第六回 藤祭、午後の部

① 鴨川(回想)

   美しい東山の峰々。T.Bする。と、四

   条大橋。行き交う人々。上手に南座。


② 装束店・表(回想)

   ──仰角で。

   伝統ある店構えに、縦書きで『神殿調

   度品』『御装束』と書かれた伝統を感

   じさせる看板。

   T『二十九年前』


③ 同・店内(回想)

   開いている漫画単行本『あさきゆめみ

   し』第二巻(表紙側)。それをT.Bし

   乍ら、漫画単行本を手に持った装束店

   々主、漫画単行本を下げて、

装束店々主「(驚いて)これですか?」

   上り口の畳間に和装の装束店々主と慶

   之(54歳)。慶之、神職姿に羽織、手

   に畳んだ扇子。二人、正座をして向か

   い合っている。慶之の上にT、

   T『藤原ふじわら慶之やすゆき(54歳) 藤之宮神社 宮

   司』

慶之「(にこにこして)そうや。それを作っ

 て貰いたい。但し、そのまんまやなくて、

 その鳳凰の柄な。(念を押して)そこは、

 うちの御神花の藤に変えて貰いたいんや」

   装束店々主、漫画単行本を開いたまま、

装束店々主「そりゃァ、その様にお作りしま

 すけェど。何分なにぶん一からになりますさかい、

 お時間いただきまっせ?」

慶之「あー、構へんよ。今すぐ使う訳とちゃ

 んや。(と、扇子で漫画単行本を指して)

 その漫画は女子に人気でな」

装束店々主「ええ。この漫画、うちも揃いで

 ありますよって」

慶之「(乗り出して)おぉ、そうか! そん

 なら話は早い。それをな」


④ 藤之宮神社・拝殿の前(回想)

──────────────────────

   将之(右腕)に抱き上げられて、嬉し

   そうに(和之を)見ている敦之。和装

   の正礼装。敦之の上にT、

   T『長男 敦之(3歳)』

慶之「(OFF・嬉しそうに)うちの源氏と」

   優しい顔で敦之を見ている将之。和装

   の正礼装。将之の上にT、

   T『父 将之(29歳)』

   ゆっくりと左肩を向く将之に合わせて

   PUN。と、将之の腕の中に潮。和装で

   産着をつけている。潮の上にT、

   T『母 潮(32歳)』

   二人、愛おしげに見つめている視線の

   先をゆっくりT.Uしていく。と、

慶之「(OFF・嬉しそうに)頭中将とうのちゅうじょうに着せて

 やろうと思ゥとるんや」

   M、F.I。

   M『舞楽 青海波(当曲)』(シーン

    ⑤迄)

   産着の中に和之。お宮参り用のよだれ

   かけをつけて、真っ白な帽子を被って

   いる。和之の上にT、

   T『次男 和之(生後1ケ月)』

   赤ちゃんの和之に、『青海波』を舞っ

   ている和之(11歳)がO.L。


⑤ 藤之宮神社・拝殿の前(回想→現在)

   『青海波』を舞っている和之(11歳)。

   眼鏡を外している。舞に合わせてPUN

   し乍らゆっくりT.Bする。と、舞台上、

   一緒に『青海波』を舞っている敦之

   (14歳)。二人、『あさきゆめみし』

   第二巻「紅葉もみじの」の『青海波』装束姿

   (但し文様、鳳凰→藤の花房に変更)。

   冠には藤の花房。

   『青海波』を舞っている敦之(14歳)。

   同・和之(11歳)。

   11歳の和之に、『青海波』を舞ってい

   る29歳の和之がO.Lしていく。和之、

   眼鏡を外している。

──────────────────────

   『青海波』を舞っている和之。舞に合

   わせてPUNし乍らゆっくりT.Bする。

   と、舞台上、一緒に『青海波』を舞っ

   ている信之。信之、結い上げた髪を全

   て冠の中に納めている。その後ろに見

   えている楽人。真之(龍笛)、ゆいか

   (篳篥)、ゆづき(鳳笙)、将之(楽

   太鼓)、雅美(鉦鼓)、千歳(鞨鼓)、

   慎一(楽琵琶)、慎二(楽筝)。男性

   は白狩衣に浅葱色の差袴、烏帽子えぼしがく

   。女性は巫女装束で正座。『神楽歌

   其駒』の末方すえかたの場所に座っている。

   『青海波』を舞っている信之。

   同、和之。

   『青海波』を見ている大勢の参拝者

   (女性多し)。その中に涙ぐむ女達の

   姿。紅顔して、感動している。

   『青海波』を舞っている和之。

雅美「(OFF)なにも、泣かンでええやんな」


⑥ 同・斎館の座敷B

   『青海波』装束姿の和之、ハッと一笑

   して、

和之「泣く程、惚れ込むって事だよなァ」

雅美「(ボソッと)その性格、知らんからな」

千歳「(ボソッと)お目当ては信兄ただにいかもしれ

 ませんし」

   クスッと笑う『青海波』装束姿の信之。

ゆりなの声「本当にかずくんはモテモテね」

   と、廊下にゆりな。歌舞伎舞踊『藤娘』

   の姿。手に黒塗り笠。ゆりなの上に、

   T『従姉いとこ 山本ゆりな(32歳・敦之と

   同い年)』。

   雅美と千歳、わぁッと紅顔する。と、

雅美「素敵―ッ!」

千歳「よくお似合いです!」

ゆりな「(にっこりと)ありがとう」


⑦ 同・斎館の廊下

   巫女装束姿の明日香、玄関から入って

──────────────────────

   来て、

明日香「(ゆりなに)ご準備お願いします」

ゆりな「(明日香に)はァい」

   と、歩き出す。   

   座敷Bから顔を覗かせている千歳と雅

   美。ゆりなを見送り乍ら、

千歳「あれ? 確か題名、『藤娘』だっ

 たはずでは……」

雅美「(千歳に)え? もひとるん?」

敦之の声「俺だ」

   と、廊下を通り過ぎて行く、もう一人

   の藤娘。被った黒塗り笠の陰になって、

   顔が見えない。

   雅美、千歳、共に驚愕の顔で、

雅美のM「今の!」

千歳のM「声は!」


⑧ 同・拝殿の前

   舞台上、歌舞伎舞踊『二人藤娘』。舞

   っているゆりなと妖艶な敦之。

   T『歌舞伎は、京都・四条河原が発祥

    地です』

   『二人藤娘』を舞っているゆりな。

   同、妖艶な敦之。

   (『二人藤娘』を)複雑な顔で見てい

   る雅美、千歳、明日香。その横に潮。

   首をかしげ、両掌を合わせた手を頬に当

   てて、

潮 「(紅顔して嬉しそうに)さすが長男!」

   拝殿全景から徐々に俯瞰になって。

   『二人藤娘』の舞台を取り囲んでいる

   大勢の参拝者。『神楽歌 其駒』のもと

   かたの場所に唄方と三味線方。末方すえかたの場

   所に囃子方。それぞれ胡床こしょうに座って演

   奏している。

潮の声「いろんな意味で、頼りになるわね!」

   その手前、舞乍ら横切っていく藤の花

   弁と同時に、

千歳の声「これって……」

雅美の声「わろゥた方が、ええんやろーか……」

──────────────────────

明日香の声「(困って)あ~……」



       第六回『藤祭、午後の部』終

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弥栄!(いやさか!)巻之壱 佐久良 燎 @Kagari-Sakura

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