第2話 はじまりの二人

 どうやら語っていいらしい

宇宙飛行士の絶対的な安全を求めていた

父の手紙を見つけた。

「異空の星は未彩鳴を取り戻そうとしている」

 拾われてきた姉の空星未彩鳴の出生は

秘密にと言われている。

 父の話で聞いている限りではうちの姉は

【犬座の星刻シリウスセイブ】と名称を付けられる

一種の玉石を宿した存在だ。

 科学的に言うと

特殊な電子に含まれるボトムという部分の集合体であり

電子を構築する因子体が凝縮したもの

そう説明するのが正しいだろう。

「異空の星とはなんだ?」

 悩みながら訓練所から帰路についている

しかし待ち伏せしていることを

すっかり忘れていた。

「へいへーいっ! 私の顔でも見て笑いなっ?」

 無駄に明るい以上に

したり顔が少しイラつくが

何も知らないながらも悩んでいる俺の為にしている。

 そういえば昔から

姉は自分のことをずっと見ていた。

「未彩鳴姉さんは俺の傍にずっといるよね?」

 疑問符をたっぷりと浮かべながらも

当たり前に答える。

「ずっと鎖彩盧とさのの傍にいないと心配だもん」

 ふふっと笑ってしまう

そうだ…… いつでもこの姉はこういうところがあった。

「今日から同じ家に住むことになったよ」

「え? そっそれはっ! 本当かねっ! 助手よっ」

 誰が助手だ

あと俺がなんでお前の下にいる。

 顔に出ていたのか

少しシュンとしながらボソッとつぶやいた。

「お父さんが描いた夢は《ふたり》じゃないと叶わないのに……」

 よくわからないが

傷つけてしまったことが心苦しいどころか

奥底を裂かれるような鈍い感情が走る。

 あの日から言われていた言葉が

案外にも心地いいと感じていた。

「えっと…… あっ! ちがっ……」

 しかし

舌をペロッと出して笑いながら

かつての天才を思わせる表情で笑わせてくる。

 安心を覚えている自分が

心のどこかで安堵以上の感情を芽生えさせていた。

【お前は本当に未彩鳴が好きなんだなぁ】

 空星加波そらほしかなみ

つまり父が

姉について離れない幼少の自分に対し

思わず漏らした言葉で

今も記憶に強くある。

 いつからか

姉の眩しさが羨ましく

そして自分が傍にいることへの資格の有無

いろんな思考が苛ませていた。

 すごく勝手な理由を

姉に向けている自分が

あまりにもちっぽけに思える。

 それでも毎日のように懲りず

アプローチを放つそんな姉だ。

 何より血がつながっていないのが

意識をなおさら強くする。

 姉を女性という形で見ている

心の隅に居るのだ過去の自分が

傷だらけで泣いている姉を見たくない

笑ってほしいという身勝手を今も唱えていた。

「自分がわからないけど未彩鳴が好きなんだよなぁ」

 聞こえないくらいの声量で

自分を確かめる。

 理由は傍にいると楽しいから

引っ搔き回すわりに心地がいい

それが日常になっていた。

「おっと? 今更ですかな?」

 うざい

なんかうざい

恥じらってくれたらこちらも甘酸っぱいのに

とにかくうざい。

 だがこれさえも嬉しい

理由がわからないが

遠い昔から生まれる前からこのやり取りをしていた気がする。

 しかたないから

姉と手を繋ぎながら恋人ごっこをした。

 夕日と星空が絵の具のように

混ざりそうな空が笑っている気がする。


【どうしたの? こんなところでお留守番?】

【ワンっ!】

 そこには不思議な体の犬が

佇んでいた。

【ここにはお前ひとりかい?】

【クゥン?】

 意味がわかってないようだが

辺りを探りながら表情を窺う。

【怖いの?】

【ウゥン?】

 申し訳ないような顔で

すり寄るように手を舐めに来た。

 【《星の彼方にいる犬》という本から抽出】


 姉の作る夕ご飯があまりにも旨い

ちょっと前まで炭を生産するしか能のない

そんな認識だったのに

いまや居てほしい。

「そういえば犬みたいだね」

「ん? なにが?」

 昔からがっつき癖があり

そして犬食いだとやたら言われる。

「別にいいだろ? 旨いんだから……」

 素直な自身の言葉が

顔を紅潮させ、視線を返せない。

「ふふっ 料理は否定しないんだね?」

 表情に出やすい自分に傷ついてる姿を

否応なしに見えてしまう。

 普通の表情という認識で向けている

それで傷つけていた。

「努力しているくせに……」

「なんか言った? 言ったよね?」

 また茶化しに来る気かと思ったけど

報われたように優しく笑ってくる。

 他愛のない会話が二人の世界で

繰り広げられていた。

 遠くの星が少しずつ大きくなっている

それは星彼町では誰も気付かない

些細な現象である。

 ある一人を除いて……

第二話 おわり

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ラストアストラ あさひ @osakabehime

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