妹
「草薙、ちょっと私を手伝ってはくれないか?」
「お断りし「ちなみに拒否権はないし逃しもしない」せめて最後まで言わせて!?」
と、いうわけで…
授業が終わって早々六道先生の手伝いに行く羽目になりました。
いや、まあいいんですよ?
六道先生可愛いし、お願いされたら二つ返事でお願いしたいくらいですよ。
だけどこの人、いきなりジャーマン仕掛けてきた人だからね?
なんか反抗的な態度とればまたなんかやられるに違いない。
きっとそう、晴一くんは詳しいんだ。
などと考えているが、ここでふと疑問に思うことがある。
「そういえば先生、今ってどこに向かっているんですか?」
「今向かっているのは職員室だが、物を運んで欲しくてな。人手が欲しかったところだ」
「はあ。それって別に俺じゃなくても良かったのでは?」
「まあ正直にいうとそうなのだが一応お前を選んだ理由はある」
「理由?」
「そうだ。まあ職員室に着いたら話すから着いてこい」
そう言われて一分もしないうちに職員室に辿り着く。
そして春一はここに来てしまったことを後悔する。
夏希が運んで欲しいと言っていたものは、
「先生、聞いても無駄だと思うんですけど一応聞いたほうがいいと直感で思ったんで聞きます。なんすかこれ?」
「一目見てそれを聞くあたりはなかなかに肝が座っているな。これはそう…金の学園長像だ!!」
「この学校頭おかしいんじゃねえっすか?」
おっと思わず本音が。
とは言ってもこれはあまりにも酷すぎる。
声を大にして叫びたいことその一!
『今時学園長の銅像とか古い!!』
金色だから銅像とは言えないけど突っ込むところはそこではないのは明らかだ。
漫画とかでも見てよく思うのは、なんでこんな意味のない物を作っているのか甚だ疑問だった。
声を大にして叫びたいことそのニ!
『なんでこんなものが職員室に置いてあるの!?』
明らかにおかしいでしょ!?
置くなら普通に校庭でしょ!!
もうツッコミどころしかないよ…
声を大にして叫びたいことその三!
『これを俺一人で運ぶとかどう考えても無理!』
どっからどう見ても重量オーバーだよ!?
俺一人じゃ絶対に無理だし、先生もいたところでこれを運べるようになるとは思えない。
「ちなみに草薙よ。私はこれからやらねばいけぬことがあって手が離せないんだ。だからあとは頼んだ」
「唐突な死刑宣告に怒り通り越して呆れました。」
「大丈夫だ。お前には助っ人も用意している。怯えることはない」
「助っ人?あと某サングラスの大佐風に言わないでください」
「そこは気にするな。まあとにかく頼んだ。後日なるべく褒美をやることにすら。それではなっ」
「ちょっと!?なるべくじゃなくてちゃんと褒美はくださいよ!!って行っちゃった…」
いきなりこんなクソみたいな銅像の前に連れてこられたと思いきや速攻でいなくなる六道先生に殺意を覚えながらもどうしたらいいのか頭を悩ませる。
職員室は校庭からそこまで離れていない距離にあり運搬ルートには困らないだろうが、どう考えても一人で運べるものではない。
そういえば助っ人が来るって言ってたけど…
「お姉ちゃん、おまた〜!ってあれ?転入生くんだ!ここで何してんのー?」
「ん?お姉ちゃん…?」
頭を悩ませていると後ろから声を掛けられたので振り返ってみる。
そこには赤髪のショートカットによく似合うぱっちりとした朱色の眼、ミニスカートからチラッと見えるスパッツが特徴的なボーイッシュな女子がいた。
制服を着ているから上半身からは感じづらいが、チラッと見える脚からかなり鍛えられているのがわかり、なんらかのスポーツをしていることが窺える。
可愛らしくもあり、元気な女の子から発せられたお姉ちゃんとは…もしや!!
「あ、自己紹介まだだったね。ウチは
「ああ、やはりか…」
「まあ顔は似てるかもだけどお姉ちゃんの方が綺麗だし、普通わかんないよね〜」
「ああ、先生は確かに綺麗だが、君も負けず劣らず可愛いとは思うぞ?」
姉妹だ、と言われてみれば確かに目元は似てるし髪や眼の色もよく見れば一緒。
性格は正反対だけどまあ全く同じ性格した奴などほとんどいないだろう。
しかし、姉妹か…うん、姉妹いいな。何がとは言わないが。
「…そっか、嬉しいな。それで、君はここで何してるの?」
「ん?ああそうだった。先生にここに連れてこられたと思ったら逃げられたんだ。次あったらタダじゃおかない」
「朝お姉ちゃんにジャーマン決められてたのにそれを言えるのって君って勇者?」
「勇者ではないけど…ってまさかの同じクラスだったか」
「実はそうなのですよ!これからよろしくね!転入生くん♪」
そう言いながら晴一の手を握りブンブン振り回す秋穂。
なんでこんなに上機嫌なのかはわからないが、まあ元気なのは良いことだと思うことにする。
「よし!じゃあ早速だけどこれ運んじゃおうか!早くしないと授業に遅れちゃうし!」
「いや、それはいいけど大丈夫かこれ?見るからに重そうだろ」
「大丈夫だよ!これ意外と軽いしその気になればウチ一人で持てるから!」
「…はい?」
「ちょっと見ててね!うーーーーん、よいしょっ!!」
銅像を持てると聞いた時は何言ってるんだこいつ?みたいな顔をしていたけど前言撤回。
銅像がこの子一人の力で持ち上がったではないか。
何この銅像、見掛け倒し?ハリボテ?
色々思うことはあったが、やはりこの言葉が一番先に出る。
「…すげえ、って流石に重いだろ。俺も片方持つよ」
「すごい…うん!ありがとう!それじゃあそっちの方お願いね!」
「任せろ。俺も頼まれてたしこれくらいは…っておっも!?何これ重い!?」
「持てなくはないけど重いから落とさないように気をつけてね!足に落としたら骨折するよ!」
おかしいな?
秋穂が軽々と持ち上げてたから俺もいけると思ってたんだけどめっちゃ重い。
言いたかないけどこの子は馬鹿力にも程がある。
俺、この姉妹には逆らえないかもしれない…
それから近くを通る生徒に道を開けてもらいながら銅像を校庭へと運んでいく。
秋穂はどこまで運ぶか聞いているらしいので指示に従いながら運び、なんとか目的地にたどり着くことができた。
「お疲れ〜!いやー、君がいてくれて助かったよ!ありがとう!」
「はあ、はあ、ど、どういたしまして…。くそっ、先生から絶対に褒美もらわなきゃ割に合わねえ」
「へぇ〜、ご褒美ねえ…転入生くんはお姉ちゃんに何を望むというのかな〜?もしかしてえっちなこと?」
「んなわけあるか!!」
「まあ確かにお姉ちゃん綺麗だしそう思うのは仕方ないよ!」
「人の話をきけ!!確かに褒美は欲しいがあの先生がホイホイと褒美をくれるとは思わない」
やっぱり姉妹だな。
人の話を聞かないであれこれ言ってくるあたりはまんま先生だ。
この数時間で実感するのもおかしな話ではあるが。
「まあ確かにお姉ちゃんはご褒美はくれないだろうねえ。それじゃあさ、ウチが何かご褒美あげようか?」
「え?」
「だって運ぶの手伝ってくれたわけだし、お姉ちゃんがくれないなら妹の私があげてもいいよ。君がして欲しいことなんでもいいよ?」
「は?なんでも?」
「うん、なんでも」
いやいやいやいやいや、待て待て待て待て。
ご褒美?もらう?この子から?
いやいやいや、そりゃこんな可愛い子からご褒美もらえたら嬉しいけど、ついさっき知り合ったばかりだぞ?
しかもなんでも?おいおいおい、流石に危機感なさすぎじゃないか?
俺とて男の子だぜ?女の子からご褒美なんでもいいよって言われたらそりゃあんなことやこんなことしたいしでもまだお付き合いすらしてないからそれを求めるのもおかしな話で…
「…ぷっ、あははははははは!転入生くんってば、そんなに考え込んでおっかしい!ウチにいったい何する気なのかな〜?」
「んな!?べ、別に何も…」
「あはははは!流石に冗談だよ〜。ウチはなんでもできるわけじゃないしましてやえっちなことは無理だよ〜」
「え、えっちなことなんて考えてねえし!」
チックショー、これ絶対揶揄われてる…
変なこと考えなきゃ良かった。
「…はい、これ!」
「ん?何これ」
「ウチの連絡先!転入してすぐはわからないこといっぱいでしょ?いつでも頼っていいからね!」
「お、おう…」
なんかよくわからないけど連絡先をくれたようだ。
まあ今回みたいに色々頼まれることもあるかもしれないし、頼らせてもらおう。
「それと、ウチのことは秋穂って呼んで欲しいな。お姉ちゃんも六道だし、呼び方は分けて欲しいかな」
「ん、わかった。そうさせてもらう」
まあ同じ学校に同じ苗字がいるとそういうこともあるだろう。
先生と生徒とはいえ、兄弟姉妹で同じ学校もまあない話ではない。
「それじゃウチは先に戻るねー!手伝ってくれてありがとう!また後でね、ハ・ル・!」
「ああ、また後で…ってハル?」
どういうことだと聞く前にこの場を去っていく秋穂。
あっという間にいなくなってしまった。
それよりも…
「ハルって、あだ名か?まあ仲良くなったと思えばあだ名も納得か」
明穂からつけられたあだ名に嬉しく思いながら教室に戻ることにする。
転校初日、今日はいいことばかりだ。
「おい草薙、何をしている。授業に遅れるとは何事だ」
「え?いや、先生に頼まれて…」
「言い訳は無用だ。早く席につかんか」
「……」
やっぱいいことばかりじゃない。
解せぬ。
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