第十四話 双子と夏の魔物 伍
お昼の館内放送を聞いたあと、俺と鈴音は荷物が置いてある場所まで戻ってきた。
みんなはすでに戻ってきており、どうやら俺たちがみんなを待たせてしまっていたらしい。
昼食は各々フードコートで買ったものをトレーに置き、荷物置き場まで持ってきて、みんなで食べた。
フードコートは複数あり、ハンバーガーやフライドチキンなどのファストフード店。
それから、ラーメン、ステーキ、丼物など、ガッツリ食べられる系の店もある。
もちろん、アイスクリームやクレープなどといったスイーツを販売している店もあった。
お昼どきなので、フードコートは人でごった返しており、テーブルもすべて埋まっている。
やはり、シートを用意して、座れる場所を確保しておいて正解だった。
まあ、荷物番をしなければいけないのが、多少面倒くさいがな。
泳いだり、サウナで汗を流したせいか、俺は味の濃い物が食べたくなった。
なので、味噌ラーメンを頼んだ。
こういうときのラーメンは本当にうまいんだよな。
鈴音はラーメンかハンバーガーで迷っていたが、最終的に背油たっぷりの大盛り豚骨ラーメンを買って食べていた。
瑠璃は焼きそば、牧本と千歳は大きなハンバーガーを買って食べている。
というかお前ら、よくそんな大きなハンバーガーを食べられたな。
そして、肝心の剛志と米原は、二人で仲良くフライドチキンとフライドポテトを食べていたのである。
二人の距離は明らかに縮まっていて、独特な空間が展開されているのが、俺でも感じ取れた。
昼食後、みんなとしばらく雑談をしていた。
しかし、トイレから帰ってきたら、みんなはいなくなり、俺は一人になってしまったのだ。
この時間の荷物番は俺なので、何も問題はない。
けれど、せめて一声かけてほしかったな。
荷物番をしていると、なぜか千歳が戻ってきた。
周りには瑠璃や鈴音、牧本もいない。
どうやら、千歳一人のようだ。
「どうした、千歳? 何か忘れ物でもしたのか?」
「いいえ、違います。璃央先輩と少しお話がしたくて戻ってきました。……隣いいですか?」
「お、おう、いいぞ」
千歳は俺の隣に来て正座をした。
どこか緊張しているようにも見える。
ちなみに千歳は、白いタンクトップビキニを着ていた。
露出が少なめで、可愛らしい水着だ。
「今日は誘っていただいてありがとうございます。皆さんと遊べて、嬉しいです」
「それはよかった。しかし、誘ったのは俺じゃなくて、瑠璃だろ? 礼なら瑠璃に言ってくれ」
「瑠璃先輩にはもうお礼を言いました。……璃央先輩はやっぱり私がいると迷惑なんでしょうか?」
「そんなことないよ。ただ千歳が来たのが意外だなと思っただけだ。 あんなことがあったのに、瑠璃と仲良くしてくれて感謝してる。こちらこそ礼を言うよ。ありがとな」
「い、いえ、そんな……」
正直俺は、瑠璃と千歳の相性がよくないと勝手に思い込んでいた。
和解はしたが、気まずい関係になるんじゃないか、と予想していたのだ。
俺が千歳の立場なら、あまり関わりたくない。
けれども、現在千歳は瑠璃と良好な関係を築いている。
きっと二人は、お互いに歩み寄る努力をしたのだろう。
その結果が、今に繋がっているのかもしれない。
人間関係とは何が起こるかわからないものだ。
「話したいことはこれで終わりか? 俺にはまだ何か言いたげに見えるが」
「は、はい! 今から話すことが本題なんです!」
千歳は何かを決心したような顔する。
澄みきった大きな瞳に俺を捉えた。
「実は、璃央先輩にどうしても知ってほしいことがあるんです」
「知ってほしいこと? 」
「中学生の頃、私は璃央先輩に謝罪をしたいと思っていました。でも、璃央先輩の家も通っている学校もわからなくて、途方に暮れていたんです」
「そうか」
「諦めかけていたとき、ある人物が私に璃央先輩の通っている高校を教えてくれたんです」
「ある人物?」
「その人物はロングヘアーの女性でした。帽子を深く被り、マスクとサングラスをして、顔を隠した怪しい女性。その女性が、私に情報交換を持ちかけてきたのです」
……誰なんだそいつは?
それに、そいつの目的はいったいなんだ?
なんで俺の通っている学校を知っている?
「彼女が璃央先輩の通っている高校を教える代わりに、私は彼女にある情報を教えました」
「ある情報?」
「はい。私が教えた情報は、主に兄が犯した、いじめについてのことです」
「いじめについて……?」
「なぜか彼女は、璃央さんがどんないじめを受けていたかを知りたがっていました」
「なんでそいつはそんなことを?」
「わかりません。でも、その情報を知った彼女はかなり怒っていたようでした。そして私に、璃央先輩と同じ学校に入学して、兄の代わりに直接謝罪をしなさい、と迫ってきたのです」
なぜそいつは俺に拘っているんだ。
知らないやつに付け狙われてるっていうのはなんだか怖いな。
「こういった経緯があったので、私は受験先を璃央先輩が通っている高校に変えて、直接謝罪をすることにしたのです」
「おい、待てよ。じゃあ千歳は、わざわざ俺に謝罪をするためだけに同じ学校に入学したのか? 別にそんなことしなくても……」
「お恥ずかしい話ですが、当時の私は精神的に不安定で、物事を深く考える余裕がありませんでした。それに、私は彼女に『言うとおりにしないと、警察に通報する』と脅されていたのです。私はその言葉が恐ろしくて、従うしかありませんでした」
千歳は涙目になりながらも話をしてくれた。
千歳はひどい目にあってばかりだな。
「話してくれてありがとう。俺のせいですまない。千歳は何も悪くないのに」
「そんな……! 璃央先輩が一番の被害者なんですよ!? 璃央先輩の苦しみに比べたら私なんて……」
千歳は苦しそうな顔をして、泣き始めてしまう。
俺は千歳の頭にそっと手を置き、慰めることしかできなかったのだ。
謎の女はいたずらに千歳を傷つけた。
もしかしたら、いつか俺の前に現れるかもしれない。
そのときは、千歳の前まで連れてきて、直接謝罪をさせてやる。
泣きながら身体を震わせている千歳を見て、俺は決心した。
「おっ! やっと見つけた! おーい、千歳ー!」
千歳が泣き止んだ直後、牧本が名前を呼びながらやってきた。
そういえば、牧本と千歳の関係についてはあまりよく知らない。
お昼のときは仲良く話をしていたような……。
「ま、牧本先輩……」
「ど、どうしたんだ千歳!? なんでそんなに目を赤く腫らしてるんだ!? もしかして、璃央にひどいことでもされたのか!? 璃央、どういうことだ! 説明しろ!」
「ま、待て! 確かに俺に関係あることだが、俺自身は何もしてないんだ!」
「何もしてないなら、どうして千歳がこんな状態なんだよ!? さてはお前、さっき私のことをエロい目で見たように、千歳のこともいやらしい目で見てたんだろ!?」
「り、璃央先輩!? 牧本先輩のことをそんな目で見てたんですか!? ふ、不潔ですよ!」
「ち、違うんだ!」
二人の誤解を解くために、俺はしっかりと説明をして、なんとか二人を説得させる。
しかし、二人からは、突き刺さるような視線が送られている気がした。
「そ、そういえば、お前たちはどういった関係なんだよ? 結構仲が良さそうに見えたが……」
「あれ、言ってなかったっけ? 千歳は陸上部の後輩なんだ。夏休み直前に入部してきたんだよ。こう見えて、千歳は長距離の次期エース候補なんだぜ」
千歳は陸上部に入部したのか。
か弱そうな見た目をしている千歳が、運動系の部活に入るなんて意外だ。
「同じ部活なのは知らなかったな。千歳はそんなに将来有望の逸材なのか?」
「陸上競技は初めてらしいが、体力と根性がものすごいんだよ。技術はないが、体力だけなら私並みかそれ以上なんだぞ」
「それはすごいな……。けど、なんで千歳は陸上部に入部したんだ?」
「実は私、走るのが大好きなんです。部活には入っていなかったんですが、個人でマラソン大会にも出場するくらい好きだったんですよ。走ってるときだけは、嫌なことも忘れられたので……」
ここで言う嫌なことは、たぶん俺や敦関係のことだろう。
千歳は走ることで、ストレスを発散させていたのかもしれないな。
「……でも、陸上部に入部した理由は、それだけじゃないんです」
「そうなのか?」
「そ、その、この場では言いづらいのですが……。ま、牧本先輩の走っている姿を見たときに、格好いいと思ったんです。私も牧本先輩みたいに走れるようになりたくて、陸上部に入学したんですよ」
「えっ!? わ、私が格好いい!?」
牧本は千歳の言葉を聞いて狼狽していた。
よかったな、牧本。
お前の恩人のように、自身も誰かに影響を与えられるほどの存在になれてるじゃないか。
「やったな、牧本。こんなにいい後輩ができて」
「そ、そっか。こんな私でも格好いいと思われるようになったのか。なんか嬉しいな。ありがとな、千歳」
「はい! 牧本先輩は素敵ですよ! いつも私に気を遣っていただきありがとうございます。これからもよろしくお願いしますね!」
「お、おう。よ、よろしくな……」
牧本は顔を赤らめ身体をくねらせていた。
こんなにまっすぐな好意を伝えられたら、きっと誰だって照れてしまうだろう。
本当にいい後輩ができてよかったな、牧本。
「よ、よし! 千歳! これから、体力増強のために二十五メートルプールで泳ぎまくるぞ! 私に付いてこい!」
「はい! 牧本先輩! 私は先輩と一緒なら、どこへでも付いていきます!」
そんな微笑ましいやり取りをしながら、二人は屋内プールへと駆け出したのだった。
現在俺は荷物番をしながら、近くにある流れるプールをぼーっと眺めていた。
いったいどのくらいの時間が経ったのだろうか?
たぶん、二時間くらいは経過しているよな。
みんなが楽しんでいるのはいいことだ。
だけど、そろそろ荷物番を交代してほしい。
それに、剛志と米原がどこまで進展しているのか、非常に気になる。
まあ、今日はあえてあいつらを放置して、二人だけの時間を作ってやることが目的だ。
下手に介入はできないか。
だが、一人くらい監視役がいてもいいのではないか、と俺は考えていた。
もしかしたら、その辺は女子たちが上手くやってくれているのかもしれない。
とりあえず、そう思うことにした。
俺は引き続き、荷物番という重要な職務を全うすることにしたのである。
「璃央、荷物番ありがとな。あとは俺たちに任せろ」
三十分後、剛志と米原が戻ってきた。
おまけに瑠璃もいる。
俺は素早く立ち上がり、すぐにこの場から去ろうとした。
「わかった。剛志、米原、あとは頼む」
「ちょっと待ちなさいよ」
「……何だよ?」
なぜか米原が声をかけてきた。
俺はこの場から早く離れたいのだが。
「あんた、今日は瑠璃と遊んであげてないでしょ? せっかく来たんだから、誘ってあげなよ。ほら、寂しそうにこっち見てるよ?」
瑠璃は珍しく複雑な表情をしている。
確かに今日は瑠璃と遊ぶどころか、会話もろくにしてないな。
家族の仲を深めることも大事だし、一緒に遊んでやるとするか。
「気を遣ってくれてありがとな。米原も剛志と仲良くしろよ」
「あ、あたしたちは、もう結構仲良くなったよ」
「これも、お前のおかげだ。感謝してる」
自然にのろけられたな。
でも、上手くいっているようで安心した。
さて、いつまでもここにいると二人の邪魔になる。
瑠璃を連れて、さっさと離れるか。
「よし! おい、瑠璃! 一緒に遊びに行くぞ!」
「あ、璃央! 何するのよ!?」
俺は瑠璃の手を取り、この場から去ることにした。
「それじゃ、姉弟で仲良く遊ぶとしますか。瑠璃はどこか行きたいところとかあるか?」
「……じゃあ、あのウォータースライダーに行きましょう」
「よし、わかった」
俺たちは室外にある、大きなウォータースライダーへと向かった。
ウォータースライダーは、この施設の名物なので、大勢の人が列を作って並んでいる。
少し気が引けたが、瑠璃のために一緒に並ぶことにした。
ちなみに、瑠璃の水着は青色のオフショルダービキニである。
瑠璃の水着姿は見慣れているので、特に緊張はしなかった。
というか、緊張するほうがおかしい。
「結構待ちそうだけど本当にいいのか?」
「別に気にしないわ」
「それならいいが……」
その会話のあと、俺たちは少しの間無言になる。
しかし、気まずい雰囲気ではなく、むしろ心地いい沈黙であった。
「……ねぇ、璃央」
「何だ? そんな深刻そうな顔して」
「手、繋いでもいい?」
「……またかよ」
「またって、どういう意味?」
「いや、何でもない。というか、どうして手なんか繋ぎたいんだよ? 恥ずかしくないのか?」
「……鈴音とは繋いでたくせに」
「おい、なんで知ってるんだよ? どこかで見てたのか?」
「……ふーん。やっぱりそうなのね」
「お、お前、もしかしてカマかけたのかよ!?」
「そうよ」
俺はまんまと瑠璃の誘導尋問に引っかかってしまったようだ。
瑠璃は慌てる俺の姿を見て眉をひそめる。
「璃央って、やっぱり鈴音のこと……」
「わかった。瑠璃とも繋いでやるよ」
俺は仕方なく瑠璃と手を繋ぐことにした。
瑠璃の手は鈴音より、若干柔らかくて、温かい。
なぜか不思議と落ち着く気分になる。
「これでいいか?」
「ええ、ありがとう」
「ちなみに、いつまで繋いでればいいんだ?」
「私が満足するまでよ」
「そ、そうですか……」
手を繋いだ途端、瑠璃は嬉しそうに笑顔を浮かべた。
まったく、姉弟で手なんか繋いで、何が嬉しいんだか。
瑠璃が笑顔になったのはいいが、しばらく手は離してくれそうにないな。
こんなところをみんなに見られたら、シスコンとか言われそうだ。
そのとき、急に瑠璃の手が絡みついてきて、恋人繋ぎの状態になる。
おいおい、こいつはいったい何を考えているんだ?
「鈴音とはここまでしてないでしょ?」
「……」
「やっぱり、そうなのね」
「俺は何も言ってないぞ」
「沈黙は肯定と取るわ」
「お前なぁ。はぁ……もう好きにしてくれ」
そのまま手を繋ぎながら、二十分くらい並んだあと、ようやく俺たちの番になった。
というか、このウォータースライダーは、二人乗りの浮き輪で滑るやつじゃないか。
てっきり一人ずつ滑るものかと思っていた。
「さあ、一緒に滑るわよ」
「ああ」
それから、俺たちは施設にあるすべてのウォータースライダーを制覇した。
瑠璃は大きな叫び声を上げていたが、表情はずっと笑顔だったので、どうやら楽しかったようだ。
しかし、待っている時間が長かったので、身体には地味に疲労が溜まっていた。
俺たちはベンチに腰かけ、いったん休憩を挟むことにする。
これでやっと、手を離せるな。
……というわけでもなかった。
瑠璃は休憩しているときも、ずっと俺の手を離してくれなかったのである。
いったい、いつになったら離してくれるんだよ。
俺は抵抗する気力も残っていなかったので、瑠璃が満足するまで、仕方なく手を繋いでやることにした。
「なあ、瑠璃。いくつか質問をしてもいいか?」
「いいわよ。答えられる範囲ならね」
「千歳とはどうなんだ? 遊びに誘うくらいだから、仲良くなれたってことか?」
俺は瑠璃に、いくつか気になっていたことを訊いてみようと思った。
まずは千歳との関係についてを尋ねる。
「連絡先を交換して、やり取りする仲ではあるわね」
「お前のコミュ力はやっぱすごいな」
「そんな大したことしてないわよ。それに、今回誘えたのは、葵月が千歳と仲が良かったからなの」
「牧本のおかげなのか?」
「私は千歳と仲良くなりたかったけど、距離感がいまいち掴めなかったの。でも、同じ陸上部の葵月が協力してくれたおかげで、一緒に遊ぶまでの仲になれたのよ」
「牧本には感謝しなきゃな。よかったな、いい友達がいて」
「本当にそう思うわ。これからもみんなとは仲良くしていきたいわね」
やはり瑠璃と千歳の仲は、少しずつ深まっているようだ。
なんだかホッとしたな。
「ほかに質問はある?」
「ああ、あるぞ。剛志と米原のことだが……」
「それなら心配しなくてもいいわ。今日は私と鈴音と葵月が交代制で、あの二人を隠れて監視してたの。今は鈴音が見張ってるはずよ」
「やっぱり見張っててくれたのか」
「当然よ。下手に介入はできないけど、さすがに完全放置するのはリスクが高いでしょ? だから、私たちが見守ってたの。でも、それは杞憂だったわ。あの二人は、こっちが恥ずかしくなるほど、ずっとイチャイチャしてたのよ」
「みんなには感謝しないとな」
「ちなみにこの提案をしたのは、中城さんよ」
「えっ? そうなのか? 俺は、今日は二人だけにすればいい、としか言われてないぞ。というか、いつの間に中城さんと連絡を……」
「連絡先は、一紗が教えてくれたのよ。それでね、中城さんと今日の計画の打ち合わせをして、女子全員で共有してたの」
「俺の知らないところで、みんなは繋がっていたんだな。でも、なんで俺にも話してくれなかったんだ?」
「それは、璃央が――」
「俺が?」
「なんでもないわ。話さなくてごめんなさい」
「お、おう……」
瑠璃はなんだか気まずそうな顔をしている。
さすがに鈍感な俺でもわかるぞ。
要するに、女子たちは俺のことをあまり信頼していなかったようだ。
俺は思ったことがすぐ顔にでるし、たぶん気遣いもできないと思われていたのだろう。
少し傷ついたが、口には出さないことにした。
「……質問は以上だ。答えてくれてありがとな。瑠璃」
「どういたしまして。また何か訊きたいことがあったら答えるわよ」
「そのときはよろしく頼む」
すると突然、施設の館内アナウンスが流れた。
どうやら波のプールが普通の波から、ビックウェーブになったらしい。
「よし! じゃあ、今度は波のプールで遊ぶか!」
「いい考えね。行きましょ」
俺が歩き出す前に、瑠璃が勢いよく走り出す。
手が繋がれているので、俺は瑠璃に引っ張られるような形で波のプールへと向かうことになったのである。
ビックウェーブになった波のプールの勢いは凄まじかった。
高い波に阻まれて、プールの奥へと進むのが難しい。
それでも、やっとの思いで、俺と瑠璃はプールの奥まで来ることができた。
ここまで来ると、波によって身体が持ち上がったり、下がったりして不思議な感覚に陥る。
瑠璃は足がつかなくなるのが怖かったようで、俺の腕に必死に掴まっていた。
「瑠璃、気分はどうだ? 楽しんでるか?」
「え、ええ……。でも、ちょっと怖いわね。璃央、お願いだから離さないで……」
「おう、しっかり俺に掴まってろよ」
俺はビックウェーブを堪能できて楽しかった。
しかし、瑠璃はそうでもなかったようで、終わったあとはベンチでぐったりとしていたのである。
施設の時計を確認してみると、帰宅時刻になっていることに気づく。
急いで荷物置き場まで戻ると、みんなはすでに集まっていた。
みんなの表情を見るに、今日はかなり楽しめたようだ。
剛志と米原も仲良く笑顔で会話をしている。
とりあえず、今日の目標は達成できたといってもいいだろう。
その後、俺たちはその場で現地解散することになった。
剛志と米原はまだ付き合ってもいないのに、仲良く腕を組んで帰っていく。
牧本と千歳も一緒に帰るようだ。
残った俺と瑠璃と鈴音は、三人で帰ることになった。
瑠璃がいてくれて正直助かったな。
俺はいまだに午前中の出来事が忘れられず、鈴音の顔をちゃんと見ることができなかった。
もし鈴音と二人きりだったら、目も当てられないような、気まずい雰囲気になっていただろう。
そんな俺とは対照的に、鈴音は午前中の雰囲気を一切出さずに、瑠璃と普通に接していた。
帰宅後、俺は自分の部屋のベッドで寝転んでいた。
プールではしゃいだ反動が今来たようで、身体が疲れて非常にだるいのだ。
そして、とても眠い。
このまま寝ようかと思っていると、突然携帯が鳴った。
俺は目をこすりながら、画面を確認する。
どうやら、剛志が電話をしてきたようだ。
「もしもし」
『おっ! 起きてたか! 今ちょっといいか?』
「ああ、大丈夫だ」
『今日はありがとな。改めて礼を言わせてもらうぞ。お前らのおかげで、米原との仲がかなり進展したからな』
「よかったな。でも、最初のお前らのガチガチ加減にはヒヤヒヤさせられたぜ」
『最初は誰でも緊張するもんだろ? それにしても、あのときはお前のサポートがあって助かった。感謝するよ』
「俺はお前らを応援してるからな。これから先もサポートさせてもらうよ」
『ありがとな。……それで、大事な相談があるんだがいいか?』
「おう、いいぜ。今話すのか? それとも……」
『とりあえず、相談はまた後日でもいいか? 今日はいろいろあってお前も疲れてるだろ?』
「そうだな。さすがに今日は相談に乗る体力も残ってないぜ。相談はどこで聞けばいいんだ?」
『できれば前みたいに、ファミレスで話をしたいと思ってる。お前はいつだったら、空いてるんだ?』
「いつでも大丈夫だ。なんてったって、俺は暇人だからな。部活もやってねぇし、彼女もいないから、夏休みの予定はスカスカだぜ」
『そうか。じゃあ、よろしく頼む』
「了解。そういや、弘人は誘ったのか?」
『弘人はもう誘ったぞ。詳しい待ち合わせ時間と場所は、また追々連絡するからな。それじゃ、おやすみ』
「ああ、おやすみ」
剛志との電話が終わった直後、また携帯が鳴った。
確認してみると、今度は米原から電話がきている。
しかし、俺は眠気に抗えず、電話に出ることができなかった。
また明日電話すればいいか。
俺はそう思いながら、心地よい疲労感とともに、そのまま眠りについたのだった。
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