第十五話 双子と夏の魔物 陸
「決めた! 俺は明日、米原に告白する!!」
剛志は席を立ち、大声でそう宣言した。
いきなり大きな声を出したので、周りの客も驚いているようだ。
俺と剛志と弘人は、いつものファミレスで食事をしながら、話し合いをしていた。
今はファミレスのゴールデンタイムなので、店内は多くの客で混み合っている。
そんなときに、剛志は自分の気持ちを抑えられずに、大声を発しながら立ち上がったのだ。
もちろん、これは店に対する迷惑行為なので、店員やほかの客から怒られても仕方がない。
それに、俺と弘人は剛志のせいでものすごく恥ずかしい思いをしている。
恥ずかしさのあまり、思わず他人のふりをしたくなったほどだ。
「つ、剛志! もう少し声を抑えろよ!」
「あ、ああ、すまん……」
剛志は急に恥ずかしくなったのか、少し顔を赤らめる。
それから、頭をポリポリとかきながら、ゆっくりと席に座った。
まったく、少しは周りの目も気にしろよな。
一昨日のプール作戦で、剛志と米原の仲は急接近した。
それは俺でもわかる。
だからといって、「明日告白する」というのはいささか性急過ぎないか?
「おい、璃央。どうしてそんな難しい顔をしてるんだよ? もしかして、俺の告白は成功しないとでも言いたいのか?」
剛志はかなり圧をかけながら迫ってきた。
やはり、俺は思っていることが相当顔に出やすいらしい。
あの鈍感な剛志でもわかるほど、感情豊かのようだ。
「たぶん、璃央は告白自体、まだ早いと思ってるんじゃないかな? だって、そうだろ? いくらお互いに好意を抱いているとはいえ、一昨日初めて遊んだばかりじゃないか。きっと璃央は、もっと慎重になるべきだ、って言いたいんだよ」
弘人が俺の思ってることをそのまま代弁してくれた。
やはり、弘人は空気が読めるな。
俺はオレンジジュースを一口飲んで、乾いた口の中を潤す。
「弘人の言うとおりだ。俺は何事も慎重に行動したほうがいいと思ってるんだよ」
「でも、僕としては剛志の考えに賛成だね。慎重にいくのもいいけど、鉄は熱いうちに打てっていうだろ? これは恋愛でも一緒だと思うんだ。二人は腕を組む仲まで進展したんだろ? それなら成功率はかなり高いと思うんだけど……」
彼女持ちである弘人が言うと説得力があるな。
本来ならその理論が正しいだろう。
だが、今回に限ってはそれは間違いなんだよ。
なぜなら俺は昨日、米原本人からとある相談を持ちかけられたのだ。
「もしもし、俺だ。昨日は電話に出られなくてすまなかったな。今、大丈夫か?」
『もしもし、今なら大丈夫だよ。昨日のことは別に気にしてないから。ところで、昨日はありがとね。おかげで剛志とも仲良くなれたし、連絡先も交換できたよ。璃央とみんなには感謝してる』
「そうか」
『それでね……。璃央に相談があるんだ』
「俺にか? 瑠璃じゃなくて?」
『うん。これは璃央にしか頼めないんだ』
「俺にしか? ……詳しく聴かせてもらうぞ」
『じ、実はね、つ、剛志が、こ、告白してきそうで困ってるんだ』
「……どういうことだ? 米原は剛志と付き合いたいんじゃなかったのか?」
『も、もちろん付き合いたいよ。つ、剛志のことは好きだし。でも、も、もう少し告白は待ってほしいんだよ』
「おい、意味がわからんぞ……。好きならそのまま告白されて付き合えばいいだろ?」
『あぁ、やっぱり男子にはわかんないかぁ。あのね、あたしは今、剛志のことが好き過ぎて気持ちの整理ができてないんだ。こんな状態で告白されたら、混乱して変なことをしちゃいそうなんだよ。だから、告白は、あたしが落ち着いたときにしてほしいんだ』
「お、おう。それで、俺はどうしたらいいんだよ?」
『剛志が告白するのを、できるかぎり遅くさせて』
「わかった。いつまで粘ればいいんだ?」
『今月末に花火大会があるじゃない? 告白はそのときにしてほしいの。その日までには、なんとか気持ちの整理はつけとくから』
俺は最初、米原の言っていることが理解できなかった。
お互いに好きだとわかっているのなら、さっさと付き合えばいい。
そう思っていた。
だが、日にちを指定されて気づいたのだ。
米原は『花火大会』という特別な日に告白されたいということを。
もちろん、気持ちの整理がついていないということも本当だろう。
剛志の話をしているときの米原は、どこか緊張している感じがするのだ。
それは、電話越しでもわかる。
しょうがない、これは乗りかかった船だ。
最後まで、剛志と米原に付き合ってやるとするか。
「米原は意外と乙女チックなんだな」
『ふ、雰囲気は大事にしたいの! せっかく告白されるんだから思い出に残るようなシチュエーションにしてほしいんだよ! ……っていうか意外と乙女チックって何? 失礼じゃない? 怒るよ? もし計画が失敗したら、あんたがあたしをいやらしい目で見てたことを、みんなにばらすからな?』
「す、すまん! 謝るからどうか怒らないでくれ」
『じゃあ、あとは頼んだよ。もし、あたしと剛志が付き合えたら、今度はあんたの恋愛に協力してあげるからね』
「え? 今なんて……」
『またね』
「あっ、切りやがった! はぁ……。それじゃ、剛志を説得する方法を考えるとしますか……」
……というやり取りを、米原としたのだ。
若干脅されたような気がするがな。
なので、今はこの暴走した筋肉の塊をどうにか抑え込まなくてならない。
さて、どうしたものか……。
「よし! 俺は弘人の意見に乗ることにするぞ! 一応訊くが、何か反論はあるか? 慎重派の璃央君?」
どうやら剛志の意思は固そうだ。
しかし、一応俺の意見にも耳を傾けてくれるらしい。
剛志の器が大きくて助かった。
俺の意見を通すためには、ここで剛志を説得するしかない。
ここは米原のために、もう一肌脱ぐとするか。
「なあ、剛志。明日は何の日だ?」
「明日は俺と米原が付き合う『記念日』になるぞ」
「確かに記念日になる。『ただの記念日』にな」
「どういうことだ? お前は俺たちの記念日にいちゃもんでもつける気なのか?」
「そうじゃない、付き合った記念日はお前たちにとっては大切な日になるだろう。俺が訊いたのは、明日は記念日以外に何のイベントがある日なんだ? ってことさ」
「……ただの平日だね。そうだろ、剛志?」
「ああ、平日だな……」
弘人が何か気づいたような視線を俺に送ってくる。
俺の意図を完全に読むのは、さすがの弘人でも難しいかもしれない。
しかし、とりあえず弘人を味方にすることができそうな気がした。
「それで、お前は何が言いたいんだ? もしかして、平日に告白するな、とでも言いたいのか?」
「いや、別にそんなことは思ってない。正直なところ、今月でなければ、いつ告白してもまったく問題なかったんだよ」
「何? それはどういう意味だ?」
「言葉どおりの意味さ。ところで、剛志。お前は告白される女性の立場になって考えたことはあるか?」
「そ、それは、あまりないな……。でも、それがどうしたんだよ?」
「いいか、剛志。個人差はあるが、女性は男性よりも記念日を大切にする傾向にあるんだ。たぶん、米原もそうだろう。確かに、明日告白して付き合ったとしても、大切な記念日にはなる。だが、それは『最良の記念日』ではないんだよ」
「き、記念日に良い悪いなんて、別に関係ないだろ!」
「違うな。米原にとって、記念日はとても重要なんだよ。明日告白すると、きっと後悔することになるぞ。だがな、安心しろ、剛志。告白するのにうってつけの日がある。……今月末にな!」
「まさか……!」
どうやら弘人は、俺の考えを理解してくれたようだった。
さすがは弘人だ。
「今月末? ……そうか!」
「剛志もやっと気づいたようだな。そう、『最良の日』とは、今月末にある花火大会の日なんだよ!」
「確かに花火大会のときに、告白して付き合えたら、きっと特別な記念日になるだろうね。剛志はどう思うんだい?」
「お、俺は早くこの気持ちを解放してやりたいんだ! やっぱり、その日まで待たないとダメなのか? 俺は我慢できんぞ!」
「剛志! その言葉こそが米原の立場になって、ものを考えていないことの表れだ!」
「何!?」
「高ぶった気持ちを相手にぶつけて解放させたい、という一方的な考えは、米原を傷つけることになるぞ。米原もきっとお前のことが好きだろう。しかし、米原にもタイミングというものがある。本当は花火大会の日に付き合いたかったのに、明日告白されたら、お前に気を遣ってしまい、そのまま流れで付き合い始めることになるだろう。そうした場合、ちょっとしたボタンのかけ違いで、付き合っても上手くいかなくなることもあるかもしれない」
「い、嫌だ! 俺は米原とずっと一緒にいたい!」
「俺もお前たちには上手くいってほしいと心から思っているんだ。だから、頼む、剛志! 『最良の記念日』を作るために、どうか告白は花火大会の日まで我慢してくれ! これは、米原のためでもあるんだ!」
「……僕も璃央の意見に賛成するよ。璃央の意見はとてもロマンチックだからね。それで、剛志はどうするんだい?」
「お、俺は……」
「お前らの言うとおり、花火大会の日まで告白を我慢するぞー!!」
「剛志! お前ならそう言ってくれると思ってたぜ!」
「ああ、さすが剛志だね!」
「米原にはちゃんと、花火を観に行こう、ってお前から誘っておけよ。花火大会の当日、俺たちはお前らが二人きりになれるよう、全力でサポートするからさ」
「ありがとな。お前らはやっぱり俺の心の友だ……」
こうして、俺たち三人はがっちりと固い握手を交わしたのだった。
……任務完了。
やったな、米原。
「……これからのことを考えてたら、緊張して急に催してきたな。すまん、ちょっとトイレに行ってくる」
剛志はトイレに行ってしまった。
俺はその隙に、今日の目的を弘人に打ち明ける。
「弘人、感謝するよ。俺の意見に合わせてくれて、ありがとな」
「どういたしまして。というか、事前に言ってくれればよかったのに」
「俺も事前に話そうとは思ったんだ。だけど、いきなり二人で同じ意見を押し付けるのは、どうも不自然に思えてな。だから、あえて弘人が気づいてくれるのを待ってたんだ」
「要するに、僕のことを信用してくれてたってことかい? なんか照れるね。……さて、とりあえず、璃央の意見が通ってよかったね。いや、米原の意見というべきかな?」
「なんだ、わかってたのか?」
「そりゃ、わかるさ。璃央は普段、記念日とか気にするタイプじゃないからね。大方米原が、告白は花火大会の日にしてほしい、とでもお願いしてきたんだろ?」
「さすが彼女持ちの弘人様は、よく理解していらっしゃることで」
「恵海と一年も付き合ってるわけだから、このくらいは理解しておかないとね」
「お前はやっぱりすごいよ。尊敬するわ」
そんな話を弘人としていたら、剛志が上機嫌でトイレから帰ってきた。
剛志は呑気に鼻歌を歌っている。
俺たちの苦労も知らないで、こいつは……。
これは一つ貸しだからな。
絶対にお前と米原をくっつけてやるから覚悟しとけよ。
それから、俺たちは前回のように馬鹿話をしたりして、さらに男同士の絆を深めたのだった。
「……という話になったわけだ」
駅前ファミレス男子会から、二日が経過した。
今度は女子たちと、商店街近くのファミレスで、『第二回米原と剛志をくっつけよう会議』が開催されたのだ。
会議に参加する人数は前回より増えている。
前回のメンバーに加え、瑠璃、鈴音、牧本が参加することになったのだ。
ちなみに千歳は、友達と買い物に行く予定があったらしく、今日この場には参加していない。
……というか女子率が高いな。
いくら知り合いばかりといっても、異性が多いと多少は緊張してしまう。
夏なので女子たちの服装は露出が多めだしな。
集まった全員がドリンクを持ってきて、着席するまで待ってから、一昨日の男子会の内容を話した。
もちろん、男同士でしかできない会話などは省略している。
「璃央、弘人。剛志を止めてくれてありがとね。これで少しは気持ちに余裕ができたよ」
「おう」
「ひろくんもよくできました」
「おい、恵海! みんなの前で頭を撫でるなよ! 恥ずかしいだろ!」
「弘人が照れてるぞ。珍しいな」
「やっぱり、二人で事前に相談をしたほうが、もっとスムーズに話を進められたんじゃない?」
「それは、さっきも言ったとおりだ。自然に俺の意見を通すための作戦だったんだよ。だけど、危ない橋を渡ったのは事実だ。そこは反省してる」
「まあまあ、瑠璃ちゃん。結果としては成功したんだから、少しは璃央君を褒めてあげてもいいんじゃないかな?」
「あ、ありがとな、鈴音」
「どういたしまして。私は事実を言っただけだよ」
「……確かに鈴音の言うとおり、ここは褒めるべきよね。よく頑張ったわね、璃央」
「……おう」
瑠璃の意見には傷ついたが、鈴音の発言で癒された。
鈴音とはプールの件以来あまり話してないが、今は普通に話せている。
俺が勝手に気まずいと思っているだけなのだろうか。
「そういえば、一紗さんは過去の事件を赦してあげられたのですか?」
中城さんの質問に、俺と弘人は以前と同じく身体を一瞬強張らせた。
そういや、この前の会議で出た議題の一つに、剛志を赦してあげることで仲を深めるというものがあったな。
プールでの様子を見るに、その件についてはとっくに赦していると思っていた。
果たして、米原の考えは変わっているのだろうか?
「ああ、その件ね。それについてはプールのときに赦してあげたよ。そのおかげで、剛志との仲をさらに深めることができたんだ。剛志は泣いて喜んでたよ」
どうやら剛志もやっと赦されたようだな。
これで俺と弘人と剛志の三人は、救われたようなものだ。
「一応、次はないよ、って釘は差しておいたけどね。あんたたちもその辺は理解してるでしょ?」
「当たり前だよ」
「もちろんだ」
「……」
牧本が俺に何か言いたげな顔をしてるが、きっと気のせいだろう。
プールのときに、牧本をいやらしい目で見てしまった件については、俺たちだけの秘密のはずだ。
いや、待て。
たしか、千歳にもばれていたような気がしたな。
千歳は真面目だから、軽率に喋ったりはしないだろう。
残る不安は、牧本だが……。
一応、約束はしたんだから、口外したりしないよな?
それはさておき、今度は鈴音が不思議な顔をしていた。
なぜだろう、また嫌な予感がするのだが……。
「あのー……過去の事件ってなんのことですか?」
鈴音がゆっくりと手を挙げ発言する。
やっぱり鈴音は知らなかったのか。
瑠璃たちとはこのような会話を、今までしなかったのだろうか。
瑠璃や米原に視線を送るが、俺と目を合わせようとしない。
やはり話していなかったのか。
「鈴音、その話は後日、俺が改めて話してやる。だから、今日はとりあえず聞き流してくれ」
「う、うん、わかった。じゃあ、璃央君。また今度話してね?」
「ああ、そのうちな……」
なんとか鈴音を誤魔化すことができた。
もしあの事件のことを知ったら、鈴音は今までどおり俺と接してくれるだろうか。
一抹の不安が頭をよぎったが、今はそれよりも剛志と米原のことを優先しなければ……。
「花火大会当日の件についてなんですが。一紗さんはどのようなシチュエーションで告白されたいのでしょうか?」
中城さんがちょうどいいタイミングで、話を進めてくれた。
非常にありがたい助け船だ。
「あ、あたしね、花火が上がってるときに告白されたいなぁーって思ってるんだ。ちょっとベタすぎるかな?」
「それは素敵ですね! 全国の乙女たちが望んでいるシチュエーションの一つじゃないですか!」
「でも、花火が上がってたら、告白とか聞こえづらいんじゃないか?」
「はぁ……。璃央は黙ってて」
「そうだぞ。お前はデリカシーがないんだからな」
「璃央君。そんなこと言っちゃダメだよ」
「す、すまん……」
俺はごく普通の質問をしただけなのに、この扱いはどういうことだ?
俺がズレているのか?
これだから女子との会話は苦手なのだ。
「璃央、大丈夫かい? あとは女子たちに任せようよ。僕たちじゃ、どうしようもないこともあるからね。そうだ、飲み物でも取り行こうよ」
「ああ、そうだな。どうやら俺は邪魔者らしいから、ここはいったん離れたほうがよさそうだ」
俺と弘人は、女子たちが盛り上がってる席をあとにし、ドリンクバーへと向かう。
その際、女子たちの飲み物も俺たちが補充する羽目になった。
告白シチュエーションの話は、なんと二時間以上も続き、女子たちは白熱していた。
逆に、俺と弘人は精神的に参っている状態だ。
最初は、米原の理想の告白シチュエーションについての話だけをしていた。
だが、今は個々の理想の告白シチュエーションなどを話している。
完全に話が脱線しているが、今俺が話を戻そうとしても、さっきと同じパターンになるのは明白だ。
だから、俺と弘人はしばらく無言を貫いていた。
「……ていうか璃央と弘人は、何か意見とかないわけ? さっきから、ただ話を聴いてるだけじゃん」
すると突然、米原は俺と弘人に話を振ってきた。
女子たちは俺と弘人に視線を集める。
そんなことを急に言われても困るのだが……。
俺は一時的に脳をフル回転させ、女子たちが気に入りそうな答えを模索する。
ここでそれっぽいことを言っておかないと、あとが怖いからな。
「そ、そうだな……。米原と剛志を二人きりにするために、こちらもあらかじめペアを組んでいたほうが、行動しやすくなるんじゃないか?」
「そ、それはいい考えだね。毎年花火大会には大勢の観客が集まるのをみんなも知っているだろう? 個人でバラけると、そのあと集合するのに時間がかかるかもしれない。璃央の意見は結構的を得た発言だと僕は思うよ」
この意見はどうだ?
なんとか捻り出してみたが、女子たちの期待に添えることができたのだろうか?
それと弘人もナイスアシストだ。
「……それもそうですよね。私たちは一紗さんと剛志さんのことばかり考えて、自分たちのことは疎かにしていました。ひろくん、璃央さん、貴重な意見ありがとうございます」
「璃央にしてはまともな意見ね」
「璃央、やるじゃないか」
「璃央君はちゃんと私たちのことも考えてくれてるんだね」
どうやら男子二人の意見は、女子たちのお眼鏡にかなうものだったらしい。
店内は冷房が効いているのに、気づけば俺は、汗をかいていた。
さて、ここらで花火大会当日の計画をいったんまとめてみよう。
まず集合場所は、駅前の公園にある時計台だ。
次に服装についてだが……。
男子は自由で、女子はみんな浴衣を着てくるらしい。
その次に会場に着いてからの行動だ。
最初に米原と剛志のペアを作る。
俺たちも事前に決めていたペアを組む。
それから、米原と剛志を二人きりにさせる。
米原と剛志を二人きりにさせたら、あとは二人次第だ。
米原は、花火が上がっている最中に告白されたい、という願望を持っている。
なので、剛志には事前にそのことを伝えておくことになった。
もちろん、計画を全部話すわけではない。
剛志には、女子が喜ぶ告白のシチュエーションとはこういうものだ。
ということを、それとなく伝えておくことになった。
まあ、花火の最中に告白するというシチュエーション自体、そんなに珍しいものでもない。
頭の固い剛志にもきっと理解できるだろう。
そして、花火が上がっているときに、剛志が告白をし、米原はそれを受け入れる。
それでハッピーエンドだ。
最後に、花火が終わったら屋台が並ぶ入り口に集合し、みんなで剛志と米原を祝福する。
……というのが一連の流れだ。
成功前提の計画だが、今までの二人の様子をみるに、むしろ失敗するほうが難しいだろう。
剛志がよっぽど変なことをしないかぎりな。
この話がまとまるまで、なんと五時間以上もファミレスで話し合いが続いた。
途中脱線した話も多かったが、女子たちはかなり満足したようだ。
俺と弘人はだいぶ前から疲労困憊な状態であったが、なんとか乗り越えることができた。
こうして、『第二回米原と剛志をくっつけよう会議』も無事終わり、今日はお開きになった。
ちなみにペアは、米原と剛志、弘人と中城さん、瑠璃と牧本、俺と鈴音という組み合わせになっている。
正直鈴音と二人きりになるのは気まずいが、すぐに瑠璃たちと合流すれば問題ないだろう。
「……そういえば、千歳は誘わないのか?」
「千歳はね、どうやら敦と一緒に行くらしいのよ」
「あの兄妹は上手くいってるのか?」
「私が千歳から聴いた情報だと、徐々に話す回数も増えて、一緒に外出とかもしてるそうよ」
「それなら問題ないな。あの兄妹も仲良くしているようで安心したよ」
「そう……よね」
「す、すまん。瑠璃はまだ敦のことを赦せてないんだよな。複雑な気持ちになるのも仕方ないか」
「ええ、私が敦を赦すことは一生ないわ。でも、千歳が敦を兄として大切に想っているのも知ってるの。璃央の言ったとおり、複雑な気持ちなのよ」
「……それはつらいな。まあ、これからも無理のない範囲で千歳と関わっていけばいい。俺も改めて千歳と話をしたいしな」
「もしかして、璃央は千歳みたいな年下の子がタイプなの?」
「なんですぐそういう話になるんだよ!? 俺はただ瑠璃の心配をしてただけなのに!」
「ふふっ、冗談よ。ありがとね。璃央」
「……おう」
まったく、瑠璃といい鈴音といい、俺をからかってそんなに面白いのか?
俺はあまり面白くないんだが……。
「ねぇ、璃央。あなたも頑張りなさいよ」
「大丈夫だ。剛志と米原のサポートは任せろ」
「それもそうだけど……。鈴音のことよ」
「なんだって? 声が小さくて最後のほうが聴こえなかったんだが」
「……なんでもないわよ。さあ、早く帰りましょう。おじいちゃんがお腹を空かせて待ってるわ」
「それもそうだな。ちなみに今日の夕食のメニューは何にするつもりなんだ?」
「今日は和風ハンバーグにするつもりよ」
「おっ、いいね! 瑠璃の作るハンバーグは絶品だから、きっとじいちゃんも喜ぶだろうな」
「そんなふうに褒められると作り甲斐があるわね。期待して待ってていいわよ」
「ああ、楽しみにしてるよ」
俺と瑠璃はいつもどおり他愛もない話をしながら帰宅した。
花火大会までまだ日数があるが、当日になったら剛志と米原をしっかりサポートしてやるとするか。
たとえ俺だけ彼女ができなくても、二人が付き合ったら笑顔で祝福してやろう。
俺は改めてそう思ったのだった。
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