第25話 「それで先輩。昨日の夜、お姉ちゃんと何を話していたんですか?」

 翌日の休日。

 時間はお昼前で、天気は予報通り、快晴だった。

「遅いですよ、先輩」

 僕が市外にあるターミナル駅の改札を出ると、琴葉が膨れっ面をして出迎えてきた。

「いや、その、まだ待ち合わせの時間まで三十分もあると思うんだけど」

「それでもです。そもそも、彼女さんより遅くやってくるのはダメです」

「ダメって言われても……」

 僕は耳のあたりを指で掻きつつ、困ってしまう。

 今日の琴葉は制服でなく、淡い水色のワンピース姿だった。手には赤いハンドバッグを掲げ、小柄な体型からどこか背伸びしたような印象を受けてしまう。

「先輩」

「な、何?」

「わたしのこと、子供っぽい目で見ましたよね?」

「いや、そんなことは」

「ウソですね」

 琴葉はさらに不機嫌さを増したかのような顔をすると、さっさと足を進ませてしまう。

 僕は慌てて、横に駆け寄る。

「これでも、わたしは今日、楽しみにしていたんですよ」

「いや、まあ、そうだよね」

「なのに、先輩は昨日の夜、お姉ちゃんと電話していたみたいですし」

「えっ?」

 僕は驚き、足を止めそうになってしまう。

「もしかして、その、盗聴器?」

「先輩は何を言っているんですか?」

 呆れたような視線を向けてくる琴葉。どうやら、違うらしい。

「盗聴器なんて、中学生のわたしがそう簡単に用意できるわけないですよね?」

「それは、まあ、確かにそうかも」

「単純にわたしは、お姉ちゃんが風呂に入ってる間にスマホを覗いただけですよ?」

「ああ、そうなんだ……。って、えっ?」

「とりあえず、公園ですよね。先輩、早く行きましょう」

 琴葉は口にすると、僕の片腕に抱きつき、駅構内を出ていこうとする。

「あの、琴葉」

「何ですか?」

「その、覗いたって……」

「それがどうかしたんですか?」

「いや、覗くって、ロックとかされてるはずじゃ……」

「ああ、それは簡単です。わたし、お姉ちゃんのスマホのパスワード、知っていますから」

「僕だけじゃなくて?」

「はい」

 こくりとうなずく琴葉。

 僕は頭を抱えたくなった。

 となれば、琴海とSNSで何かやり取りをすれば、琴葉には筒抜けになってしまう。電話だと、今みたいにしたことだけがわかってしまうということに。

 駅構内を出たところで、琴葉は足を止めると、僕に目を合わせてきた。

「それで先輩。昨日の夜、お姉ちゃんと何を話していたんですか?」

 にこやかそうに尋ねてくる琴葉。

 だが、彼女の瞳は冷たく、明らかに何かを勘繰ってる感情を抱いているようだった。

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