第20話 「琴葉は大野先輩にしか眼中がないんで」
「あのう、若宮さん?」
僕は恐る恐る向かい側に座る若宮さんに声をかける。
「今言ったことって……」
「言葉通りの意味」
若宮さんはおもむろにため息をこぼすと、胸元あたりに手のひらを当てる。
「まだ言ってませんけど、わたしは前から琴葉のことが好き。恋愛対象として」
「そうなの?」
「はい」
躊躇せずに返事をする若宮さん。
僕としては、どう応じればいいか難しいものがあった。
「でも、琴葉は大野先輩を選んだ。それが悔しい」
「まあ、それはその……」
「しかも、その、大野先輩、あなたは琴葉のことをそこまで好きじゃない」
「それはまあ……」
「加えて、大野先輩は、本当は別に誰か好きな人でもいるような感じがしますし」
「えっ?」
「見ればわかりますよ」
若宮さんに鼻で笑われるも、僕は別に腹が立つことはなかった。
「わかるの?」
「はい」
「そっか。他人から見れば、そういう風に見えるのか……」
「怒らないんですね。年下の子に今みたいに強く言われても」
「というより、ほとんど当たってるから、それの方の驚きで怒る気にもなれないっていうか」
「面白い反応しますね、大野先輩は」
若宮さんは言うなり、琴葉の前にあったフライドポテトを摘まむ。
「ちなみにですけど」
「何?」
「琴葉は大野先輩にしか眼中がないんで」
「それは僕でもわかる」
「だから、わたしが告っても、速攻振られますね」
「それは、何だか、申し訳ないというか」
「いいんですよ」
若宮さんは言うなり、目を合わせてくる。
「琴葉が前から好きだった大野先輩がどういう人か、ようやく拝めましたし」
「その言い方だと、前から僕のことを知ってた?」
「はい。大野先輩のことはよく琴葉から聞かされていたので」
若宮さんは淡々と答える。おそらくだけど、好きな人から、そういう話をされるのはさぞや辛いだろうなと思ってしまう。僕が琴海から同じようなことをされたら。
「でも、琴葉のことを悲しませるようなことをしたら、わたし、許しませんから」
若宮さんは僕の方を指差してくる。
いや、一度振ったりはしてるし、琴葉はそういう話は若宮さんにしていないのだろうか。されていたら、マズかったかもしれない。
「ということですから、よろしくお願いしますね」
「ああ、まあ、こちらこそ」
僕は冷や汗を出しつつも、返事をする。
とりあえず、若宮さんには気を付けておいた方がよさそうだ。
そして、僕は若宮さんからの頼みでSNSアカウントの交換をする。
トイレから琴葉が戻ってきた時には、お互いにたわいもない雑談をしてる感じとなっていた。
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