Side P 15(Agui Moriyasu) 幸せの絶頂
マリと名乗った慧那の
思わず、海外の映画に出ていましたか、と問いたくなるほど、あの女優に似ている。あの映画を観たときの様に一目惚れしてしまったが、俺はこういう女性がタイプなんだなと自己分析する。
ガリ勉タイプで女っ気なんて皆無の野郎に囲まれてきた俺は、『SHION KADOKAWA』によく似たこの美女に心躍らないわけがなかった。しかも、JAXAに務めていると言う。俺は一方的に運命を感じた。
「センセー、何か顔が紅いよ!」
慧那に指摘されて、急に現実に引き戻される。
「バ、バカ言ってんじゃないよ!」
「ひょっとして、センセー?」
「とにかく黙らっしゃい!」
慧那はニヤニヤしていて、油断ならない。恋心が表に出ないように精一杯努める。
それにしても、慧那と仲良くしているというのも奇妙だ。いわゆるギャルと清楚なマリさんが共通の趣味を持つのも驚きであり、その共通の趣味が宇宙だという。そもそもいつも遊んでいそうな慧那が、宇宙に興味を持っていて難関の理科大学に合格したことも、人は見かけによらない典型例だと思うが、マリさんが宇宙に興味を持っていそうかと問われれば、見た目だけでは
「とゆーわけで、センセー帰るね!」
「お、おう」本当はマリさんを引き留めたかったが、実行に移せない。
「で、4月からも、大学で会うかもしれんから、よろしくね」
「あいよ」
そうか。慧那は合格して
「ポアンカレくん、どうした? 変な顔して。もう終わったぞ、帰ろうや」と、時任先生に言われてしまって恥ずかしくなった。
日曜日だったし、特に今日やらなければいけない研究もなかったので、途中まで時任先生と一緒に電車に乗り、そして自宅に直帰することにした。時任先生がいろいろ話していたが、見事なくらい記憶にない。マリさんに頭の中が占拠されていたのだ。
しばらく部屋のベッドの上でごろごろしながらマリさんのことを考えていると、スマートフォンにメッセージが届いた。
珍しいことに差出人は慧那だった。慧那とは連絡先を交換していたものの、メッセージを交換するのは初めてだった。そもそも俺が誰かにプライベートでメールなどを入れることはあまりない。ひょっとして、と思いドキリとする。
おそるおそるメッセージを開く。
『センセーさ、マリちゃんのことどー思う?』
前置きゼロでいきなり核心を突く鋭いメッセージに、数秒間何もできなかった。そして、その直後どう答えようかあれこれ悩む。虚勢を張って気がないように装う選択肢もあるが、ここは見栄を捨てた方が良さそうだ、そうしないと一生後悔しそうな気がした。
20分くらい悩み抜いた挙句、『素敵な女性ではないでしょうか』と送信。
虚栄心を捨てた結果がこんな事務的なメッセージでいいのかよ、と自分でも突っ込めるくらい無味乾燥とした回答。しかし、まったく意に介した様子なく、わずか20秒後くらいに慧那から返事が来た。
『センセーってどーせ彼女いないよね?』
『どーせ』とは何だと俺はイラッとしたが、そのさらに20秒後に再びメッセージが届いた。
『脈アリかもよ☆(≧∀≦) マリちゃん、センセーとお茶したいって!』
反射的にベッドから飛び上がった。本当かよ、虫の良すぎる話に、慧那の冷やかしではないかと
『ぜひご一緒させて欲しい』と興奮を精一杯抑えた結果、ギャルに送るメッセージにしては奇妙な文面になった。そして30秒後にまた慧那からメッセージ。最近のJKはメール打つのがこんなにも早いのか。
『良かったね。あんな超美女とデートなんて、センセーにとっては一生に一度あるかないかのビッグチャンスだよねっ! 紹介料は
数日慧那を通じてやり取りし、そのうちマリさんと直接連絡をするようになった。慧那の発言は嘘ではなさそうだということが分かって、俺は安心する。僅か2週間後、マリさんとダイニングバーで飲みに行くことが叶ったのだ。
マリさんは九州の地方出身と言っていただけあって、楚々とした見た目に反してお酒は強かった。24歳で俺と同い年、JAXAは宇宙好きが高じて就職したという。でも事務職だから、宇宙開発とか研究とかとはかけ離れた仕事をやっているのだと言う。本当は、研究の中身にも興味があるというようなことも言っていた。
俺は、普通の女子に話したらドン引きされそうな、相対性理論の話とかをした。すると思った以上に食いつかれた。
お酒に強いとは言っても、マリさんは焼酎で程よく酔っていて、「私も先生とタイムトラベルしたいな」なんて言う。
酔っているとは言え、この清楚な美人から、初めてのデートでこんな発言が出るとは意外だった。ところどころ、自虐的になったり、仕事で対人関係や仕事の内容に悩んだりすることが多いと言うので、その反動だろうか。
すっかり意気投合してしまったそんなマリさんと、恋人どうしの関係になるのに時間はかからなかった。悔しいが、慧那に『超特上焼肉』とやらをご馳走してやらないといけなくなりそうだ。
マリさんはやや俺に対する依存性が強く、束縛したい気持ちの強い女子であったが、そんなところも
俺は断る理由もなく、結婚を前提とした交際に切り替わった。結婚はさすがに大学院が終わってからにしてもらうことにしたが、彼女は、週末はうちに転がりこんで、そのうちアパートを引き払って、この狭い1DKに同棲という流れになった。
おかげさまで研究も順風満帆に進んでいた。論文の
一応、横浜理科大学にも籍を置くという。無給の非常勤職員である。これで、大学の一部の研究データの閲覧やメールの送受信できるという。これまで使っていた横浜理科大学のメールのアカウントも残ることになる。本当は一緒に仕事がしたかったという時任先生のわがままもあるのだが。
内定が出てからマリさんの両親にも会いに行った。熊本県の
ありがたいことに両親にも気に入ってもらった。俺の両親は俺が結婚できないと思っていたからか、特に反対はされなかった。
そして、大学院を卒業して就職初日に当たる4月1日に、俺、安居院守泰と
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