第3話 事の真相は
「なあ、本当に、覚えないんだけど。それに、未読の後に既読とか妙じゃないか?」
猛然と問い詰めてきた果歩だけど。本当に、見た覚えがないメッセージだ。
『卒業式の後。とても、すごく、重要な、話があるんだけど。聞いてくれる?』
たとえ、好きな相手でなくとも。
これは明らかに告白に類するものがあるとわかる。
しかも、当時、既に果歩の事は好きだったのだから、なおさらだ。
きっと、読んでいたら、俺もドキドキだっただろう。
しかし、覚えがないのだ。本当に。
それに、唐突に、間に未読が挟まるっていうのが何か変だ。
ラインで、そんな事を経験した覚えがない。
「た、確かに。あの時は、気にしてなかったけど。考えてみると、変、かも」
ようやく、果歩の方も、何か変だと気がついたようだ。
「ちょっと調べてみるな。"未読の後に既読"とかか?」
色々出てくる。しかし、今、知りたいのは、そういうことではなく。
ラインでこんな変な現象が起きる理由だ。
で、調べていく内に、思い当たる事が書かれていた。
「なあ、えーと、思い出した事があるんだけどさ……」
これは、なんとも気まずい。
「な、何かわかったの?」
「いや、卒業式の前日。機種変したんだ。確か、スマホが古くて、新しいアプリが動かないとか言った気がするんだけど。覚えてるか?」
遊びたい新作ゲームアプリが、動かない。
というのは、俺にとっては、割と重要な問題だった。
母さんを適当に言いくるめて、機種変してもらう方向に持っていけたのだけど。
「た、確かに、聞いたような気が……」
「機種変自体は、1時間くらいで終わったんだけど。履歴引き継ぎ?だっけ。それ、忘れてて」
機種変してから、「あれ?」と思ったのだけど、後の祭り。
「ま、まさか……」
「たぶん、だけど。機種変してる途中に、メッセージが届いて。て可能性が高い」
「何度か、以前、ラインで書いたはずの事を聞き返して来た時があったのは……」
「履歴、引き継いでなかったし。言うほどの事じゃないと思ってたんだけど」
でも、それが理由で、大事なメッセージを見逃していたかと思うと、心が重い。
しかも、内容は告白に関わることだというのだ。
「いや、本当、悪い。道理で、デートの時のテンションが不安定だったわけだ」
振った相手が、何度もデートに誘ってくる。
俺が言うのもなんだが、とてもつらいのではないだろうか。
「ほん、とに、そうよ。嬉しかったけど、一度、振られちゃったんだし、と思うと……」
何かを思い出したのか、果歩がポロポロと涙を流しながら、顔をくしゃくしゃにしている。好きな彼女に、ずっと、そんな思いをさせていたのか、と思うと、罪悪感が湧いて来る。
「ほんとに悪い。俺は呑気に、「これは脈ありかも」と浮かれてた」
その裏で、果歩は、喜んだり、落ち込んだり、したんだろう。きっと。
「ほん、とに、そう、よ。あの時に恋人になれてれば、もっと色々と……」
きっと、色々思い返しているんだろう。
「本当に悪かった。これからは、今まで以上に一緒にいるからさ」
本当に申し訳なく思うけど。
でも、それでも、三年間、見切らずに居てくれたのは嬉しい。
「ほんと、約束よ?」
ようやく、泣き止んだのか。泣き笑いの顔で、睨まれる。
「あ、それと、お詫びじゃないけど。何でもお願いは聞く」
言ってて、自分でもどうかと思うけど。
「な、何でも?」
一体、何を考えたんだろうか。急にそわそわし始めた。
「も、もちろん。俺の出来る範囲でな。色々な意味で」
一応、予防線は張っておく。
「出来る、と思うけど。少し、早いのかな、みたいな?」
何か、やけに言いづらそうだ。
早い……って、まさか。
「まず、その、抱きしめて欲しい」
「あ、ああ」
と思ったら、やけに可愛らしいお願いだった。
とはいえ、少し緊張する。
ぐいっと、小さな背中に肩を回して、抱きしめる。
暖かさとか、香りとか、色々が伝わってクラクラする。
「勇気、顔、赤いわよ?」
「それは、果歩の方もだろ」
「だって、ようやく、って感じだもの」
俺にとっても、ようやく、だけど。
果歩の方にとって見れば、もっと大きいだろう。
「それで、その……キス、も」
「あ、ああ」
なんとなく、この体勢で、お互いを見つめった状態。
そんなお願いが来るのでは、という気がしていた。
しかし、キスってどうすればいいんだろうか。
ええと、目を閉じて、顔を近づけて……って、頬に。
「わ、悪い。ずれた」
「も、もうちょっと、落ち着きなさいよ」
いや、それは、お前もだろうと言いたくなったけど。
「じゃ、じゃあ、もう一度、な」
そうして、唇同士を触れ合わせた俺たち。
「な、なんか。変な感じ。嬉しい、けど」
「あ、ああ。俺も。もう一度、いいか?」
「う、うん。じゃあ、お願い」
と、改めて、今度は少し深く唇同士を触れ合わせる。
「これ、すっごく、はずかしいわよね」
「そうだな。すっげえ、はずかしい」
お互い、真っ直ぐ顔が見られない。
「でも、楽しい大学生活になりそうだな」
「あ、それも聞きたかったのよね。ひょっとして……」
「ああ。そりゃ、好きな人と一緒に居たいってのは自然だろ」
前に聞かれた時ははぐらかしたけど。
たとえ、今日、振られても、後悔しないつもりで、志望校を決めた。
「そ、そっか。勇気もそれだけ私の事、想ってくれてたのよね」
なんだか、感慨深げな表情だ。
「俺なりにはな。果歩に比べたら、負けるけど」
「そうよ。もう、こうなったら、墓場まで付き合ってもらうんだから!」
「ちょっと待て、気が早いだろ」
「いーえ。これは本気ですとも!」
「いやいや、ちょっと待て。話し合おう。ステップ飛ばし過ぎだから」
そりゃ、このまま順調に行けばやぶさかではない。
「お互い、両親のことも知ってるし。改めてのご挨拶とかも要らないでしょ?」
「いやいや、だから、暴走してるって」
必死に、暴走する彼女を宥める俺と、エスカレートする果歩。
お付き合いは始まったばかりだけど、色々多難だ。
☆☆☆☆あとがき☆☆☆☆
というわけで、勘違いの三年間(あるいは六年間)過ごした二人のお話でした。
勘違いの理由がラインならでは、というのが今風かなという感じでしょうか。
楽しんでいただけたら、応援コメントや☆レビューいただければと思います。
卒業式の後で告白したら、何故か詰め寄られた件 久野真一 @kuno1234
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