【完結】外出自粛中で中々外出できないので、食事を宅配してもらったらまさかの元カノ(美少女)が届けに来てくれました。

悠/陽波ゆうい

外出自粛中で中々外出できないので、食事を宅配してもらったらまさかの元カノ(美少女)が届けに来てくれました。

【昂良side】


「くぁぁぁー!!」


 リモートでの講義が終わり、長時間同じ体勢でいた身体をほぐすように動かす。

 世の中は今、外出自粛中になっている。その影響で大学の講義は対面からリモートに変わり一ヶ月が経とうとしていた。


 始めは、「学校行かなくてラッキー!」と思っていだが、朝昼晩と家に籠った状態なので、さすがに嫌気がさしてくる。

 早く学校に行って友達と会いたいものだ。


「昼か……」


 午前中の講義が終わり、実質昼休みの時間になった。腹はめちゃくちゃ空いている。

 冷蔵庫の中には食材があるものの、今日は作る気が出ない。自炊もいいが、たまには外食も食べたい。だが、わざわざわ外に出てテイクアウトをするのもめんどくさい。

 

 となれば……


「やっぱ宅配サービスに限るよな」


 そう言ってポケットからスマホを出す。

 飲食店のメニューを次々と見て食べたい物が決まった俺は早速注文し、来るまでの間、飲み物の準備をしたり、スマホを見て時間を潰した。


 ピンポーン


 数分後。インターフォンが鳴る。


『食事宅配の者です。ご注文の品をお届けに参りました』


「はいはい、配達ご苦労様です」


 扉を開けて財布を取り出し、料金を取り出す。確か850円だったよなぁ……。


 ドザッ


「えっ……昂良たから……?」


「ん?」


 名前を呼ばれたので顔をあげる。

 目の前には見覚えのある女性が立っていた。

 

「お前……紫帆か!」


 俺の言葉に紫帆はコクリと頷いた。


 うすく淡い青紫色の綺麗な長髪に、大きな茜色の瞳。モデルのようにスタイル抜群な身体つきに清楚で可憐な姿は今も変わらないというか、ますます磨きがかかっている。


「ひ、久しぶりね……」


「お、おう。久しぶり……」


 お互いぎこちない挨拶を交わす。

 なんたって会うのは三年振りだからな。


 俺と紫帆の関係……三年前まで俺たちは恋人だった。でも紫帆から突然別れを切り出されたと思えば、遠くに引っ越していって、探す宛もなくそのまま自然消滅。


 当時は一日中泣いたっけなぁ……。


「でも、ほんと久しぶりだよなぁ……」


 思わず紫帆の顔や髪などをペタペタと触る。ほっぺたは柔らかく、モチモチしていて触り心地がいい。髪も綺麗に手入れされていて、サラサラでいい匂いがする。


「さ、触りすぎ……っ」


 触られた事が恥ずかしいのか、顔を染めながらプイッとそっぽを向かれた。だが、嫌ではなかったらしい。


 初心なところも変わらず可愛いな。


 そんな感動を覚えていると、足元にならやら生暖かいものが当たった。

 下を見ると赤い液体が玄関に向けじわーと広がっていた。


 これは俺の注文した激辛坦々麺じゃないか……って。


「ああ!? 俺の昼飯、落としてんじゃねえーかよ!?」


「えっ、あっ、ご、ごめーん!!?」


 どうしようとアワアワ慌てている紫帆を見て、こんな事態でも可愛いなと微笑ましくなる。


 外出自粛中で中々外出できないから、食事を宅配してもらったらまさかの元カノ(美少女)が届けに来てくれたとか……こんな偶然ってあるんだなー。





「社会勉強でバイト始めたのか?」


「そう。宅配なら隙間時間に手早くこなせるでしょ?」


「にしても食事宅配は危ないんじゃないのか? 仮に部屋に連れ込まれたらどう対処するんだよ」


「それ、今のアンタが言う?」


「俺はいいんだよ。元カレ特権」


 紫帆が俺の昼飯を落とした一件からどうなったかというと、商品を駄目にした代わりに紫帆の手料理で手を打つということになった。

 もちろん提案したのは俺。

 紫帆は料金を出してもう一度買いに行くと言ったが、俺としては紫帆の料理が食べたくて仕方なかった。


「全く……私の不注意だからといっても、こんなことするのアンタだけだからね」


「分かってますとも分かってますとも」


 これぞ元カレ特権だよな!

 

 台所立つ紫帆は長髪を今はポニーテールにし、俺がいつも使っている黒いエプロンを着て調理している。その姿はめちゃくちゃ似合ってるし、夫婦になったらこんな感じなんだなと妄想を抱かせてくれる。


 そんな事を考えていた俺だったが、身体が勝手に紫帆の方に動いた。


「……ごめん、紫帆」


 一言謝ってから、紫帆の腰に手を回し抱きつく。近づいたことにより、匂いや体温を直に感じる。


「……火、使ってる」


「あと三秒」


「……ならいい」


 調子に乗って紫帆が嫌がるまでずっと抱きついていたら溝落ちされて涙が出るほど痛かったのは別のお話。

 





【紫帆 side】


「うまっ!」


「こら、料理は逃げたりしないからゆっくり食べる!」


 エプロンを解き、バクバクと食べ進める昂良に対して注意する。

 まさか食事を配達していたら元カレが受け取り人だったなんて。こんな偶然、今時あるんだなぁ……。


「もごもご……だって美味いから箸が止まらないんだよ!」


 キラキラと目を輝かせたその姿はまるで子供のようだ。


『やっぱ紫帆の料理は最高だな!』


 高校時代は部活に明け暮れていた昂良だが、どんなに遅くても私の料理を完食してくれて、毎日感想を送ってくれていた。

 そんなに毎回送らないでいいと言うものの、内心は凄く嬉しかった。一日中眺めてニヤニヤする日もあった。


「やっぱり君は私が作る料理ならなんでも美味しそうに食べてくれるんだね……。そんな嬉しそうな顔見るとまた好きになっちゃうよ……」 


 私は昂良に料理を作るのが好きだし、食べている姿を見るのが好き。

 きっと他の誰よりも——


「ん? なんか言ったか?」


 昂良が不思議そうに聞いてきたことで、自分がとんでもない事を無意識に呟いていたと気づき、慌てて口を塞ぐ。


「な、な、なんでもないっ!……もぅ、ほんとに鈍感なんだから……」


「そうか? 普通だろ」


「この世の男全員がアンタみたいな鈍感だったら、世の中の女子はめちゃくちゃ大変よ!!」


「じゃあそんな俺に惚れたお前はどうなんだ?」


「~~~~~~!!! もうバカぁ……!!」


「いって! 叩くことないだろっ!」


 恥ずかしいとのムカついた肩をバシバシと叩いてやる。


「アンタなんかもう好きじゃないんだからね!」


 昂良は元カレ。

 私から振ったんだもん。今更戻ることなんて……


「そうか、残念だ。俺はまだ未練タラタラというのに」


「えっ……」


 予想外の言葉に心臓がドクリと跳ね、鼓動音が早くなる。

 てっきり「うっせえ、俺もだわ!」と同じような意見が返ってくると思ったら、未練タラタラという言葉が出るなんて……。


「お前が言うに俺は鈍感なんだろ? そんな鈍感な俺が惚れた女だ。すなわち理想。お前以外は考えられない」


「な、ななな……」


 まるで当然だというようにサラッと言う。

 そうだよ、アンタは無自覚イケメンだった。


 いつの間か料理を平らげた昂良は私の方へ移動してきて髪を優しく触り……。


「好きだよ、紫帆」


 微笑みながら甘い言葉を囁いた。


「そそ、そんなこと言っても私はもう靡かないんだからねっ!」


 本当は凄くキュンときたけど……!


「チッ……落ちなかったか……」


「やっぱり狙ってやってたのね。だいたいアンタのなんて嫌んっ……!」


 その言葉は(嫌いなんて)言わせないとばかりに私の口に人差し指を押し付ける昂良。


 そして肩をガジッと両手で掴まれたと思えば、そのまま床に押し倒された。


「一旦黙ってろ」


「た、昂良……?」


「久々に会ったらめちゃくちゃ可愛くなってて……もう我慢できねぇ。俺にはお前しかいなくて、お前にも俺しかいないことを今から分からせてやる」


「へっ、ちょっ……やっ……」

 

 私の制服のボタンに手をかけ、外そうとする昂良の手を慌てて止めるが、その抵抗も虚しくすでに二つほど外される。


「まままま待って!! 私、今仮にも仕事中だし!」


「そんなのは知らん。今のお前の仕事はただ一つだ。『俺に愛されろ』」


 俺に愛されろとかなんでそんなカッコイイ台詞が出るのよっ!


 私の下着が露わになったところで、ボタンを外される手が止まり、代わりに昂良がどんどん私に近づいてきた。今から何をされるかわかる。私は昂良にキスされるんだ。


「……嫌ならまだ引き返せる」


 声を絞り出し出したような、消えそうな声で聞いてくる。私のために理性を保ってくれているのだろう。切羽詰まった顔で見下ろす彼を見ていたら全てがどうでも良くなって——


「いや……じゃない……」


 自然と言葉が出た。


 この言葉が合図となり、まずは首元に顔をうずくめられる。


「んぁ……」


 くすぐったさと恥ずかしさで意図してないのに艶かしい声が自分から口から自然と出る。


 プルプル


「あっ、でんわっ……」


 テーブルの上に置いてあるスマホが着信音とともにブルブル震える。会社からなのか、友達からなのか分からなかったが、出ようと手を伸ばすが。


「んむっ!?」


 昂良に唇を奪われたことから取るのを止める。

 徐々に口の中に舌が入ってきて、優しく激しく、強弱をつけながら動かされる。


「たひゃらぁ……」


 とろんとした表情で無意識に誘惑していたのか、キスはさらに激しくなった。


「紫帆……好きだ….…っ」


 甘い言葉と大好きな匂いに頭がクラクラする。


 理性なんてもうほとんどない。

 襲われたい、めちゃくちゃにされたい。そんな感情ばかりが頭を過ぎる。


 ああ、私も未練タラタラなんだ……。





「今日は色々とありがとな。……それとすまなかった」


 乱れた服を軽く整え、玄関先で申し訳なさそうに眉を下げる昂良の方を向く。

 無理矢理襲ったことを言ってるのだろう。


 あれから盛り上がって、二人して服を脱ぐところまで行ったが、行為自体はしていない。私が仕事があることを配慮してキスだけに留まってくれた。


「う、ううん。私も久しぶりにアンタに会えて良かったし……それに別に嫌じゃなかったから……(小声)」


「え? 今嫌じゃなかっt」


「別に何でもない! とりあえず私は宅配の仕事に戻るからアンタはもう少し部屋を綺麗にするなり、自炊するなりしときなよ!」


「部屋も自炊もそれなりに出来ていると思いが……」


「う、うるさいっ!」


 このままだと本当に流されそうなので慌てて誤魔化すように言う。


「わ、私仕事に戻るねっ」


「あっ、ちょっと待った!」


 何かを忘れたらしく、部屋に急いで戻って行ったと思えば、すぐに帰ってきた。


「はいこれ。宅配中は喉乾くだろ。持っていけ」


 お茶とカフェオレを一本ずつ渡してくれる。こういうさりげく気が効くところも……。


「それと……これもお前にやるよ。絶対に無くすなよ」


 少し気恥ずかしいように言って、私にあるものを渡してきた。


「こ……これって」


 渡された瞬間にそれが何かは分かった。が、思わず私は聞いてしまう。


「あぁ。この家のだ。好きなときにいつでも来てくれ……るなら俺も嬉しい」


「えっと……」


「宅配なんて短い時間なんかじゃ満足出来ない……」


 ぽりぽりと頬をかきながらそう言う。ジーと見つめていると、顔を染めながらプイッとそっぽを向かれた。


 鼓動が早まる

 胸が締め付けられる

 体温が上昇する

 頬が赤くなる


 関係が変わってもこの気持ちはあの頃のまま。でも私は……素直になれない。


「ま、まぁアンタに栄養不足で死なれたら困るし、いいわよ」


「俺はそんなにひ弱にみえるか?」

 

 半袖から出ている腕は、鍛えられることが一目で分かるほど、がっしりと太くて逞しい。

 さっき上半身を見た時も凄く逞しい身体なぁと思って……わ、私ってば何考えてっ!!


「ととと、とにかく貰っとくね!」


「明日も宅配あるのか?」


「う、うん」


「じゃあ宅配頼むからお前が来てくれよな」


「そんなの運次第でしょ」


 私がバイトしている食事宅配はスマホ一つで仕事が受けられ、配達のリクエストが来たら、その店に一番近い人にマッチングして依頼が受けられるシステムになっているから、今日のは本当に運が良かっただけだ。


「じゃあ紫帆だけが来い。つか毎日来い」


「そ、それって……」

 

 通い妻になれってこと!? でもそのために合鍵を渡してくれたんだよね。


(復縁しようなんて今は言えない。ここで強引にいくとダメだ。今は紫帆と過ごせる時間を大切に……)


(私から別れ話を切り出したから、自分から復縁しようなんて都合が良過ぎるよね……。これから通い妻になるんだし、今は昂良との時間を大切に……)


(だが、うかうかしてると他の男に取られるよな)


(早くしないと他の女の子に取られるよね)


((この宅配という偶然で運命的な再会をきっかけに復縁しないと!!))




 そして二年後、二人が食事配達で会うことはなくなった。


 何故なら今日も隣に君はいる。

                              

 


       

〈あとがき〉


 読んでくださり、ありがとうございましたm(__)m


 こちらカクヨムコン短編に出しているので、面白かったら星や評価、ハート、コメントを頂けると嬉しいです!           

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【完結】外出自粛中で中々外出できないので、食事を宅配してもらったらまさかの元カノ(美少女)が届けに来てくれました。 悠/陽波ゆうい @yuberu123

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ