夜の散歩

「お前、酒蔵か?」


「あなたは……秋口君」


 夜気紛れに散歩していたら偶然高校時代の同級生酒蔵春菜と再開した。酒蔵はスーツを来ていて仕事帰りだと分かる。


「今から帰りか?大変だな」


「そうよ、最近忙しくて帰る時間大体この時間帯よ」


 腕時計を見ると十時半を過ぎていた。酒蔵は見るからにやつれていて家に帰ったらそのままバタンキューしてもおかしくはなかった。


「秋口君は夜の散歩?いいわね」


「まあ散歩も兼ねた買い出しだな。酒が無かったから今からコンビニまで行くところ」


「そう」


 酒蔵は遠くを見つめていた。そこにはただ田園が広がっているだけで何もない。ただ夜だからか、静かで昼とはまた違った雰囲気がある。


「夜って良いわよね。静かで、寝るまでは目の前のことを考えていられる」


「酒蔵?」


「でも明日が来ると、あぁ私、また同じ毎日を過ごすんだって絶望しちゃう。でも仕事が終わった後はそんなこと考えなくていいから気が楽ね。いっそこのままどこかへ行っても良いくらい」


「酒蔵?大丈夫か?」


「私は大丈夫よ」


 酒蔵の目はどこか虚ろだった。まるで、これから蒸発でもしそうな雰囲気を出していた。


「何かあったら話聞くぜ?ビール片手になっちゃうけど」


「ありがとう、ふふ、そうね。じゃあまた夜に会いましょう」


 そう言って彼女はいなくなった。それから彼女とは会っていない。あまり良い予感はしなかったので、深くは考えなかった。


おわり

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