返すと、〈ステータス〉を閉じて魔石を〈魔法袋〉に入れた。
〈魔法袋〉は見かけ以上に物を入れられる便利アイテムであり、その利便性から相応に値が張る。
エドヴァン伯爵家で使っていたものをそのまま持ってきたのだ。
これで俺の知識は問題なくこの世界でも活かせるということがよくわかった。
父やマリスに報復……なんてことは考えちゃいないが、父が聞いたら驚いて悔しがるくらいには、力を付けて活躍してやろう。
わざわざエドヴァン伯爵家になんか固執しなくとも、俺はこの世界でやりたいことが、これでもかと山積みに残っている。
「どこまで俺が強くなれるか、試してやろうじゃないか」
俺は空を見上げ、笑いながら呟いた。
◆
エドヴァン伯爵家の館の一室にて、マリスは彼女特有の仄暗い笑みを浮かべていた。
あの騒動以降、分家の別邸からすぐさま移ることになったのだ。
使用人達が大急ぎでエルマの家具や寝具を捨て、彼女の部屋を用意した。
「ここでエルマが、十五年間暮らしていたんだ。ああ、エルマのものなら、捨てなくてもよかったのに。勿体ない」
マリスは壁へと舌を這わせ、恍惚とした表情を浮かべる。
「あんなことになるとは思ってなかったけど……それにしてもあの様子、母様の言ってたこと、本当だったんだ。元々疑ってはいなかったし、まぁ、どうでもいいことだけど」
幼少の頃から、マリスにはある変わった悪癖、趣向があった。
大事なもの程、愛しているもの程、自分の手で台無しにしたくなるというものである。
「エドヴァン伯爵家には関心はないけど、利用できるものは利用しないと。追い出されたとはいえ、エルマが実家を潰されて平然としているような人でないことは知っているもの」
そのとき、扉をノックする音が響く。
「マリスや。次期当主として、お前にはレベルを上げる義務がある。早速、〈
エルマの父、当主アイザスだった。
機嫌を窺うような猫撫で声であった。
「はい、当主様」
「フフ、父と呼んでくれても構わんのだぞ、マリス」
アイザスは上機嫌にそう口にした。
アイザスとて、己の実子に愛情がないわけではない。
だが、それ以上に、彼の優先順位はまず伯爵家のことであった。
自分の息子であるエルマがハズレクラスになるとは考えていなかったし、こうなったのはエルマが自身の期待を裏切って陰で怠けていたからに違いないと考えていた。
――アイザスは、いずれエルマに頭を下げて戻ってきてくれと泣きつくことになるなど、このときにはまだ、露程にも思っていなかった。
【短編版】追放された転生重騎士はゲーム知識で無双する 猫子 @necoco0531
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