第二回 第一回シーン67、その後

① 藤原家・一階座敷A(夜)

   第一回シーン67の続き。

   食卓の中央に水炊きの鍋。

   食事をしている将之、潮、信之、真之、

   仁之、和之、敦之(着席位置、第一回

   シーン②同様)。皆、私服姿。

敦之「和之、鶏肉かしわばっか取んな」

   眼鏡を頭にかけている和之、鍋からかし

   を取って、

和之「わりィな。見えてねェんだよ」

敦之「(呟いて)見えて……いない?」

   すっと和之の頭から眼鏡を取る敦之

   (両手)。

和之「?」

   どんっと食卓に置かれる1.8リットル

   の業務用ペットボトル(下部のみ)。

   敦之、思いっきり身を起こして、

   ──やや仰角で。

敦之「(意地悪い顔で)それでは和之君! 

 右手左手、どっちがポン酢で、しょう!」

   と、両手に1.8リットルの業務用ペッ

   トボトル。ひとつは『ソース』、もう

   ひとつは『うなぎのたれ』。共に、正

   面に大きなラベルに書かれている。敦

   之の頭の上に和之の眼鏡。

    ×    ×    ×

和之「(気づいて)!」

   おののいている和之。正面顔をゆっく

   りT.Bし乍ら、

和之のM「こいつ、予め眼鏡を取りあげやが

 って卑怯くせェ! すぐに眼鏡をかけて

 『どっちも違うじゃねーかッ!』と言うセ

 リフを封じやがった!」

   ──やや仰角で。

   両手に1.8リットルの業務用ペットボ

   トルを持って見下ろしている敦之。そ

   の不敵な笑み。頭に和之の眼鏡。おど

   ろおどろしく、ゆっくりP.Uし乍ら、

和之のM「俺がどっちを選んでも、『ブブー

 ッ! こっちでしたーッ!』と反対側を俺

──────────────────────

 の呑水とんすいに入れるに違いない! 間違いなく

 やるッ! この男は、やるッ!」

   おののいている和之。ゆっくり正面顔

   をT.B、横顔をPANし乍ら、

和之のM「どちらにせよ、『騙したな! 敦

 之!』とます為には、どちらかを口

 にしなければならない! ここは鶏肉かしわを照

 り焼きと思って『うなぎのたれ』を選ぶべ

 きか? それとも野菜炒め感覚で『ソース』

 ? いや、まず鍋でくったりしている白菜

 にソースがあうのか? 湯切り不充分のカ

 ップ焼きそばよりマズイんじゃねェのか?

 しかもキャベツではなく白菜だ! やはり

 ここは、同じ和風の『うなぎのたれ』を選

 ぶべきか。(ハッとして)いや待て」

   『うなぎのたれ』とラベルの貼られた

   1.8リットルの業務用ペットボトル。

   おどろおどろしくT.Uし乍ら、

和之のM「あれは『うなぎのたれ』のラベル

 ではあるが、本当に中身は『うなぎのたれ』

 なのか? もしや別のもの……」

   ──やや仰角で。

   両手に1.8リットルの業務用ペットボ

   トルを持って見下ろしている敦之。そ

   の不敵な笑み。頭に和之の眼鏡。おど

   ろおどろしく、ゆっくりP.Uし乍ら、

和之のM「こいつが無難な醤油を持っている

 とは思えない。まさか」

   おどろおどろしく、ふたつ並んだ1.8

   リットルの業務用ペットボトル。ひと

   つは『ソース』、もうひとつは『うな

   ぎのたれ』のラベル。『うなぎのたれ』

   のラベルがぺらっと剥がれる。と、

和之のM「まさかどっちも」

   ふたつ並んだ1.8リットルの業務用ペ

   ットボトル。ふたつとも『ソース』の

   ラベル。

和之のM「ソースなのかッ!?」

   敦之、和之に身を乗り出して、

敦之「(意地悪い顔で)どちらかがポン酢だ。

──────────────────────

 お前がポン酢だと思う方を選べ。ん?」

   T『大ウソ』

   和之、身を引いて、

和之「(苦しんで)ううう……」

潮 「和之ィ、見えてるって正直に言えばァ

 ? 鶏肉かしわなら」

   食べている信之、

信之「(きっぱりと)もうありません」

潮 「(驚いて)えッ! もうないの!?」

真之「あ、僕、おうどん食べたい」

仁之「俺、雑炊」


② 同・表(夜)

   温かな門灯に照らされている表札『藤

   原』。簡素な生垣の中に、座敷Aの灯

   りが見えている。会話と共にゆっくり

   P.Uしていって、

   苦しそうに唸っている和之の声。

真之の声「(不満げに)あのさ~……弟に合

 わせてやろうって気ィ、無いの?」

仁之の声「今日はうどんの気分じゃねえ」

敦之の声「さあ和之! ポン酢は(強く)ど

 っちだ!」

将之の声「……観念しろ。和之」

   屋根の上(東天)に二月の月。

   以降のセリフ、F.Oし乍ら、

将之の声「信之」

信之の声「はい」


③ 同・一階座敷A(夜)

   食卓の中央に鍋。沢山の麩がぐつぐつ

   煮えている。鍋から麩を取り上げる真

   之の箸。麩に矢印、T『』。

   真之、箸の麩を見つめて、

真之「(不満げに)……おうどんでも……」

仁之「(渋い顔で)雑炊でもねェ……」

   信之、鍋に箸を伸ばして、

信之「(鍋を見乍ら)みんなして、鶏肉かしわばかり取

 るからですよ」

      T『は、京都の伝統食品です』



   第二回『第一回シーン67、その後』終

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