第4話 「先輩は何で、そうわたしに冷たいんですか?」

 翌日の朝。

 目が覚めると、なぜか視界に琴葉の姿が映っていた。

「夢?」

「夢じゃないよ」

 琴葉は言うなり、にこりと表情を綻ばす。

 見れば、セーラー服姿の琴葉が馬乗りになって、じっと目を合わせてきていた。僕は布団をかけたままで、パジャマ姿。

「あのう、琴葉」

「何ですか? 先輩」

「どいてもらえるかなって」

「その前に先輩。挨拶してください」

「挨拶?」

「はい」

 返事をする琴葉に、僕は頬を指で掻きつつ、戸惑いつつも、「お、おはよう」と口にする。

 すると、琴葉は嬉しそうに、「おはようございます、先輩」と応じてきた。

「では、今日も頑張りましょう」

「頑張りましょうって、今日はいつも通り学校に行くだけだし……」

「そういう無気力なことを言わないでください。先輩として、しっかりしてほしいです」

 琴葉はぴしゃりと言い放つと、ようやく体を離してくれた。

 僕は起き上がると、欠伸を催しつつ、ベッドから出る。

 琴葉は近くに置いてあった学校の鞄を肩に提げると、目の前に歩み寄ってくる。

「では、先輩。わたしは外で待っています」

「いや、別に待ってもらわなくても」

「先輩は何で、そうわたしに冷たいんですか?」

 問いかけてくる琴葉の瞳は悲しそうな感じだった。

 マズい。変に気分を害したりしたら、どうなるかわからないんだっけ。

「ご、ごめん。うん、外で待ってもらえれば」

「それでいいんですよ、先輩。じゃあ、わたし、待ってますね」

 琴葉は機嫌よさげな調子で言うと、手を振って、僕の部屋から立ち去っていった。

 一日の始まりから、琴葉が現れるとは、僕としては想定外だ。

「まあ、しょうがないと思うしかないっか……」

 僕は寝癖がついた髪を掻きつつ、まずは顔を洗おうと一階にある洗面台へ向かっていった。

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