Side P 32(Moriyasu Agui) 折衝2
「なるほど。さすが我がプロジェクトチームの精鋭だな」
15年間情報を飛ばし続ける技術について、乗せる電波の種類、利用する人工衛星などをまとめて、時任先生に説明した。
時任先生は、中央省庁との折衝のための準備で
「ありがとうございます。先生の方はどうなんです?」
「ああ。取りあえずは
やはり、話が大きくなったな、というのが素直な感想だ。
「でも、要望書が提出されてから、また時間がかかるんじゃないですか」
「なるべくそうならないように、内々には話は伝えてあるよ。内閣府の宇宙開発戦略なんたら事務局と、総務省の総合通信基盤局……だったっけな? 上層部はいろいろと顔が広い。僕のような研究一色の人間と違ってね。計画を遂行するにはそれなりにお金もかかることだろう。補正予算を組んでもらわないといかんからな」
行政機関との
「分かりました」
「やれる限りの手は尽くしていると思う。あとはもう、人事を尽くして天命を待つ、果報は寝て待てだ。でも、要望書の手交に当たっては、ポアンカレくん、君には随行してもらうことになると思う」
「一緒に行くんですか?」
「ああ。間違いなくお声がかかるだろう。だから、スーツは
「……そうですね」
普段、ポロシャツとかせいぜい白衣を
「あと、
何だか、急に若者を諭すようなアドバイスになってきたが、本当に研究だけをやってきた自分もまた、いわゆる世間の一般常識に疎かった。時任先生も若い頃はそうだったのだろう。親心で言ってくれているのだろう。
「そうですね。32になりましたからね」
「え? ポアンカレくんって、もう32!? まだ25くらいかと思っとった!」
この発言に俺はずっこけそうになった。ずっと長く付き合ってきているのに、どうしたらそんな計算になるのだろう。
「25なわけないじゃないですか? 大学卒業して大学院も修了して、結婚して子どもも生まれて、そして離婚までしてるんですよ」
「いやー。僕の中じゃ、ずっと教え子感覚なもんでねぇ。ほら、ポアンカレくんって大学時代から見た目がほとんど変わってないから」
「そりゃ、毎日いますから。先生だって、俺からしたらあんまり変わってないですし」
時任先生は研究以外のことは無関心だから、時にこんな
「センセー、あたしだって、もう27なんですよぉ。時間が経つのって早いですネー」
横から慧那。
「まじか!?」
慧那は相変わらず金髪にメッシュ、たまにウィッグを付けたりやヘアエクステを編み込んだりして、ギャル感満載である。白衣を着ているので、コスプレでもやっているかのような
5歳差だから27歳なのは当たり前なことだから、どうもこの
「だって、センセーが大学生の頃、あたしJKだったんですヨ。さりげに結婚適齢期なんですから」
「……」
結婚適齢期が誰に対するアピールなのかもどんな意図があるかも分からない。セクハラになるから「相手はいないのか」とかも聞けないし、返せる言葉はなかった。
「センセー、いま黙り込んだな。イイ人紹介してくださいよぉ」
「そういう返答に困る発言はよせ」
「あたしこー見えてイイ女ですよ」
「自分で言うなよっ」
慧那は本当に相変わらずだ。確実に時間は進み、俺自身に様々なライフイベントが訪れたはずなのに、ここにいる
このまま、時間の流れが止まり、C世界が訪れる恐怖から
†
そして、俺は、実施計画書の体裁を整え、JAXAの役員会で諮られ、承認が得られた。
「第一関門突破だな。次は、行政のトップ・オブ・ザ・トップ、中央省庁の官僚様たちに要望書を突き付けないとな」
「ありがとうございます。ひとまずホッとしました。協力してくれたみんなのおかげっすよ」
「そだな」時任先生は少し考える
時任先生がこういう提案するのは珍しい。研究者は、得てして個人プレーなので、突発的に飲みに行くという提案をあまりしない。
「イイですねー! 安居院先生も独り身ですし!」
そう言ったのは、坊主頭の野口研究員。本当にみんな
「じゃ、決定だね! 慧那、どっかいい店知ってる?」
「
†
急な飲み会の提案にも関わらず、参与の邨瀬を除くプロジェクトチームのメンバー全員が集まった。
「意外だったでしょ? あたし、こーゆー店も好きなんだよネ」
「慧那は飲めればどんな店でもいいんでしょ?」
「エヘ、バレた?」
慧那とは飲みに行ったことはないが、酒が好きだということはチームで周知の事実だ。
「今日は飲み放題らしいが、飯も好きな分だけ頼んでいいぞ。僕が奢ってやるから!」
「キャー、時任センセ、イケメン!」
既に酔っ払っているかのような、慧那のテンションの上がりっぷりに、先が思いやられた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます