TRPGリプレイ

 エリアは機械屋のマリーにメンテナンスを受けていた。エリアは自動人形で、人ではない。しかしエネルギーは空気中の魔力から供給しているのでエネルギー切れを起こすことはない。しかし、やはり身体は機械で経年劣化で錆びを起こすこともあるので、定期的にメンテナンスを受けなければならない。


「マリー、いつもすみません」


「気にしないでよ。私は報酬さえ貰えれば黙って診てあげるわ」


 マリーは元々町に住む機械屋だった。しかし高額な修理代をツケで済ます人たちが増えてうんざりしたマリーは山奥の辺境の地に居を構え、来るものだけを対応することにした。こうすることで噂を聞き付けたお客さんが支払いを拒もうとすると彼女のお世話をする機械たちがお客さんを締め上げる算段となっている。町にいるときではできないことだ。


「私の自動修復が壊れていなければあなたに頼ることはないのに」


 私には元々自分でメンテナンス、修理する機能があった。しかし、とある事情で使えなくなり今ではマリーの力なくては生きていけない身体になってしまった。


「私としては壊れている方が商売繁盛できていいんだけどね」


 マリーは少しお金に執着する傾向がある。悪いとは言わないけれど、たまに心配になる。

 メンテナンスが終わると入り口から少年が慌てたように入ってきた。


「おや、お客さんか?」


「違う!だが済まない、少し匿わせてくれ!」


 少年は怯えた様子で外の様子を伺っていた。いたずらに動くことすら躊躇われたこの空気のなか、それは確かに現れた。

 両手には大きい刃物を構え、その巨体は中に侵入してきた。外は雨が降っていたのか頭から水を滴れていた。少年は怯えた様子で後ずさる。


「小僧、その命の輝き、俺のハサミで切り刻むのにふさわしい」


 巨体は少年に襲いかかった。刃物が少年を切り刻む寸前、私は間に入ってその刃物を受け止めた。


「お姉さん!!」


 少年の叫びが木霊する。しかし、血は一滴も流れなかった。


「ほう、自動人形か。どうりで感触が硬いわけだ」


「少年には傷ひとつ付けさせません」


 私は距離を取って指に搭載されている機銃を発射させた。しかし標準がずれて巨体には当たらなかった。


「バカだね。いくら機械の身体とはいえあんな馬鹿でかいハサミを受け止めたら腕を持ち上げるパーツが破損しても不思議じゃない」


 機械屋の呆れた声が聞こえた。なら機銃は使えない!?


「隙だらけだ」


 いつの間にか巨体はすぐそばに近付いていて、その大きい刃物で私を吹き飛ばした。血は吹き出なくても、腹部に破損が見られた。


「そもそもあんな巨体に真っ向から勝負を挑む方がおかしいんだ」


 とどめをさされる瞬間、マリーは手元のスイッチを押した。すると巨体の足元が開けてその穴から巨体は落ちていった。巨体の悲鳴だけがその場に響いた。


「戦いはスマートに済ませるものだ。わかった?エリア?」


「マリー、今のは流石にどうかと思います。風情がありません」


「俺も」


「黙れ、機械人形と子供に大人の戦い方を指図される覚えはないね」


 そう言ってマリーはそっぽを向いた。そうは言ってもマリーはピンチの私を助けてくれたのだ。感謝こそすれ、不満を言うことはない。

 私は静かに立ち上がると何もないところで転んだ。


「何やっているんだい。どこか壊れたのか?」


 マリーは私の身体を診てくれたが、表情は芳しくなかった。


「ところどころ小さな破損はあるが、大した問題じゃない。しかし、お前にかけられた呪いが問題だな」


「呪い……ですか?」


「おそらくあの巨体にかけられたのだろう。ほら、あのハサミの攻撃を受けたときだよ。あれは呪いが付与された武器だったんだ」


 そう言われても信じられない。私は機械なのに呪いなんて受けるのだろうか?


「まあ命を取るような呪いではないがね。そこは機械の身体というのもあって効きが弱かったのだろう。せいぜい、軽い不運に見回れるくらいだ」


 そう診断されホッとした。まず、機能停止になるようなことにはならないらしい。

 ふと少年を見る。少年は自分のせいで私たちに迷惑がかかったことに罪悪感を感じているらしい。


「大丈夫です、少年。私はなんともありません。それより、私はあなたに怪我がなくてよかった」


 すると少年は泣き出した。きっと、今まで怖い思いをしてきたのだろう。抱き締めてあげたいけど、冷たい機械の身体では温もりを与えることはできない。私はただ、微笑むことしかできなかった。

 しかし、疑問に思うこともある。何故あの巨体はこの少年を狙ったのだろう。ただの殺人狂にも見えるが、私には他の目的があったんじゃないかと考えてしまう。


 でも今は、少年が泣き止むのを待つしかなかった。

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