第二十三話 双子と学園祭 中夜祭 前編

 今日は聖陵祭二日目だ。

 今日と明日の午前十時から午後三時までの間、一般公開が始まる。

 一般公開の間、俺はクラス発表のダンスをする以外、特にやることもないので暇だ。

 

 というわけでもなく、鈴音と一緒に校内デートをする予定になっている。 

 なんと昨日、鈴音から「明日一緒に学校を見て回ろう」と提案されたのだ。

 少し前の俺なら、鈴音と一緒に過ごすくらい朝飯前だった。

 しかし、今俺は鈴音に恋心を抱いている。

 しかも、明日告白をしようと考えているのだ。


 そのせいで、俺はOKと返事をするまで、小一時間ほど葛藤した。

 大丈夫だ、俺。

 いつもどおり接していれば問題ない。


 鈴音は俺と話すとき、いつも緊張すると言っていた。

 俺が緊張していてどうする。

 今日は頼れる男だとアピールするチャンスでもあるのだ。


「さっきから変な顔して何考えてるんじゃ? 瑠璃がせっかく作ってくれた朝食が冷めてしまうぞい」


 じいちゃんに声をかけられ、我に返った。

 そういや、今は朝食中だったな。


「い、いやー、学園祭が楽しみでさー。今年はどんな感じなんだろう、っていろいろと想像してたんだよ。おっ! 今日の朝食もうまそうだな。いただきまーす」

「そうか……」


 じいちゃんは疑うような目で見ていたが、俺は気にせず朝飯を食べ始めた。

 一方、瑠璃は何やら嬉しそうな表情をして、朝食を食べている。


「おじいちゃん、今年の学園祭は来られそうなの?」

「おお、そうじゃ、言っておらんかったな。なんと、今年は休みがとれたんじゃよ。今日のお昼頃には行かせてもらうぞい」

「じゃあ、お昼ご飯を一緒に食べましょうよ。学園祭中、調理部が開いてる食堂があってね。そこが結構おいしいのよ」

「ほー、それは楽しみじゃな」

「璃央も一緒に食べるでしょ?」

「ん? ああ、昼飯か…………」


 俺も昼食は食堂でとろうと考えていたのだが、どうしようか。

 せっかく、じいちゃんが来てくれるのだ。

 できれば一緒に食べたい。


「何難しい顔してるのよ。大丈夫、鈴音にもちゃんと連絡しといたわ。ほら、鈴音も一緒に食べたいって言ってるわよ」


 瑠璃は携帯の画面を俺に見せてきた。

 画面には鈴音とのやり取りが映っている。


「へー、それならいいか……って、なんで鈴音の話が、瑠璃から出てくるんだよ!?」

「え? だって、今日は私と鈴音と璃央で校内を見て回る予定でしょ? 鈴音に訊くのは当然だと思うけど……」


 ちょっと待て。

 なんでしれっと瑠璃が混ざっているんだよ!?

 予定と違うじゃないか!?


「おい、瑠璃。いつからお前が加わったんだよ? 俺は何も聞いてないぞ」

「え? そうなの? 昨日、私が鈴音に三人で校内を見て回ろうって誘ったんだけど……。そういえば、璃央には言ってなかったわね」

「えっ……!?」


 おいおい、提案したのは瑠璃だったのかよ。

 余計なことをしてくれたな。

 せっかく、鈴音と二人きりでデートできると思ったのに……。

 恨むぞ、瑠璃。


「な、なんでそんな怖い顔してるのよ?」

「別に……」


 そのとき、俺の携帯が鳴る。

 確認してみると、鈴音からの連絡がきていた。

 画面には、今さっき瑠璃が言ったことと同じ内容が書かれている。


 瑠璃を邪険にするわけではないが、本音を言うと、鈴音と二人きりがよかった。

 まあ、俺が勝手に舞い上がっていただけなので、瑠璃は悪くないか。

 とりあえず、今日は学園祭を純粋に楽しむことにしよう。







 現在の時刻は午前十時。

 いよいよ一般公開が始まる時間だ。

 派手に装飾された正門からは、さまざまな年代の人たちがぞろぞろと入って来る。

 同じような年代の人もいれば、子連れの家族、お年を召した方々もいた。


「わーっ! 人がたくさんいるね!」

「どうやら今年も宣伝が上手くいったみたいだな」

「生徒会の人たち、頑張ってたものね」


 俺と瑠璃と鈴音は、特別棟の屋上から人の流れを観察していた。

 学園祭中、屋上の出入りは禁止されているのだが、俺たちはそれを無視している。

 正確に言うと、関係者以外立ち入り禁止だ。

 一応、この学校の生徒で関係者なのだから、別に問題はないだろう。


 そんな心配もすぐに頭から消え、これからどうしようか、という考えが頭をよぎる。

 模擬店や出し物も、すでに始まっているようだ。

 そろそろここから移動するか。


「さて、そろそろ俺たちも動きますか。二人はどこか行きたい場所とかあるのか?」

「私は初めてだから、二人におまかせするよ」

「じゃあ、まず最初に一年生の出し物でも見に行きましょうか」

「わかった」


 たしか、一年生の出し物のテーマは縁日関連のものだったな。

 今年は学年ごとにテーマが決められているので、多少やりやすくなっていて、一年生たちも助かっただろう。

 去年はテーマが決まっていなくて、一年生の出し物はそれはもうひどいものだったからな。


「璃央君? どうかしたの?」

「い、いや、なんでもない。それじゃ、行くとしますか」


 鈴音に話しかけられて、思わずドキッとしてしまう。

 情けないことに、俺は鈴音の言動一つひとつに過剰に反応してしまっている。

 二人きりだったら、確実に変な空気になっていただろう。

 瑠璃がこの場にいて、むしろよかったかもな。


 一年生のクラスがある階を訪れると、廊下が簾や折り鶴、造花や紙風船などで飾り付けられていた。

 和風テイストな雰囲気を漂わせており、何だか懐かしい気分になる。


「これはなかなかだな」

「そうね。去年の私たちの装飾より全然いいわ」

「そうなの?」

「あとは各クラスの出し物に期待だな」


 俺たちは各クラスを一つずつ見て回ることにした。

 縁日がテーマなだけに、出し物もお祭りでよく見かけるものがたくさんある。

 風船釣りやスーパーボールすくい、輪投げや射的、かたぬきや疑似すいか割りなど、各クラスであまり被らないように工夫されていた。

 加えて、お祭りっぽいBGMも流れており、運営している生徒たちも法被を着ている。

 全体的にお祭りの雰囲気がよく出ていて、子ども連れなどが楽しめそうだ。

 

「今年の一年はすごいな」

「ほんと去年とは大違いだったわね」

「懐かしい気持ちに浸れて、すごい楽しかったよ」

「それはよかった。じゃあ、次は二年生の映画でも観るとしますか」

「賛成ー」

「私もそれでいいわ」


 今年の二年生の出し物は映画だ。

 二年生のクラスは全部で四クラスあり、それぞれ違うジャンルの映画を上映している。


 一組はコメディ。

 二組はアクション。

 俺たちのクラスである三組はホラー。

 四組は恋愛。


 映画の長さはだいたい二十分から三十分くらいだ。

 映画上映の開始時間は、できるだけほかのクラスと被らないように調整されている。

 現在は四組の恋愛映画が上映開始直前のようだ。

 俺たちは四組の教室に入り、席に座って上映まで待つことにした。


 教室の定員はだいたい三十人前後であり、俺たちのほかにも観客は結構いる。

 当然、本物の映画館のようなゆとりはなく、隣の席の人と身体がぶつかってしまいそうなほど狭い。

 そんな中、運良く空いている席を見つけて座ることができた。

 瑠璃と鈴音の提案で、俺が二人の間の席に座らされる。

 そして、なぜか二人とも俺のほうへかなり詰め寄ってきたのだ。


 このサンドイッチ状態は少しつらいな。

 瑠璃とくっつくのは別になんとも思わないが、問題は鈴音のほうだ。

 俺の肩に鈴音の肩が完全にくっついてしまっている。

 鈴音とは何度か密着に近い形で触れたことはある。

 だが、それはあくまでも鈴音に好意を抱く前のことだ。

 今の俺には、鈴音と密着しているこの状態がとても心臓に悪い。


「ねぇ、璃央君……」


 鈴音に耳もとで囁かれ、思わず身体がざわつく。

 というか、耳に息が思いっきりかかっている。


「な、何だよ?」

「この映画の主人公とヒロインって、本物のカップルが演じてるらしいよ」

「そ、そうなのか? それはすごいな」

「だよね。どんな内容なのかな? 早く観たいね」

「ああ」


 鈴音と会話をしていると、教室が暗くなってきた。

 どうやら上映開始の時間のようだ。

 それと同時に、鈴音の腕が俺の左腕に絡みついてくる。

 さらに、鈴音の胸がほんの少しだけ、左腕に接触したことで、俺の心臓の鼓動は高まった。


 いったい鈴音は何を考えているんだ?

 ここには瑠璃もほかの人も大勢いるんだぞ?


 鈴音は俺の反応を見て悪戯っぽく笑ったあと、スクリーンのほうを見た。

 俺は仕方なくこの状況を受け入れ、映画に集中するように努めた。







「はぁ……」

「どうしたの? そんな顔して」

「いやなんでもない。気にしないでくれ」


 映画を観終わった俺たちは、中庭に向かっていた。

 鈴音からは解放されたが、まだ心臓がバクバクしている。

 一方、鈴音は涼しげな顔をしていた。

 やっぱり、鈴音は何を考えているかわからないな。


 ちなみに映画の感想だが、正直かなりよかった。

 もしかしたら、俺たちのクラスの映画より面白いかもしれない。

 内容はよくあるボーイミーツガール物のようだった。

 主人公とヒロインの出会いや好意を抱く過程、すれ違い、告白までが丁寧に描かれ、なおかつ演技も自然で、面白かったのである。

 さすが本物のカップルだ。


 しかし、最後のキスシーンが妙に生々しかったな。

 エンドロールでは、そんな生々しいキスシーンがずっと流れていた。

 これは大丈夫なのか、と本気で心配してしまったほどだ。

 ほかの映画も気になるところだが、それは明日でもいいだろう。


 そんなことを考えていたら、俺たちは中庭に到着していた。

 中庭にはたくさんの人がいて、とても賑わっている。

 やはり、今年の学園祭は去年とは違うな。

 明らかに去年よりも人の数が多い。

 

 中庭では、主に食べ物系の模擬店が並んでいる。

 定番の焼そばやフランクフルト、わたあめやクレープ、タピオカミルクティーなどもあった。

 それだけではなく、中庭の中央には小さなステージが設置されている。

 ステージ上では、学校の先生たちが場を盛り上げようとギターを弾いたり、歌ったりしていた。


「いろんなお店があるね。何食べようかなー」

「鈴音、もうすぐお昼になるわ。あまり食べ過ぎないようにね」

「大丈夫、わかってるよ。でも私、朝ご飯抜いてきたから、結構食べられる自信があるんだ」

「そうなのか?」

「うん! それじゃあ、何を食べるかそろそろ決めようよ。あ、学園祭といえばやっぱり焼きそばだよね! 焼そばを買いに行こうよ」

「わかった」


 俺たちは焼そばを売っている店を訪れる。

 そこには鉄板で焼そばを豪快に作っている葵月と、販売を手伝っている千歳の姿があった。


「いらっしゃいませ」

「千歳ちゃん、こんにちは。焼そば一つお願いできる?」

「あ、待ってくれ。俺も買うよ」

「私も」

「わかりました。今葵月先輩が作っているので、少々お待ち下さい。葵月先輩、焼きそば三人前お願いします」

「おう、わかった! ……って、璃央と瑠璃と鈴音か? よく来てくれたな。学園祭は楽しめてるか?」

「ああ、楽しんでるぜ。葵月はどうだ? 焼そば作りは大変じゃないか?」

「私は別に大変じゃないぞ。むしろ、楽しいくらいだ。みんな私が作る焼そばをうまそうに食ってくれるからな」

「そんなにうまいのか。早く食ってみたいな」

「待ってろ。ほっ! はっ! ほら完成したぞ! 食ったら感想も教えてくれよな」

「先輩お疲れ様です。一つ四百五十円になります」


 俺たちは千歳にお金を渡して、焼そばの入ったプラスチックの容器と割り箸を貰う。

 作りたての焼そばとても熱かった。

 手がやけどしそうなほどだ。

 それから、俺たちは焼きそばを食べるための場所を探す。

 運が良いことに、屋台のそばのベンチが空いており、俺たちはそこで焼そばを食べることにしたのである。


 葵月の作った焼そばは、麺と野菜と肉のバランスがよく、なおかつボリュームも結構あった。

 加えて、ソースのいい香りが食欲を刺激する。

 一口食べてみると、家で作る焼そばとは比べものにならないほど、ふっくらモチモチとしていた。

 味付けもちょうどよい。

 これぞ理想の焼そばだった。


「おいしい! 葵月ちゃんの作った焼そば、すごくおいしいよ!」

「さすが葵月ね」

「葵月、これめっちゃうまいぞ!」


 俺たちは葵月に聞こえるように、焼そばの感想を大きな声で伝える。

 葵月は焼そばを一生懸命作っていて、こちらを向く余裕はなさそうだ。

 だが、一瞬だけこちらのほうを振り向き、笑顔を作りピースをしていた。

 どうやら、俺たちの言葉は届いたらしい。


 焼そばを食べ終わったあと、俺たちは中庭を見て回ることにした。

 お昼前なので、もちろん食べ物は買わない。

 しかし、なんと鈴音は、生クリームたっぷりのクレープを買って食べていたのである。

 鈴音って意外と大食いなんだな。


 





 そんなこんなで、お昼の時間帯になった。

 携帯が鳴ったので確認してみると、じいちゃんから「学校に着いた」という連絡がきている。

 俺たちは予定どおりじいちゃんと合流して、特別棟の一階に設けられた学生食堂で昼食をとることにした。


 お昼どきなので、食堂はかなり混んでいる。

 だが、四人全員が座れるテーブルをなんとか確保できた。

 俺たちは今、細長い長方形のテーブルに座っている。

 俺の左側に鈴音、俺の正面にじいちゃん、じいちゃんの右隣には瑠璃が座っていた。

 メニューを決めて頼んだあと、四人の雑談タイムが始まる。


「いやー。学園祭というのはなかなか華やかなもんじゃな。ワシが学生の頃とは大違いじゃ」


 じいちゃんは興味深そうな顔をして、辺りの様子を見回している。

 その瞳には、少年のようにキラキラとした輝きが宿っていた。


「そりゃ、違うだろ。というか、じいちゃんの時代でも、学園祭なんかあったのかよ?」

「ワシの時代にも学園祭はしっかりとあったんじゃよ。今ほど多様性があるわけではなかったがの。お化け屋敷や喫茶店などは昔からあったのぉ」

「へー、そうなのか」

「質問しておいて、その反応はないじゃろ。ワシ、悲しくて泣いちゃうぞ?」

「あー、はいはい。俺が悪かったよ」

「ところで、話は変わるが。璃央、お前は幸運じゃのー。こんなかわいい女子を二人も連れて、学園祭を見て回れるなんて羨ましいぞい。で、どちらが本命なんじゃ?」

「本当にすげぇ変わったな!? てか片方は瑠璃なんだから本命は一人しかいないだろ!」

「え!?」

「璃央、あなた……」

「おおーっ!  本人がいる前でその発言は大胆じゃのぉ!」

「い、いや、今のは言葉の綾ってやつだよ! 気にしないでくれ!」


 つい本音が漏れ出てしまった。

 これは恥ずかしい。

 じいちゃんは大笑いし、瑠璃はなぜか無言になり、鈴音は顔を赤らめながら動揺している。

 明日告白するつもりが、じいちゃんのせいで、こんな変なタイミングで告白したようになってしまった。

 おのれ、覚えておけよ、じいちゃん。


 そんな状況の中、頼んでいた料理が次々と俺たちのテーブルに運ばれて来た。

 ナイスタイミングだ。


「そ、それじゃあ、料理も揃ったことだし、おしゃべりはここでおしまいだ! 冷めないうちに食べようぜ!」

「う、うん、そうだね! うわー、おいしそう!」

「……そうね。いただきましょう」

「からかってすまんの。それではいただくとするか」


 俺は卵とじカツ丼、じいちゃんはソースカツ丼、瑠璃はオムライス、鈴音はカレーライスを頼んだ。

 どれも学生が作ったと思えないほど、おいしそうな見た目をしている。


 四人で「いただきます」と言ったあと、早速俺はカツ丼のカツを一口食べた。

 とろとろの卵でとじられたかつの衣は、意外にもサクッとしている。

 豚肉もジューシーで、ダシが効いてるせいか、ご飯がよくすすむ。

 かなり俺好みの味だった。


「うむ、このソースカツ丼はなかなかいけるぞい。衣もサクサクでソースとよく合う」

「このカツは本当にサクッとしてるよな。家でもこのくらいのものが作れたらなぁ」

「そんなにおいしいの? 璃央、私に一切れちょうだい。私のオムライスもあげるから」

「ああ、いいぞ。ほら」

「ありがと。じゃあ、はい」


 俺はカツを一切れ瑠璃に渡した。

 その後、瑠璃はオムライスをすくい、なぜか俺の目の前に運んでくる。


「はい、あーんして」

「……何してるんだ、お前?」

「何って。カツのお礼だけど?」

「お前なぁ。恥ずかしいことするなよな。オムライスはいらないぞ」

「そう……」


 瑠璃は明らかに落ち込んでいる。

 いや、だって、こんなこと家でもしないだろ。

 しかも、俺は以前のように怪我をしているわけではない。

 百歩譲って、自分の家でなら食べてもいい。

 だが、今は学校にいて、なおかつ隣に鈴音もいるので食べるの無理だ。

 まったく、こいつは何を考えているんだ?


「ねぇ、璃央君。瑠璃ちゃんが可哀想だよ。食べてあげたら? 私のことは気にしないでいいからさ」

「え?」


 なぜだ?

 なぜ瑠璃を庇うんだよ?

 鈴音に言われたらそうするしかないだろ。


「……わかった。食べるよ」

「本当に?」

「ああ、だから、早くしてくれよ。恥ずかしいんだからな」

「じゃあ、はい」


 瑠璃は、オムライスをすくったスプーンを差し出してくる。

 少し距離があったせいか、なかなか俺と瑠璃の距離が縮まらない。

 そのため、俺が前のめりになることで、ようやくスプーンが口に到達することができた。


「おいしい?」

「……うまいな」

「なら、よかったわ」

「……はぁ」

「あら、このカツ、本当においしいわね」


 ようやく終わったか。

 ああ、恥ずかしかった。

 さあ、これで思う存分カツ丼を食べることができるぞ。


「……ねぇ、璃央君」


 今度は鈴音が俺に声をかけてきた。

 おいおい、このパターンはまさか……。


「私にも一切れ貰えるかな? 私もカレーライスあげるから……」


 案の定、鈴音は瑠璃と同じことを言ってきた。

 おいおい、勘弁してくれよ……。


「ねぇ、君たち? ワシにももう少し気を遣ってほしいんじゃが? 仲間外れは寂しいぞい……」


 じいちゃんはそんな光景を見て、一人で愚痴をこぼしていた。

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