3月

「好きな人がいるんだ」

 突然の告白に、俺の友人は特に動じもせず、

「そうだったのか」

と、無関心そうに答えた。本から目を放そうともしない。


 初めてこいつに告白した日から、もうほとんど一年経つな。


 授業が終わって数十分。三階のこの教室には、俺と目の前の友人以外誰もいなかった。

 グラウンドからは運動部の掛け声、上の教室からは吹奏楽部のチューニング。詩的に言うのなら、“青春の音”という表現が良いだろうか。どれだけ周りがうるさくても、この教室だけは静かな時間が流れていた。

 嗚呼、心地良い。

 今日は良い日だ……。



 立ち上がって、少しだけ伸びをする。

「ん~っと」

 ヨシ。

 一つ後ろの席に向かう。俺の友人は、前に立っても何の反応もなく、手の中の文章に夢中だ。こいつは、ハハハ、相変わらず本が好きだな。どうでもいいことでも、こいつのことなら、少しだけ楽しく感じる。

 ちょっと悪いような気がしたが、肩に手を置いて邪魔をする。

「どうかしたか?」

 俺の手を、友人は不思議そうに掴む。

 そして俺は、その手を逆に掴み返す。


「随分前から、あなたのことが好きでした。返事は聞きません。迷惑かもしれないけど、知ってほしかったです」

 コトン、と小さな音が鳴った。さっきまで持たれていた本が、今は床の上にある。

 瞳が揺れている。なんだか、久しぶりにこいつの目を見た気がする。




 これまでの物語は、もう終わり。

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愛、シテ、る トキン @jkblasb

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