第28話 「琴葉と何かあったのかしら?」

「いない、ですね」

 お互いに別れて公園内を回った若宮さんは言うなり、肩で息をする。おそらく、走ったからだろう。僕もくまなく捜したものの、琴葉を見つけることができなかった。

「ということは、公園を出て、どこかに行ったのかも……」

「見当つきます?」

「もしかして、橋とか……」

「橋?」

「いや、その、川に飛び降りようとしたのって、橋からだったから」

「それ、どこですか?」

「えっ? それはその、地元の国道の橋で」

「行きましょう」

「えっ? でも、違うかもしれないし……」

「でも、いるかもしれないんですよね? もしかしたら」

「それはまあ……」

 僕は曖昧な返事に終始しようとした。

 と、自分のスマホが震え、僕は慌てて手に取る。もしかしたら、琴葉からかもしれないからだ。

 だが、予想に反して、実際は違った。

「琴葉と何かあったのかしら?」

 聞こえてきたSNS電話からの声は琴海だった。

「その質問はもしかして、琴葉から何か連絡あった?」

「そうね」

「何て?」

「今会えるかどうか、電話で聞いてきたわね」

「それで、琴海は?」

「とりあえず、学校の校門前で待ち合わせることにしたわね」

「それって、いつ?」

「そうね。一時間後ね」

 琴海の言葉に、僕は嫌な予感がしてしまう。

「大野先輩?」

 急に黙り込んでしまった僕を不思議に感じたのか、横から若宮さんが呼びかける。

 僕は気を落ち着かせ、深呼吸をすると、改めてスマホで琴海に話しかける。

「それじゃあ、僕もそっちに行こうかなって」

「そう言うかと思ったわね」

 琴海は口にするなり、笑みをこぼしていた。

「ちなみに、琴海は今、学校?」

「そうね。さっき、生徒会室で書類の整理をしていたわね。今は廊下にいるのだけれども」

「そうなんだ」

「とりあえず、待ってるから」

 琴海は言い残すと、SNS電話を切った。

 僕はスマホをしまうと、ふうとため息をつく。

「大野先輩?」

「とりあえず、琴葉が現れるところに目星はついた」

「みたいですね」

「一緒に来る?」

「もちろん」

 こくりとうなずく若宮さん。

「それじゃあ、ここからちょっと移動するけど、それまでの間」

「さっきの話、詳細を教えてください」

 僕の声を遮る形で、若宮さんが頼み込んでくる。

 対して僕はうなずくと、お互いに足を進ませ始めつつ、若宮さんに話し始めた。

 なぜ、一昨日、琴葉が川に飛び降りようとしてしまったのかを。

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