なにも感じない男

去世

なにも感じない男



その男はなにも感じなかった

成人したあとも母親に爪を切られているが

感じなかった

なにも

働かないことに妻が怒っている時

娘が生まれた時

出産に立ち会わずスマートフォンゲームをして

いた時

それを三度繰り返した時

なにも感じなかった

数年がたち妻が顔を見る度に死ねばいいのにと

発言してくる時

なにも感じなかった

だがある日

娘が自分の言うことを無視することに

気がついた

感じた

背中が冷たくなるような 頭に血が上るような

髪の毛が逆立つような 感情

なぜ無視される 家庭のために妻に言われて

嫌嫌働いていると言うのに

なぜ冷たくされる 自分 のおかげでこの人たち

は生きているというのに

なぜ

三人も子供を産んだくせに

三人とも女を産んだ妻が悪い

男だったら違った

もっと俺に懐いていた

そうだ娘は洗脳されている 妻に

俺の悪口を言って洗脳している

自分にだけ懐くように洗脳している

覚ましてやらねば 俺が

長女と次女を救おうとしたがだめだった

俺が手を差し伸べると早々に荷物をまとめて出

ていってしまった

一番下の娘だけでも そう思った

俺が好む物を買い与えた

ヒーローのフィギュア

車のおもちゃ

人を殺すゲーム

見た目も変えた

黒のロゴTシャツ

黒のズボン

髪も短く切らせた

似合ってると三女に伝えると三女は喜んでいた

三女には惜しまず金を使った 使ってやった

三女が高校に上がる時 男は妻に言った

俺はこいつと暮らす

すぐに家を出た 息子は何やら妻に手紙など

書いていたが 酷いことをされていた

自覚はないのだろうか

今俺は息子と二人で暮らしている

とても楽しい

俺の中の感じなかった部分は消え失せ

世界に色がついた

もっと早くこうするべきだった

幸せだ






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なんでなにも



三女

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