Intermezzo 1

Intermezzo 1

 パンドラのはこを開けたものの、その後は何も主立った動きはなかった。理論上もシミュレーションも31年前の私に届いているはず。31年前と言えば私がまだ大学院にいたころだったか。


 本当は、33歳頃の自分に送りたかったが、それを待っているわけにはいかない。自分自身、宇宙の藻屑になっているかもしれないのだ。ワームホールの時間差を私がどうにかこうにかすることまではできない。

 

 大学院の頃の私は映画三昧だったから、これを見たら何か思うだろうか。偶然にもかつての妻そっくりに成長した娘を見て、何とかしようと思うかもしれない。時任先生にも相談しているはずだ。


 どうなるか分からない。でも、指をくわえてただ滅するときを待っているわけにもいかない。一縷いちるの望みだった。

 この世界を、そして大切なである妻と娘の命を救ってくれ。特に娘は、社会的な制裁を受けてきたが、私にとってはいまでも目に入れても痛くないほど可愛い我が子なのだ。その2つの命さえ救われれば、地位も名誉もすべて捨ててしまっても良い。


 31年前の私、いやそのときはまだ『俺』だったか。どうか、よろしく頼む。

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