覗きはいけません

色々と解せないことはあったがあれからは特にこれといった問題は起きなく、昼休みとなる。

昼休みは偉大だ。

この学園の昼休みはなんと一時間もあるという。

ご飯を食べる時間約十分と授業の準備時間五分をを差し引いても大体四十五分は自由時間となる。

この四十五分は貴重ともいえよう。


「よっしゃ、昼休みだ!」


チャイムが鳴ると同時に教室から飛び出していく雷牙。

先ほど知り合い仲良くなった彼はどうやら急ぎの用事があるらしい。

ただかなり急いでいる割には机と椅子はちゃんと綺麗に整えていたから彼は見た目ほどチャラくないのでは?とさえ思えてくる。


「晴一、一緒に食堂に行こうぜ。席はさっき飛び出して行った雷牙が確保してくれてるはずだから」

「雷牙をパシリに使ってんのかよ。いいやつすぎんだろ」

「雷牙くんは僕たちの中で一番足が速いし彼がいるから食堂の席はいつも確保できてるんだ」

「ここの食堂は席が埋まるのが早くてな…。あいつがいない時は人が食べてるのを恨めしそうに見るしかないんだ」


いつの間にか集まっていた吹雪と安曇も当然のように語る。

本当に恨めしそうに見てるしかできないんだろうか…と思いつつも安曇が遠い目をしているので何も聞かないことにする。

いつの世も食卓は戦争なのである、のだと考えさせられる。


「まあとりあえず食堂に行こうぜ。雷牙をいつまでも待たせるわけにはいかないしな」

「そうするか」


四人で食堂に向かうとする。

ちなみに俺は食堂までのルートを把握しているわけではないので道案内も兼ねてだ。

移動する前に隣の席にいた相田さん(神代さんもいつの間にかいる)の方を見てみると彼女もちょうどこちらを向いていたらしく、ニコッと微笑みながら軽く手を振ってくれた。

何この天使、可愛すぎる。

心がぴょんぴょんするんじゃ。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「あとはここを真っ直ぐ行けば食堂だよ」

「この学園ってかなりでかいと思ってたけどあんまし迷うこともなさそうだな」

「晴一よ、それはフラグというものだぞ?」


この学園はかなりでかい。

マンモス校というわけではないが武装国家となった今、武器の使用を推奨しているこの学園は多くの生徒を受け入れているのだから当然だ。

もちろん武器を扱わない生徒も中にはいるし強制もしていない。

進学校としても有名なこの学園では別段進路に困ることもない。


「あー、今のうちにトイレに行っとこうかな」

「おう、行っとけ行っとけ」

「それなら先にいって晴一くんの分も頼んでおくよ。何がいい?」

「んー、何がいいと言っても何があるかわかんないしなあ」

「それなら俺のオススメメニュー頼んでおこう」

「さんきゅっ、頼んだ」


時雨、吹雪、安曇と一旦別れ、トイレに向かう。

来た道を戻ればいいのだから迷うこともないんだろう。

トイレを済ませ、足早と戻ることにする。


「ん?あんなところにテラスなんてあったっけ?ちょっと入ってみるか」


戻っている最中で中庭にあるテラスを見つける。

先ほどは時雨たちと話しながら歩いていたので気づかなかったのだろう。

どうせ席は確保してもらってるだろうし、ちょっと覗いたってバチは当たらないだろう、そう思い中庭へ入る。

中庭に入る専用の扉があり、他に出入り口は見当たらない。

中庭には木々や花壇がたくさんあり、自然を感じさせる。

そのまま進んでいくと誰かの気配を感じる。


「ん?誰かいるな。あの人の邪魔になっちゃ悪いし、このままかえ…」


先客がいることがわかり引き返そうとした晴一であったが、その姿を見て思わず言葉を失った。

プラチナブロンドの髪をたなびかせ、優雅に過ごしている女性がいた。

その綺麗なプラチナブロンドにはウェーブがかかっており、キリッとした蒼眼に美しい白い肌、その整った綺麗な顔立ちも全てにおいて完璧と言わざるを得ない女神のような女性。

制服を着ているということは同じ学園の生徒ではあるのだが、その制服ですら彼女の優雅さを更に引き立てているファッションになっている。

そして側にいるのは黒髪黒肌のイケメン執事?みたいな人と白髪白肌の美人メイド?みたいな人がいる。

ただそれだけ…いや待て、なんでここに執事とメイドがいる?

ここ学校ですよね?なんかそういうお店ではないよね?


「クロ、気づきましたか?」

「シロ。ええ、気づいていますとも。お嬢様、何者かがここに侵入してきました」

「っ!?どなたですか?」

「!?」


やばい、気づかれたか?

いや、声も出してないし特別大きな音も出していないはず。

だとするならばあの執事とメイドが俺の気配に気づいた?

別に俺がここから出たところで特に何も問題ないだろうが、優雅なひとときを邪魔されたと思っていたならば今見つかってはまずい。

ならばここは…


「…にゃおーん」

「…なんですか、猫ですのね」

「猫でしたか」

「気のせいでしたか。猫に罪はありませんからね」


…ふぅ、なんとか切り抜けられたか。


「…ってそんなわけありませんわ!!不届き者!早く出てらっしゃい!!」


…ですよねー!

こんな方法でうまくいくとは思っていませんでした!

なんかごめんなさい!

そうこうしているうちに執事とメイドがこちらに向かってきてるよおおお!

誰かたすけてええええええええ!!


「確かこちらから声が…あら?」

「ごめんなさい許してください悪気はなかったんです自分実は今日転入してきたばかりでしてこれは知的好奇心というやつで学食向かっている途中でなんかテラス見つけたからなんか興味が湧いてきたというか本当にちょっと覗いたら帰ろうかなとは思ってたんですけどちょっと見惚れていたと言いますかとにかくごめんなさいもう覗きとかしませんのでほんと訴えるのだけはやめてくださいお願いします…」

「…」


俺は土下座した。

それはもう誰が見ても綺麗だ、と言わせるほどにぴっちりとした土下座だ。

俺はこの人たちがここを覗き見る瞬間に土下座をしたのだ。

その間わずか0.3秒、自分の中ではオリンピック目指せるんじゃないかと思うくらい早い土下座であった。

この執事とメイドもドン引きである。


「にゃ〜」

「ん?子猫?」

「可愛い猫ちゃんですね、クロ。あなたもそう思いませんか?」

「そうですねシロ、これはまごうことなき猫ちゃんです。そこのあなたもそう思いませんか?」

「え?そ、そうですね…」


ああ、終わった…短い人生だったな…とか考えていると助け舟が来たみたいだ。

本当に猫いたのね…。


「ここは私たちがなんとか誤魔化しますので貴方はここから抜け出してください」

「え?」

「貴方にも理由がおありでしょう。この猫ちゃんも一役買ってくれるそうなので今のうちに」

「あ、ありがとうございます…」


クロと呼ばれる執事が「お嬢様、やはり猫でした」と伝えに戻っていく。

シロと呼ばれるメイドが猫を抱き抱えついでに俺をここから逃がしてくれた。

なんだかよくわからないが助かった。

俺はあの猫ちゃんのことを救世主と名付けよう。

あの人たちにも今度あったら礼を言わないといけない、そう思いながら食堂へと戻っていった。


「……」


件のお嬢様からの視線には気付かずに…。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「おーい、晴一、ここだー」

「すまん、遅くなった」

「ずいぶん遅かったね」

「なんだ晴一、結局迷子になったのか?」

「まあそんなとこ」


あれから何事もなく食堂に来ることができ、先にご飯を食べ始めていた四人に迎えられた。


「雷牙本当に席取っておいてくれたんだな」

「まあここの食堂はすぐに席が埋まるし俺一人だけここで食べても味気ないだろ?」

「雷牙には感謝だな」

「エロいエロい」

「別にエロくはねえよ!?」


軽口を叩きながらご飯を食べるのもいいもんだな。

この空間はとても楽しく思える。


「あ、安曇。ご飯頼んでくれてありがとう。何頼んでくれたんだ?」

「いいってことよ。これが俺のオススメメニューだ!」


安曇は自信満々に料理のトレーを晴一に渡す。

トレーに置いてあったのはカレーだった。

…いかにも辛そうな赤色をしたカレーだった。


「…これってなんかやばいものとか入ってないよな?」

「何を言っているんだ?俺はいつも9日れーを頼んでるぞ?」

「あ、言い忘れてたけど安曇は味覚というか色々ズレてるから激辛食べても平気なんだよ」

「今までその激辛カレー食べて平気だったの安曇くんだけだよね…」

「晴一、どんまい…!!」

「マジかぁ…」


時雨、吹雪、雷牙に同情されながらも俺は激辛カレーを食べることにした。

こうして俺の昼休みは終わっていくのだった。

ちなみにこの激辛カレーを食べた晴一はあまりの辛さに身体が耐えきれなくて保健室送りになったとか…。

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ライフ・オア・デッド〜生かすも殺すも自分次第〜 シタムキ @shitamuki

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