唇に紅はなく
白川津 中々
■
愛してるなんて白々しい台詞を聞いてうんざりするのも、もう慣れてしまった。
貴方が私に飽きた事、知らないはずがないでしょう? 巷に溢れている恋人同士のやりとりを版画みたいに刷ってばかりで、それで満足してらっしゃるんだから。退屈な女だって言って捨ててくれればいいのに、ほんと、情けない人。でも、それは私も一緒。夢も希望も捨てて枯れ果てた貴方なんかにちっとも魅力を感じないのに、それでも一緒にいるのはどうしてかしら。子供もいないし、お金も別に困ってないのに、愛も情もないまま、今日まで連れ合い。なんだか昔の名残ばかりに引きずられているようで、息苦しい。貴方と見ていた貴方の夢の残穢が、首を締める。
いったい貴方の夢はどこに飛んでいったのかしら。もし貴方のもとにまだ夢があったのなら、私は、私を愛していなくたって、貴方を愛していたでしょう。何もかも捨てたくせに、私だけ手元に残しておくだなんて、欲のない、惚れ甲斐のない男。そんな貴方なんて何一つ価値がないのに。芽が出なくたって、陽が当たらなくたって、私は夢のある貴方が好きだったのに。
料理を作って、掃除して、お茶を飲んで、貴方の帰りを待つばかり。せめて女の一人でも作って遊んでくればいいのに、そんな事もしないのでしょうね、貴方は。
愛してる。
白々しい台詞に、私も。と返す。くだらない、つまらないやり取り。ほんと、うんざり。
唇に紅はなく 白川津 中々 @taka1212384
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます