第一回 ようこそ、藤之宮神社へ

① 藤原家・表(夜)

   ──仰角で。

   二月。温かな門灯に照らされている表

   札『藤原』。簡素な生垣の中に、座敷

   Aの灯りが見えている。

真之の声「今夜から雪だって」


② 同・一階座敷A(夜)

   畳の本間六畳。

   大きな円卓を囲んでいる一家。12時の

   場所(上座)に将之まさゆき、時計回りにうしお

   信之ただゆき真之なおゆき仁之さねゆき、眼鏡をかけた和之かずゆき

   敦之あつゆき

   食事をしているそれぞれの上にルビつ

   きで、

   T『父 将之まさゆき(58歳)』

   T『母 うしお(61歳)』

   T『四男 信之ただゆき(25歳)』

   T『五男 真之なおゆき(23歳)』

   T『三男 仁之さねゆき(26歳)』

   T『次男 和之かずゆき(29歳)』

   T『長男 敦之あつゆき(32歳)』

   円卓の中央にコロッケが盛られた大皿。

   温かな夕食の風景。

和之「石段凍るな。こりゃ」

敦之「飯食ったら鳥居ンとこ、『通行止め』

 の縄、張りに行くぞ」

真之「解った」

   取り皿を持った信之、コロッケをひと

   つ取って、

信之「(仁之に)明日、どうします? 仁之さねゆき

 兄さん」

仁之「(考えて)ん~」


③ 同・表(夜→朝)

   シーン①同様。

仁之の声「朝の雪かき……手伝ってくれりゃ

 ァいいか」

   と、ちらほらと舞い降りて来る雪。

──────────────────────

   雪、更にどんどん降り出してくる。消

   える座敷Aの灯り。

   そのまま明けて明朝。止む気配無く降

   っている雪。門灯、生垣に相当積もっ

   ている。

   SE、どたどたと床を走る音。

仁之の声「信之ただゆき! 信之!」


④ 同・一階台所

仁之の声「信之!」

   ガラッとガラス障子が開く。と、現れ

   る台所。消灯。誰も居ない。

   乱暴に閉まるガラス障子。


⑤ 同・一階座敷A

仁之の声「信之!」

   バッと雪見障子が開く。と、現れる座

   敷A。消灯。誰も居ない。

   仁之の舌打ち。乱暴に閉まる雪見障子。


⑥ 同・一階廊下

   白衣、浅葱色の差袴姿の仁之。

仁之「ったく、どこに居やがる」

    ×    ×    ×

   小障子が摺り上がっている雪見障子。

   そのガラスの奥に見えている居間B。

   点いている室内照明。置かれている

   炬燵。人影は見えない。

   仁之(下半身)、雪見障子を横切って

   Fr.outし乍ら、

仁之「信之! 履物あるから出掛けてねェは

 ず。信之!」

   戻って来る仁之(下半身)、再び雪見

   障子を横切ってFr.outし乍ら、

仁之「信之!」

   と、雪見障子から見えている居間B。

   その炬燵の奥側から、むくっと起き上

   がる私服姿の信之。


⑦ 同・一階座敷B

──────────────────────

   バッと雪見障子を開ける仁之。

仁之「(信之に気づいて)なに隠れていやが

 るッ!」

   畳の本間六畳。その中央に置かれた炬

   燵で丸まっている信之、

信之「炬燵で横になっていただけです。入る

 なら入るで、閉めて下さい」

   SE、遠くに女達の賑やかな声。

   信之、女達の賑やかな声に気づいて、

信之「(首筋の髪をかき上げて)賑やかです

 ね。なに始めたンですか? この雪の日に」

   仁之、勢いよく足袋を信之の顔に投げ

   つけて、

仁之「もっぺん潔斎けっさいして、とっとと社務所に

 来やがれッ!」

   SE、雪見障子を乱暴に占める音。

   足袋、ぱたりと信之の顔から落ちて、

信之「無骨な。同じ両親から生まれたとは思

 えません!」


⑧ 用語説明画面

   T、ルビつき縦書きで大きく、

   T『潔斎けっさい

   『潔斎』のTより小さなポイントで、

   T『神仏に仕えるため、酒肉や男女の

    交わりを避け、心身を清らかにして

    おくこと』

   T『大辞林第三版(三省堂)より抜粋』

慶之やすゆきのN「ここで、専門用語の解説をしよう

 かの。潔斎。神仏に仕える為、酒肉や男女

 の交わりを避け、心身を清らかにしておく

 こと。この場合は、」


⑨ 藤原家・一階座敷B(回想)

   バッと雪見障子を開ける仁之。仁之の

   白衣に矢印ルビつきでT、

   T『白衣びゃくえ

慶之のN「白衣びゃくえ。我々神職の制服じゃな。こ

 れを着る前に必ずせねばならぬ、沐浴もくよく。要

 するに」

──────────────────────

⑩ 同・一階浴室

慶之のN「全身水浴びするんじゃよ」

   シャワーヘッドを持って水を浴びてい

   る信之。最後に、頭の真上から水をか

   ける。

   信之(手)、切り替えハンドルを回す。

   と、止まる水。温調ハンドルの表示

   『水』。

   後ろ姿の信之。ぶるっと震えて、


⑪ 同・庭

信之の声「さすがに二度は堪えます」

   降っている雪と庭木にどっさり積もっ

   ている雪。

   SE、遠くに女達の賑やかな声。


⑫ 同・表

   白衣、浅葱色の差袴姿の信之。美しい

   所作で入口(引き戸)を閉めて、和傘

   を開く。髪、後ろで一つにまとめている。


⑬ 藤之宮神社・西参道

   雪かきを済ませている西参道。降って

   いる雪と生垣にどっさり積もっている

   雪。

   歩いて来る信之。差した和傘の上に雪。


⑭ 同・社務所の前

   社務所入口(引き戸)で和傘を下ろし

   ている信之。和傘の雪を落として、和

   傘を畳む。

   社務所の外に傘立て。沢山の婦人用傘

   が立っている。


⑮ 同・社務所の玄関

   信之、美しい所作で入口(引き戸)を

   開ける。と、

信之「(下を見て)……(お)っと」

   T.Bして、玄関全景。履物棚、土間い

   っぱいに女性の履物。

──────────────────────

⑯ 同・社務所の中

   すっと襖が開いて現れる信之。膝をつ

   いた美しい所作で襖に両手を添えてい

   る。

   気づく信之。

   几帳を背にして座っている敦之(奥)

   と和之(手前)。共に白衣、浅葱色の

   差袴姿。二人、それぞれ文机に向かっ

   て御朱印を書いている。

敦之「(信之に)来たか」

信之の声「敦之兄さん。和之兄さんも」

   信之、手前(和之の隣)の開いている

   文机に座って、

信之「朝食のあと、出掛けたと思いました」

   と、御朱印の準備を始める。

   敦之、御朱印を書き乍ら、

敦之「休みは家に居たい」

信之「おやしろにですか? 敬虔けいけんです」

敦之「いや」


⑰ 藤原家・二階敦之の部屋(回想)

   畳の本間六畳。

   勢いよく襖を開ける神職姿の仁之。そ

   の手前に布団の中の敦之。私服姿。襖

   を背にして、本を読んでいる。開いた

   襖にビクッとして、

敦之「(OFF)部屋でごろごろしてたら、と

 っ掴まった」


⑱ 同・二階和之と仁之の部屋(回想)

和之「(OFF)俺も。以下同文」

   畳の本間六畳。

   勢いよく襖を開ける神職姿の仁之。そ

   の手前、襖を背にして座っている和之。

   私服姿。慌てて、持っていた婦人服の

   通信販売カタログをお手玉する。

信之「(OFF)そうですか」


⑲ 同・一階座敷B(回想)

   座布団を脇に抱えて、炬燵にでうつ伏

──────────────────────

   せの信之。涼しい顔で片手で頬杖をつ

   いて、雑誌を読んでいる。その真後ろ

   に小障子の摺り上がっている雪見障子。

   ガラスの奥に見えている廊下を仁之が

   右左に走り抜け乍ら、

仁之「信之! 信之!」

信之「(OFF)全く気づきませんでした」

   信之、全く動じず、涼しい顔で雑誌を

   捲る。


⑳ 藤之宮神社・社務所の中

   御朱印を書いている信之、

信之「ところで」

   平机の上に様々な色柄の、山積みの御

   朱印帳。T.Bし乍らP.U、平机の後ろ、

   下手から敦之、和之、信之。平机を前

   にして、一列に座っている。

信之「(平机を見て)なぜ、このような事に

 ?」

仁之の声「ジジイだよ」

   社務所の窓際に座っている仁之。敦之

   達に背中を向けて、御朱印を書いてい

   る。信之、敦之の陰から顔を覗かせて、

信之「お爺様ですか?」

仁之「(御朱印帳を畳んで)朝食めしの」


㉑ 同・境内(回想・朝)

仁之「(OFF)後な……」

   SE、朝拝の太鼓の音。

   拝殿前。キレイに雪かきされている参

   道。降っている雪。


㉒ 同・廊下(回想・朝)

   慶之やすゆきを先頭に歩いて来る壽生よしお、仁之、

   真之、敦之、和之、信之、将之。皆、

   神職姿。慶之のみ、紫色の差袴。慶之

   と壽生、ちらりと見えてすぐにFr.out

   する。

真之「(寒がって)今日……お参り来てくれ

 るかなァ」

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仁之「一日いちんち、雪止まねェって言ってたな」

真之「うちってさ」


㉓ 東山の地図

   東山の稜線に沿って描かれたヘタウマ

   な絵。下手ギリギリに知恩院。上手へ

   順に八坂神社、京都霊山護国神社。京

   都霊山護国神社の手前に建仁寺。更に

   上手に高台寺、清水寺まで。

真之「(OFF)総本社や総本山、名刹めいさつ古刹こさつ

 囲まれてるじゃない」

   地図上、あらゆる名刹古刹に次々と矢

   印。以下、六ヶ所のみT表示。

   T『知恩院』

   T『八坂神社』

   T『京都霊山護国神社』

   T『建仁寺』

   T『高台寺』

   T『清水寺』

仁之「(OFF)まーな。晴れてても、そうそ

 う訪ねて貰える場所じゃねーしな」

   と、長楽寺山町と円山町の境付近に大

   きな矢印が点滅して、T『現地 大体、

   ここらへん』。


㉔ 同・社務所の中(回想・朝)

慶之の声「壽生よしおさん、アレ、将之に手伝って

 貰ったらどうじゃ。将之」

将之の声「はい」

壽生よしおの声「お休みの日に申し訳ないね、将之

 くん」

将之の声「いいえ」

   SE、襖の閉まる音。

   廊下を歩いて行く敦之、和之、信之。

   敦之、社務所内の仁之に、

敦之「あと頼んだぞ」

仁之「(敦之達に)雪かきサンキュー」

   T.Bして几帳、更にT.Bして窓際に真

   之。座る。と、外から窓をコンコンと

   ノックする女Aの手。気づく真之。

──────────────────────

㉕ 同・社務所の前(回想・朝)

真之「お預かりします」

   と、社務所から顔を出して、二冊の御

   朱印帳を受け取っている真之。外、そ

   の前に女AとB(共に20代)。傘を差

   して立っている。

女A「お願いします」

慶之の声「これはこれは」

   開いている入口(引き戸)から顔を覗

   かせている慶之。慶之の上に、T『祖

   父 慶之やすゆき(83歳) 藤之宮神社 宮司ぐうじ』。

   女AとBに、

慶之「(笑顔で)お足元の悪い中、ようこそ

 お参り下さいました。さ、どうぞ中でお待

 ち下され」

信之「(OFF)なるほど」


㉖ スマートホンの画面

信之「(OFF)それで」  

  ツイッターの画面に書き込まれていく文

  字。

  「今、藤之宮神社に来ています。今日は

   すっごい雪! 御朱印を待っている間、

   社務所の中に案内されて」


㉗ 藤之宮神社・座敷A

信之「(OFF)このような事に」

   シーン㉖のスマートホン画面をさっと

   T.Bして、座敷A全景。ずらりと座って

   いる女達。一人、または複数連れ様々。

   皆、防寒着を脱いで、互いに話したり

   スマートホンを触ったりと楽しそう。

和之「(OFF)婚活だろ」


㉘ 同・社務所の中

   御朱印を書いている信之、和之、敦之。

信之「婚活?」

和之の声「兄貴の」

   硯で墨を磨っている敦之。ギギギッと

   墨を硯に押し付けて、

──────────────────────

   ──仰角で。

   固まっている敦之。顔、目元は影にな

   って見えないが真剣な表情。

   T『長男 敦之(32歳)、彼女イナイ

    歴 年相応』

    ×    ×    ×

   後ろ姿の信之、和之、敦之。敦之、固

   まったまま。

和之「選びたい放題だな、兄貴。どれにする

 よ」

信之「では、和之兄さんも対象ですね」

和之「(ハッと一笑して)俺は女に困ってい

 ねェ。それよりも、お前こそ対象だぞ。父

 さんはお前を追い出したがってるからな」

信之「私?」

   信之、(和之に向かって)にっこり微

   笑む。フレームに艶やかに糸菊が咲き

   誇って、

信之「私は、母さんへの愛を隠していないだ

 けですよ」

   SE、廊下を歩いて来る音。

   几帳を挟んで背中合わせに下手に真之、

   上手に敦之達。敦之、固まったまま。

信之「鬼畜の和之兄さんと一緒にしないで下

 さい。失礼な」

和之「究極マザコンど変態のお前に言われる

 筋合いはェ」

   真之、畳に手をつき、几帳から覗き込

   み乍ら、

真之「(和之達に)あの~……まる聞こえな

 んですけど」

   SE、襖が開く音。

壽生の声「あ、良かった。信之君」

   信之、気づいて見る。と、

   開いた襖の傍に壽生。廊下に膝をつい

   て手を合わせて、

壽生「(申し訳なさそうに)お義父さんが御

 本殿の説明をしてるんだけど」

   壽生の上に、T『義伯父 山本壽生よしお

   (62歳) 藤之宮神社 禰宜ねぎ』。

──────────────────────

   顔を上げる仁之。気づいて、


㉙ 同・拝殿の中

壽生「(OFF)お待ちの皆さんを、おもてな

 しするようにって」

   春日造の本殿(第一~第四殿)を前に

   して、拝殿の中に慶之と女達。慶之、

   にこにこして説明している。その風景

   を本殿からゆっくりT.Bし乍ら、


㉚ 同・社務所の中

壽生の声「お茶席、お願いできるかな」

   シーン㉙からのT.B、ガラス窓の外に

   拝殿。女達を案内している慶之が見え

   ている。その手前に仁之(後ろ姿)。

仁之のM「ジジィ! 仕事増やすンじゃねー

 よッ!」

   壽生の後ろに立っている将之、

将之「信之、頼む」

信之「はい(と立ち上がる)」

将之「敦之」

敦之「はい」

将之「(中に)真之」

   真之、振り返って、

真之「はい」

   几帳の前に座っている真之。

将之の声「信之を手伝ってやれ」

敦之の声「はい」

真之「(嬉しそうに)はい」

   と、立ち上がる。

壽生の声「信之君に頼むのは、ホント申し訳

 ないんだけど。ゆきえにも手伝わせるから」

   SE、襖の閉まる音。

   御朱印を書いている仁之の後ろに和之。

和之「俺も、この閉塞された野郎ばっかの空

 間から出て行きてェ」

仁之「(渋い顔で)俺は毎日まいんちいるンだよ。こ

 の閉塞された空間に、ナオと二人でな」

将之の声「仁之」

   仁之、振り返って、

──────────────────────

仁之「はい」

将之「それが済んだら、先に食事を済ませろ。

 和之」

和之「(少し嬉しそうに)はい」

   歩いてFr.outする仁之。将之(後ろ姿)、

   仁之の場所に座って、

将之「(重く)お前はここに残れ」

和之「(小さく舌打ちして)……はい」


㉛ 同・台所

仁之「……って言われてきたンだけど」

   入口に立っている仁之。T.Bして台所

   全景。仁之の後ろ、水指を持った真之。

   板間の中央に大きなテーブル、その上

   に大きな寿司桶がふたつ。ひとつは白

   飯、もうひとつには沢山のおにぎりが

   並んでいる。その傍にゆいか。必死に

   おにぎりを握っている。大きな鍋のか

   けられたコンロの前にゆきえ。小皿で

   味見をしている。

真之「(驚いて)わッ! 何!?」

   T『修羅場』

潮 「(鬼気迫る顔で)仁之!」

   エプロン姿の潮、おにぎりがいっぱい

   並んだ寿司桶を仁之に渡して、

潮 「はい! コレ、持って!」

仁之「えッ、俺」

潮 「一緒に食べて!」

仁之「(驚いて)一緒!?」

   ゆきえ、大きな鍋を壽生に渡して、

ゆきえ「はい! あなた! 熱いから気をつ

 けて!」

壽生「は、はい」

   ゆきえの上に、T『伯母 山本ゆきえ

   (61歳)』。

   ゆいか、三段に重ねた膳を真之に渡し

   て、

ゆいか「ナオちゃんはコレ! 食べたら下げ

 に来てね!」

真之「(圧倒されて)う、うん。解った」

──────────────────────

   ゆいかの上に、T『従妹いとこ 山本ゆいか

   (17歳)』。


㉜ 同・座敷B

   合掌している慶之。食前感謝を詠み上

   げて、

慶之「……日の大神の、めぐみえてこそ」

   座敷全景。上座の平机にひとり慶之。

   正面を向いて静座している。その前に、

   I字に並ぶ沢山の平机に座っている女

   達。平机の上、皿におにぎり二個と牛

   ごぼう煮、小さな鮭の切り身と一切れ

   の卵焼き。傍に味噌汁椀。皆、合掌し

   て、

慶之・女達「いただきます」

   T.Bして、合掌していると壽生(奥)

   と仁之(手前)の横顔。目を閉じてい

   る仁之、難しい顔で、

仁之・壽生「いただきます……」


㉝ 同・座敷C

   一列に並んでいる敦之、信之、真之。

   各自膳を前にして、正座して食べてい

   る(食事内容はシーン㉜同様)。

真之「お昼……出したんだ」


㉞ 同・社務所の中

敦之「(OFF)あの量じゃあ」

   御朱印を書いている将之。

   その手元、力強い八段の文字。

敦之「(OFF)全部お渡しできるのは、昼過

 ぎるからな」

   御朱印を書いている和之の前、平机に

   山積みの御朱印帳。


㉟ 同・座敷C

真之「(外を見て)雪……」

  障子が開けられた縁側。ガラス引き戸の

  外に雪景色の庭が見えている。降ってい

  る雪。

──────────────────────

真之「(外を見て)……止まないね」  

   (外を)見ている信之。

   食べ終わった信之。美しい所作で箸を

   置いて、

信之の声「敦之兄さん」

   (信之を)見る敦之。

信之の声「ナオ」

   (信之を)見る真之。

信之「慌ただしくなりますが、一度に大勢を

 おもてなしするには、この方法が一番です」


㊱ 同・社務所の中

   立ち上がる和之。

   御朱印を書いている将之、

将之「どこへ行く」

   将之の後ろで立っている和之、

和之「手水ちょうず

   T『手水ちょうず(この場合はトイレの事)』

将之「ひとりで行けるか」

和之「父親と一緒に行くのは卒業した」

将之「そうか」


㊲ 同・社務所前の廊下

将之の声「五分で戻れ」

   廊下に膝をついている和之、

和之「はい(小さく舌打ちする)」

   と、襖を閉める。


㊳ 同・台所

   真之、廊下から、

真之「(中に)母さん」

潮 「ん?(と振り返る)」

   と、口におにぎりをくわえている。

真之「信之兄さんが、こっちでお茶てるっ

 て。お茶碗全部出してって。銘々皿も使え

 るだけ……」

潮 「(口だけでもぐもぐ食べ乍ら)解った」

   と、水屋みずや箪笥たんすを開ける。

真之のM「見ちゃった……みんなには黙っとこ」

真之「(中を見渡して)伯母さんは?」

──────────────────────

㊴ 同・手水前の廊下

潮 「(OFF)お手水ちょうず。ゆいかちゃんも」

   タイル製の長い洗面台。洗っているゆ

   ゆいかの手。

ゆいか「もー、お爺ちゃんのバカァッー!」

   その隣(奥)で手を洗っているゆきえ、

ゆきえ「(たしなめて)しっ! 皆さんに聞こえ

 るでしょ」

   ぶすっとしているゆいか。手を洗い終

   わる。と、その後ろ、手水(引き戸)

   から出て来る和之。

和之「(二人に)伯母さんもゆいかちゃんも

 ありがとう」

   と、爽やかに微笑む。

   (和之を見て)ぽーっとするゆいか。

ゆいか「(赤面し乍ら顔を背けて)ダメダメ。

 そんなんでだまされないもんッ!」

和之「(手を洗い乍ら)もー通じないかァ

 (と笑う)」

ゆいか「お母さーん。お腹空いたー」

和之「(手を拭き乍ら、ゆいかに)お昼まだ

 なの? じゃあ一緒に食べようか」

   不気味に笑う和之の口元。

和之「きっと、ゆっくりできるよ」


㊵ 同・座敷B

   緊張して食事をしている女性達。ギク

   シャクして、思った様に箸が進んでい

   ない(食事内容はシーン㉜同様)。

   美しい所作で箸を置く和之。

   慶之の座っていた場所に和之。食べ終

   わっている。爽やかに微笑んで、

和之「どうぞ、ごゆっくり」

   和之を見ている女達、

女達「(赤面して)は、はいッ」

   壽生の座っていた場所にゆいか。もぐ

   もぐと食べている。見えている上座、

   美しい所作でゆっくりお茶を飲んでい

   る和之。緊張して食べている女達。

ゆいかのM「(上座を見て)やっぱイケメン

──────────────────────

 の影響力って凄いなァー……(と右手側を

 向いて)もーちょっと食べちゃお」

   と、平机に置かれた寿司桶からおにぎ

   りをふたつ取り出す。


㊶ 同・廊下

   歩いて来る仁之。

仁之のM「(難しい顔で)全然ぜんっぜん、食った気が

 しねェ」


㊷ 同・社務所の中

   襖が開く。と、廊下で膝をついている

   仁之。襖に手を添えている。

将之「和之は」

   仁之、入って来て、

仁之「昼飯めし、食ってる」

   見えている平机。山積みの御朱印帳が

   無くなっている。

将之「そうか」

   将之、振り返って、

将之「順にお渡ししていけ」

   と、御朱印帳を差し出す。

仁之「(御朱印帳を受け取って)はい」

   真之の場所を見ている仁之、

仁之のM「全部書いたンかよッ! マジかッ

 !」

   真之の席(机上)に山積みの御朱印帳。


㊸ 同・手水前の廊下

   手水を通り過ぎる和之。

敦之の声「どこへ行く」

   和之の後ろに敦之。火鉢を持っている。

和之「(進行方向を向いたまま)手水ちょうず

敦之「今、通り過ぎただろ」

和之「うっかりしてた」

   と、手水の中から戸(引き戸)を閉め

   る。

   ゆっくり開く手水の戸(引き戸)。

   戸(引き戸)の横に敦之。壁を背に立

   っている。

──────────────────────

   敦之、ちらと(戸を)見る。と、

   和之、手水に顔を引っ込め乍ら、ゆっ

   くり戸(引き戸)を閉める。


㊹ 同・台所

信之「では、伯母様」

   テーブルの上、抹茶茶碗(以下、全て

   同じもので薄紫色、正面に『下り藤』

   の社紋)の中に茶筌。それを持ってい

   る信之の手が素早く動き出す。

   と、テーブルに信之とゆきえ。立礼式

   で茶をてている。二人、その素早い

   手元。

   テーブル上に、何も置かれていない長

   方形の大きな盆。次々に点てられた茶

   碗が置かれていく(ひとつひとつ、ポ

   ッポッポッと出現する様に)。

   素早く茶を点てている信之。

   同、ゆきえ。

   二人のその手元、益々速くなる。

   長方形の盆にずらっと茶碗が並ぶ。と、

   その盆を下げていくゆいか。そこに新

   たな長方形の盆(同じもの)が置かれ

   て、点てられた茶碗がまたポッポッポ

   ッと出現する様に置かれていく。

   素早く茶を点てている信之。

   同、ゆきえ。

   二人のその手元、加速度的に早くなる。

   長方形の盆にずらっと茶碗が並ぶ。と、

   その盆を下げる潮、新しく置かれる長

   方形の盆、また置かれる茶碗が加速度

   的に早くなる(くどくならない様に、

   スピード感良く繰り返す)。

   信之、テーブルに静かに茶筌を立てる。

   立っているゆいかの傍にテーブル。

   その上、茶碗がずらりと並んでいる長

   方形の盆。

ゆいか「お……お見事でした……」

信之「では、伯母様」

ゆきえ「私達も一服」

──────────────────────

   と、二人涼しい顔で、ティーカップか

   ら紅茶を飲む。テーブル上、ティーポ

   ットとビスケットが盛られた皿。


㊺ 同・手水前の廊下

   火鉢を持った敦之がFr.out。誰もいな

   い手水前廊下。

   暫くして、手水の戸(引き戸)が静か

   にすー……と開いていく。と、

和之「!」

   と、大仰に驚いて身を引き、戸(引き

   戸)に背中を打ちつける。

   敦之の立っていた場所に将之。腕組み

   をして和之を見ている。

将之「まってると思って、見に来てやった」

和之「(どきどきして)いや……うち、水洗

 だし」


㊻ 同・庭

   廊下の窓(格子越し)から手水前の将

   之と和之が見えている。

将之「来い。お前好みの仕事がある」

   と、歩き出す。

和之「(小さく舌打ちして)……はい」

   と、将之について行く。

   庭木にどっさり雪が積もっている。

   まだまだ降っている雪。


㊼ 同・座敷C

   障子が取り払われて、ガラス引き戸が

   開けられている。畳一面に赤いもうせん

   雪見の茶席。女達、火鉢で手を焙る者、

   敦之と真之から抹茶茶碗を受け取る者、

   潮とゆいかから上用饅頭を受け取る者、

   お互いに話している者、スマートホン

   を触っている者。いずれも楽しそうな

   風景。

女Cの声「あの~」

   気づく真之。

女C「(紅顔して、遠慮深く手を挙げて)質

──────────────────────

 問してもいいですか?」

真之「(にこっと)はい」

女C「こちらには、巫女さんはいないんです

 か?」

   周りの女達、口々に「そういえば」

   「見ないよね」「見てない」等。

   女Cの前に座っている真之、

真之「うちは男兄弟なので、巫女はいないん

 です」

女D「え、男? 兄弟ですか?」

真之「はい。あちらが」

   と、体を開いて横を向いて、

真之の声「長男です。そして」

   女に茶碗を手渡している敦之。

真之「(向き直って)本日のまえは」

   毛氈の上に抹茶茶碗(薄紫色)。その

   正面に『下り藤』の社紋が施されてい

   る。銘々皿、懐紙の上に上用饅頭。

真之の声「僕のすぐ上の兄が務めさせていた

 だきました」

女D「三人兄弟なんですか」

真之「いいえ」

女C「いいえ!?」


㊽ 同・社務所の前

真之「(OFF)あと二人おります」

   社務所から顔を出している仁之と和之。

   傘を差した女達に御朱印帳を手渡して

   いる。降っている雪。


㊾ 同・座敷C

真之「(にこっと)そして僕が、一番下の五

 人目です」

   ぽかんとしている女達。一変して、一

   斉に黄色い歓声を上げる。

真之のM「そんなに神職、珍しい? 僕達、

 和歌山のパンダ並み?」

   ゆいか、ぶーっとして、

ゆいか「私ィ、巫女してるのにいィ。ホンッ

 ト、みんな、イケメン狙いなんだからァ」

──────────────────────

潮 「(気を遣って)いつもお手伝い、あり

 がとうね」

   ゆいかの上に、T『従妹いとこ ゆいか(17

   歳)、藤之宮神社 巫女(アルバイト

   ・但し繁忙期のみ)』。


㊿ 藤之宮神社風景

   拝殿の中。案内している慶之と、その

   周りに女達。慶之の説明を聞いている。

       ×    ×    ×

   社務所の前。社務所から顔を出してい

   る仁之と和之。傘を差した女達に御朱

   印帳を渡している。降っている雪。

和之「(爽やかに微笑んで)本日は、ようこ

 そお参り下さいました」

   傘を差して御朱印帳を持っている、女

   EとF。ぽーっとなって前を見ている。

   社務所の中。仁之、和之に背をけて、

仁之「(呟いて)……ったく。コロッと騙さ

 れンのな」

   仁之の後ろ、爽やかな笑顔で御朱印帳

   を渡し続ける和之。

    ×    ×    ×

   真之の席(机上)に山積みの御朱印帳

   (シーン㊷同様)。F.Oして量が減る。

    ×    ×    ×

   祢宜の部屋。黒電話の受話器を耳にし

   ている壽生。

    ×    ×    ×

   真之の席(机上)に山積みの御朱印帳。

   更にF.Oして量が減る。

    ×    ×    ×

   台所。立礼式で茶を点てている信之と

   ゆきえ。抹茶茶碗の並んだ長方形の盆

   を持って台所を出るゆいか。それらの

   一番手前に潮。膝をついて、土間の菓

   子司に深々と頭を下げている。潮の傍

   に三段に重ねられた和菓子のフードコ

   ンテナ、『鶴屋吉信』の文字。

    ×    ×    ×

──────────────────────

   真之の席(机上)に山積みの御朱印帳。

   また更にF.Oして量が減る。

    ×    ×    ×

   座敷C。雪見の茶席。閉まっているガ

   ラス引き戸。外、降っている雪。

   抹茶茶碗を手渡している敦之。

   上用饅頭を手渡している真之。

   座敷内の女達、シーン㊼の三分の一程

   度に減っている。

    ×    ×    ×

   真之の席(机上)に山積みの御朱印帳。

   また更にF.Oして量が減る。

    ×    ×    ×

   社務所の中。御朱印を書いている将

   之。その手元、力強い八段の文字

   (シーン㉞同様)。

   外の女達に御朱印帳を渡している仁之

   と和之。女達、傘を差している。

    ×    ×    ×

   真之の席(机上)に山積みの御朱印帳。

   また更にF.Oして、一冊も無くなる。


51)藤之宮神社・座敷B

潮 「(がくっと膝をついて)終わった……」

   壁に立て掛けられた多くの平机。その

   前でばたっと倒れる潮。すぐ横に信之。

信之「母さん!」

   信之、潮を力強く抱き寄せて、

信之「母さん! しっかりして下さい!」

潮 「信之……あなただけが頼りなの……」

信之「何でも言って下さい。私は母さんの為

 なら」

   と、潮の手を自分の胸元でぎゅっと握

   る。

潮 「信之……」

   潮、空いている手を信之の頬に伸ばし

   ていく。

信之「(潮に顔を寄せて)母さん」

   フレームに艶やかに咲き誇る糸菊。ま

   るでキスシーンの様に、ゆっくりと顔

──────────────────────

   が近づいていく潮と信之。潮の伸ばし

   た指先が信之の頬に触れる。と、

   画面、元に戻って、

   SE、お腹の鳴る音。

潮 「(目を閉じて)晩御飯、お願い」

信之「(目を閉じて)解りました」

   将之、屈んで、

将之「大丈夫か」

信之「(将之に)お願いします」

   と、潮を将之に預ける。

   潮を抱き寄せる将之。

潮 「(目を開けて)あなた……」

将之「ありがとう。助かった」

潮 「(微笑んで)あなた……」

   と、将之の頬に手を伸ばす。ゆっくり

   と顔が近づいていく二人。フレームに

   艶やかに糸菊が咲き誇る。潮の掌が将

   之の頬に触れる。と、


52)同・台所

   土間でゴミ袋の口を閉めているゆいか。

   その傍、満杯でぱんぱんに膨らんでい

   る沢山のゴミ袋。

潮 「(OFF・真面目に)明日のゴミ出し、

 忘れずに手伝って」

将之「(OFF)解った」


53)藤之宮神社風景(夕)

   台所。片づけをしているゆきえとゆい

   か。入口、将之に支えられて入って来

   る潮。

    ×    ×    ×

   座敷Cの縁側。火鉢の炭を火消し壺に

   入れている敦之。

   座敷C。毛氈を巻いている真之。

    ×    ×    ×

   庭。座敷Aから雨戸を閉めている和之。

    ×    ×    ×

   座敷A。和之、雨戸を完全に閉めきっ

   て施錠する。点いている室内照明。

──────────────────────

    ×    ×    ×   

   藤原家台所。白菜を切る信之。私服に

   首掛けの胸当てエプロン姿。鍋の支度

   をしている。

    ×    ×    ×

   境内。西参道に去って行く数人の女達

   を見送る慶之と壽生。皆、傘を差して

   いる。降っている雪。


54)藤之宮神社・社務所の前(夕)

   社務所から雨戸を引いている仁之。

女Gの声「あ……」

   気づいて、(女Gを)見る仁之。

   境内(西参道)に立っている女G。

   差した傘で目元は見えない。社務所を

   見ている。


55)同・台所(夕)

   静かに茶筌をテーブルに立てるゆきえ

   (手)。

真之「伯母さん、ありがとう」

   真之、抹茶茶碗と上用饅頭が乗った盆

   を持っている。テーブルにゆきえ。立

   礼式で茶を点てたあと。

ゆきえ「(真之に)いいえ」


56)同・社務所の中(夕)

   御朱印を書いている仁之。P.Dして、

   その手元。


57)同・社務所の玄関(夕)

   上り口、座布団に腰かけている女G。


58)同・社務所の中(夕)

   御朱印を書いている仁之、その手元。


59)同・社務所の玄関(夕)

   女Gに茶をもてなしている真之。


60)同・社務所の中(夕)

──────────────────────

   御朱印の押される御朱印帳。御朱印が

   Fr.outする。と、将之とは違った八段

   の文字。中央に『藤之宮』の文字と社

   紋『下り藤』の御朱印。右上に『奉拝』、

   左側に年月日。


61)同・社務所前の廊下(夕)

   盆を下げる真之と襖を開ける仁之が鉢

   合って、

真之「(仁之に)丁度良かった」

   仁之、手に漆の祝儀盆。その上に御朱

   印帳。


62)同・社務所の玄関(夕)

   仁之、座る。と、姿勢良く美しい所作

   で手をつき頭を下げて、

仁之「ようこそお参り下さいました」

   仁之の前に漆の祝儀盆。その上に御朱

   印帳。

   立っている女G、頭を下げている仁之

   に、

女G「ありがとうございます」

   と、深々と頭を下げる。髪に隠れて目

   元は見えない。


63)同・社務所の前(夕)

   女G、目の前の慶之に頭を下げて礼を

   している。髪に隠れて目元は見えない。

   雪、止んで夕景。


64)同・西参道(夕)

   並んで歩いて行く慶之と女Gの後ろ姿。

   楽しそうに話している。その上手に簡

   素な生垣。表札『藤原』。換気扇から

   温かな湯気が出ている。


65)同・西参道下(夕)

   遠くに女G。振り向いて礼をしている。

   顔、夕日の陰になって見えない。その

   手前に慶之。手を振って見送っている。

──────────────────────

   傍に『迂回路 神社はこちら』の看板。


66)同・社務所の中(夕)

   雨戸が閉められて室内照明が消えてる

   る。廊下からの灯りで落ちている人影

   (仁之)、静かに襖を閉めていく。と、

   真っ暗になる。

   SE、夕拝の太鼓の音。


67)藤原家・一階座敷A(夜)

   食卓の中央に水炊きの鍋。

   食事をしている将之、潮、信之、真之、

   仁之、和之、敦之(着席位置、シーン

   ②同様)。皆、私服姿。

信之の声「お気に召す女性はいましたか?」

   目を閉じて、呑水とんすいと箸を持った敦之、

敦之「(渋い顔で)見ている暇など、全く無

 かった」

   眼鏡が曇っている和之、呑水から鶏肉かしわ  

   を食べ乍ら、

和之「ここで手ェ出したら、まんま足がつく

 しな」

   信之、膝立ちになって、

信之「足がつかなきゃヤルんですね。そこ、

 さらって下さい。白菜入れますから」

和之「あ? 曇ってて見えねェ」

信之の声「眼鏡無くても見えるでしょう」

   小さく舌打ちをして、両手でしぶしぶ

   眼鏡を外す和之。

真之「最後の人……間に合って良かったね」

敦之「あれから来た人がいるのか?」

真之「(敦之に)うん。ひとり」

信之「(仁之に)どんな方だったんですか?」

   鍋に箸を伸ばしている仁之、

仁之「(信之に)あ?」

   仁之、鍋から具を取り乍ら、

仁之「(平静に)目……と鼻と口。は、あっ

 たな」

真之「(仁之に)眼鏡かけてたでしょ。あれ

 ? (自信無さげに)違ったっけ」

──────────────────────

   仁之に矢印、T『はなっから女を見る

   気なし』。真之に矢印、T『女性を見

   分ける事ができない』。


68)藤之宮神社・境内(夜)

   暗い。常夜灯の灯りだけが灯っている。

   温かな居間の灯りが映っている石畳。

   その両脇に溶けている雪。ゆりな、ゆ

   づきの笑い声。


69)山本家・表(夜)

   温かな門灯に照らされている表札『山

   本』。

ゆづきの声「へー、そんなに沢山来てくれた

 んだァ」

   

70)同・居間(夜)

   上座の慶之から時計回りに食卓を囲ん

   でいる壽生、ゆきえ、ゆいか、ゆづき、

   ゆりな。食卓の中央に水炊きの鍋。食

   卓全景で。

ゆりな「(慶之に)じゃあ、私達が巫女にな

 ったら、イケメン沢山来るかしら?」

慶之「(上機嫌で)そーじゃなッ! 来週は

 それでいくとしようッ!」

ゆづき「楽しみーッ!」

   ため息をついて、げっそりしている壽

   生、ゆきえ、ゆいか。

   画面右下に、T『つづく』。


71)用語解説画面

   藤之宮神社境内。正面に拝殿。下手一

   番手前に神職姿の慶之。

   慶之の上に、T『藤原ふじわら慶之やすゆき(83歳) 

   藤之宮神社 宮司』

慶之「(にこにこして)さて、『弥栄いやさか!』第

 一回はお楽しみいただけたかの。最後に、

 神社の専門用語を紹介していこう。一番最

 初に紹介するのは、宮司じゃ」

   イメージBG、用語解説画面になって、

──────────────────────

   ルビつき縦書きで大きく、

   T『宮司ぐうじ

   『宮司』のTより小さなポイントで、

   T『神社の長である神官。一般神社の

    主管者をもいう』

   T『大辞林第三版(三省堂)より抜粋』

   慶之、セリフに合わせて指示棒でTを

   示し乍ら、

慶之「宮司とは、神社の長である神官。辞典

 には『神官』と書いておるが、これは神職

 の事じゃ」

   T『神官』に矢印、T『神職しんしょくの事』。

康之「そして神社の主管者でもある。この主

 管者とは、責任を負って、管理・管轄する

 者の事でな」

   と、イメージBGが藤之宮神社境内に変

   わる。慶之、正面を向いて、

慶之「まァ、神社の代表取締役。社長と思う

 てくれればよいわ。これはどこの神社でも

 必ず一人と決まっておる。ここ藤之宮神社

 では、このワシの事じゃ」

   イメージBG、実際の神社・宮司の写真

   (数点)になって、

慶之「そうそう、ワシを『神主かんぬしさん』と呼ば

 れる方がおるがの。『神主』は昔、役職の

 ひとつじゃったが、今は意味が変わって、

 神職の事を言う。したがって『神主さ~ん』

 と呼ぶと」

仁之「(振り返って)?」

真之「(振り返って)?」

壽生「(振り返って)?」

   にこにこして振り返る慶之。

   再び藤之宮神社境内。慶之の後ろに並

   んでいる壽生、仁之、真之。皆、神職

   姿。仁之、腕組みをしている。

康之「と、ここに並んでおる四人が、皆、振

 り返るぞ。さて次回は、『禰宜ねぎ』を紹介し

 よう。うちでは壽生さんの事じゃ。それで

 は、また。(元気よく)弥栄いやさか!」

   と、手を上げる。同時に手を上げる壽

──────────────────────

   生、仁之、真之、

壽生・仁之・真之「(元気よく)弥栄いやさか!」

   遠慮深く笑って手を振っている壽生の

   横で、

真之「(手を振り乍ら仁之に)解ったかな?」

   仁之、渋い顔で頭をひねって、

仁之「(手を振り乍ら)どーだかな」

   画面右下に、T『次回は『禰宜ねぎ』』。



   第一回『ようこそ、藤之宮神社へ』終

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