お天気

授業は何事もなく進み、小休憩の時間。

わずか十分しかないこの休憩時間、できることは限られてはいるものの、なんだかんだと有意義に過ごせる時間でもある。

普段は特に目立たなく生きていようとする晴一も例外ではなく、前の学校ではこの休憩時間に某ヒゲ親父のレースゲームだったり某ハンター生活を友人とともに過ごしてきたこともある。

たかが十分、されど十分。バスケの一ピリオドだって十分でその中でも激しい動きができるのだから馬鹿にはできない。


そしてこの学校に転入してから初めての小休憩であり、次の授業まで何をしようかと悩んでいた晴一であったが、前方から声がかかる。



「おっす、この学校には慣れたか?」

「この学校に来てまだ一時間ちょいで慣れるもクソもねえよ」

「ははっ、まあ確かに。ちなみに俺は若鳥時雨わかとりしぐれってんだ!時雨でいいぜ!」

「おう。俺はまあ自己紹介は今更いいか。俺のことも晴一でいいよ。よろしく」


目の前の男、時雨はニカッと笑う。

晴一もそれに応えるように笑う。

この僅かな時間でも春一は時雨に好印象を抱いていた。

茶色の短髪に初対面でも難なく発揮できるコミュ力、笑った顔がよく似合い女子が好みそうなイケメン顔、ほっそりしてそうでも必要以上の筋肉を持っているであろう身体。

第一印象だけでもこんなハイクオリティな人間など今までに見たことがあっただろうか。

転校初日でこれは幸先がいいと言える。



「おーい、時雨ー」

「ん?なんだお前らか。どうしたよ」

「茶化しに来たよ」

「たかりに来た」

「これといって特に用事はない」

「ぶっ飛ばすぞ」



時雨と話しているとさらに男子三人が話しかけてきた。

状況から察するに、元々仲の良いグループで構成されていたんだろう。

微笑ましい限りだ。



「晴一紹介するよ。右からちっこいのが松永吹雪まつながふぶき、チャラいのが保坂雷牙ほさからいが、ゴリラが天堂安曇てんどうあずみだ」

「紹介が雑すぎる」

「チビ言わないで!」

「俺がチャラいのは認めるがお前もなかなかチャラいからな?」

「時雨、後で表にでろ」

「ひえっ」


紹介はなかなか雑ではあったが新たに三人とご対面。

また紹介の仕方はあれだが言い得て妙で特徴はしっかり捉えている。


まず松永吹雪。

本当に小さくて、俺と頭一つ分くらい違う。深い青色の髪を耳が隠れる程伸ばしているから顔も小顔に見えるし何より制服の袖がちょっとダボダボ。ぱっちりとした蒼眼に中性的な顔立ちは見るからに優しそうでこれは年上のお姉さんに可愛がられるに違いない。


次に保坂雷牙。

金に染めた髪を程よく伸ばし、いかにもパリぴな人種である。制服も着崩し、アクセサリーもつけていて女子ウケを狙っている感じは吹雪とは大違いだ。そしてこれは勘なのだが、こいつのメンタルはやばい。そんな気がする。


最後に天童安曇。

まあ、なんというかほんとにデカい。身長もさることながら体格もガッシリしていて見るからに体育会系って感じの身体をしている。黒のツンツンヘアーに糸目で体格もいい、腕組みをさせて仁王立ちさせてみればどこぞのいわタイプのジムリーダー…ゲフンゲフン!おっと失礼、まさにいぶし銀の言葉が似合う漢だ。


そして時雨と、タイプはみんな違うもののこうして仲良く集まっている。どういう経緯で仲良くなったのかはちょっと知りたい気もする。



「まあ時雨くんは置いといて、よろしくね晴一くん」

「おう、よろしく。えっと…吹雪だっけ?」

「うん、吹雪で合ってるよ」

「そして俺が雷牙だ!よろしくな!」

「おう、雷牙だな…覚えた」

「で、俺が安曇だ。仲良くしてくれ」

「こちらこそ仲良くしてくれ安曇」


晴一は三人と自己紹介を済ませる。

なんだかんだ楽しくやっていけそうで良かったと心から思う。


「ふふ、そして俺たちは四人揃ってお天気組と言われているのだ!」

「お天気組?」

「そう、お天気組。俺たちの名前にそれぞれ「雨」、「曇」、「雷」、「雪」って字があるからな。だからお天気組なんだ」


時雨が説明をしてなるほどな、と思った晴一である。なんとも安直ではあるものの、それに関連した文字を持った名前がこう集まるともはや運命じみたものがある。面白いことを考えたものである。


「そう、そこでさらに晴一がここに加わることによってお天気組がパーフェクトな存在になるのだ!」

「俺が?なぜ?」

「それは晴一君の名前に「晴」の時があるからだよ」

「そう、今まではこの「晴」の字がなかったから不完全なお天気組だったのだ」

「晴一、お前がここに来てくれたのはまさに運命ともいえる!おお、我らが救世主よ!!」

「なんか知らんけど名前でこんなに歓迎されんの生まれて初めてだわ。まあ、改めてよろしく頼むよ」



こうして晴一は状況が飲み込めていないままお天気組の一員として過ごすことになるのだった。

ちなみに後日談ではあるが、授業が始まる前に時雨は安曇に連れられ、〆られたそうな…

南無三。

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