ダイダロスの息子たち~勇気一つを友にして~
寝る犬
ダイダロスの息子たち~勇気一つを友にして~
人にはもともと翼があった。
2180年の今となっては疑うものも居ない学説ではあるが、2020年代に論文が発表された頃には、いわゆる「トンデモ学説」として相手にもされなかったそうだ。
研究が進み、肩甲骨の位置にある
「じゃあ行ってきます」
「いってらっしゃ~い」
タワーマンションの42階。
自宅バルコニーで妻と子供に見送られ、背中の義翼を大きく開く。
型落ちではあるが、国産メーカーのロゴが入った翼は、筋電位に従い風を孕んだ。
一気に上空200メートルまで飛び上がり、制限速度の時速120キロで会社へと向かう。
最近は空の渋滞もひどく、飛行速度による高度制限も50メートルごとに3回層に分けられている。
下の方では、ゆっくりと空の散歩を楽しむお年寄りの姿が見えた。
「よっ、
同期の
速度を落とさないまま、私も挨拶を返した。
「お前、今朝のニュース見た?」
「見たけど……どのニュース?」
「また
あぁそのニュースか、と軽く受け流す。
ここ数十年、骨の密度が低下する病気が、若い世代にまで広まっているのだ。
しかしそれも、今になって始まったことではない。
この義翼が世間に広まったのと同じころから、数十年かけて広まったものだった。
「今更だろ、そんなニュース」
「いや、なんか今までの骨粗鬆症とは比べ物にならないくらいひどいらしくてさ、骨の中身が完全に空っぽになって、たくさんの支柱で支えてるようになる症状らしいよ」
「もうそれ人間の骨じゃないな」
「それな~」
「脳の容積も小さくなってきてるって話だし、やばいよな」
「あぁ鶏みたいに三歩歩くと忘れるような健忘症も増えてきたってやつだろ?」
「人類退化しすぎだろ」
「いろいろ便利なものがありすぎるのかもな」
翼も手に入れたしな、と話していると、やがて会社の屋上が見えはじめ、私たちは高度を落とす。
最近の義翼は性能が上がっているため昔ほどではないが、それでもやっぱり空を飛ぶのは疲れるものだった。
「はぁ疲れた。最近体が重くてな、ダイエットしようかと思って」
「飛ぶときにダイレクトにきついからな」
「ほんとそれ。鳥みたいに骨格から軽くしないと、もう技術的にも頭打ちだって話だしな」
「人間も翼を手に入れたんだから、進化すればいいのに」
まったくだ、と笑いながら、屋上へと着地する。
周囲では、着地に失敗した同僚が何人か、骨折していた。
この翼にはたしかに危険はある。
しかしそれでも、私たちは大空を自由に飛び回る力を手放すことはできないだろう。
――了
ダイダロスの息子たち~勇気一つを友にして~ 寝る犬 @neru-inu
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