第十二話 双子と夏の魔物 参

 八月の上旬。

 まだまだ夏休みは始まったばかりだ。

 そんな中、俺は明後日から始まる補習授業に心底嫌気が差していた。

 補習授業はなんと一週間もある。

 しかも、希望者はもう一週間、補習授業を追加できるらしい。


 もちろん、俺は追加の補習など受けない。

 ……つもりだったのだが、俺は牧本と『今を頑張る』という約束を交わしている。

 なので、俺は仕方なくもう一週間、補習授業を追加することにした。

 どうやら、剛志と弘人も追加補習を受けるらしい。

 瑠璃、米原、鈴音、もちろん牧本もだ。

 

 だが、今はそれよりも大事なことがある。

 それは米原と剛志をどうくっつけるかだ。

 米原は剛志のことが好きである。

 だが、剛志は米原のことをどう思っているかはわからない。

 それを探るために、俺と弘人は駅前のファミレスで、剛志と食事をする予定を入れた。


 今日の課題は、剛志の米原への気持ちをさりげなく訊いたり、部活の休みの日を教えてもらうことである。

 この二つの課題は、中城さんと弘人と俺が協力して考えたものだ。

 あともう一つ、中城さんが考えてくれたプランがある。

 しかし、そのプランは今日の課題を達成しなければ無駄になってしまう。

 だからといって、そんなに難しいことをするわけではない。

 普通に話していれば失敗することはまずないだろう。


 現在午後七時。

 剛志は今日も一日部活があったらしい。

 そのため、疲れて来られない可能性もあった。

 しかし、俺がダメもとで誘ってみると、剛志は二つ返事で誘いに応じてくれたのだ。


「璃央、頑張ろうね」

「ああ、あの野球バカに、俺たちが青い春を届けてやろうぜ」

「そうだね。上手くいくといいけど……」


 そのとき、高身長で坊主頭、筋肉モリモリの高校生には見えない面構えの男が、ファミレスに入ってきた。

 その男は俺たちのほうを見ると、笑顔になり、そのままずかずかとこちらに向かってくる。

 間違いない、剛志だ。


「よお、お前ら。待たせちまったか?」

「いいや、全然。俺らも今来たところだぜ」

「そうか? ならいいが」

「じゃあ、メニューを見て選んでくれよ。好きなもん食っていいぞ」

「ああ、わかった。ところで、本当に今日はお前らの奢りでいいんだよな?」

「もちろんだ。さあ、好きな物を頼んでくれ」


 俺と弘人は、剛志との話す機会を設けるために「夕食を奢る」という約束をした。

 剛志は見た目どおりの大食いなので、俺たちの財布の中身がちょっぴり寂しくなるかもしれない。

 だが、そこは必要経費として目をつぶることにしよう。







「……それで? 今日集まった理由は何なんだ?」


 剛志は至極真っ当な質問をしてきた。

 俺たちは気取られないように冷静に答える。


「ほら、休みにはいってから、僕たち全然会ってなかっただろ? だから、久しぶりに食事でも一緒にどうかなって思ったんだ」


 剛志の前には、大きなハンバーグ、大盛りライス、大量のフライドポテトに唐揚げという、いかにも腕白高校生が好きそうな料理が並んでいる。

 剛志はハンバーグとライスを口の中がパンパンになるまで頬張っていて、喋りづらそうにしていた。


「……てっきり、俺に何か大事な用でもあるのかと思ったぜ」


 剛志は口の中の食べ物を咀嚼して、メロンソーダと一緒にゴクリと飲み込んだ。

 そういえば、剛志の好きな飲み物もメロンソーダだったな。

 正確に言えば、こいつが好きなのは炭酸系の飲み物全般だが。 

 思い出してみると、米原もメロンソーダが好きだったはずだ。

 早速共通点を発見したぞ。


「はは、ないない。ただ単に三人で食事をしたいと思っただけだよ。そうだろ、璃央?」

「ああ。休みだからこそ時間を気にせず、こうやって男同士で有意義に語れる場を作りたかったんだよ」


 俺は頼んだ和風定食を、弘人はパスタを食べながら答えた。

 少し会話に違和感があるが、剛志なら気がつかないだろう。


「とはいえ、俺たち三人には浮いた話とかも別にないだろ? まあ、あるとすれば、最近の璃央が怪しいくらいか?」

「え? お、俺か!?」


 油断していた俺は思わず声を上げてしまった。

 俺に浮いた話なんてないぞ。


「な、なんで俺なんだよ? あるとすれば弘人のほうが可能性はあるんじゃないか?」

「おい! 璃央!」

「いーや、何かあるとすれば、間違いなくお前なんだよ」


 剛志は鋭い眼光で俺を見る。

 それから、フライドポテトをつまみ始めた。


「お前の周りの環境は美藤が転校してきてから、少しずつ変わっていったよな?」

「確かに僕もそう思うよ。初めて会ったはずの美藤とも最初から仲良く話をしてたしね」

「それに、お前は牧本を助けたよな? あれ以来、ほかの女子もお前のことを受け入れ始めたみたいだった」

「あ、あれはただ、俺ができることをやっただけだ。だいたい、牧本が無事だったのは、じいちゃんと瑠璃が手伝ってくれたおかげでもあるんだよ」

「そのうえ、お前は一年生の女子からラブレターを貰ったとも聞いたぞ?」

「それも誤解だ。あれはラブレターなんかじゃない」


 今は俺の話なんかをしている場合じゃないというのに……。

 弘人も話の流れを変えるようにしてくれよ!


「総括するとな。双子の姉にも好かれて、隣の席の美人な女子ともイチャイチャ。さらには陸上部のエースとも親密な関係を築き、一年からは手紙を貰う。そんなモテモテなお前に何も起こらないはずはない、と思ってな。正直羨ましいぞ!」


 違うんだ、剛志。

 俺たちはお前を彼女持ちにさせるために頑張ってるんだよ。

 そんな怖い目でにらまないでくれ。


「俺と弘人はまったくといっていいほど女子と縁がない。それは、お前もよく知ってるだろ? お前だけ抜け駆けすることは許さんぞ! なあ、弘人?」

「え? あー、本当に許せないよねー」


 弘人は遠い目をしていて、剛志の暴走を止めようともしない。

 弘人が彼女持ちということをばらそうかと思うくらい、俺は追い詰められていた。


「で、お前は誰が好きなんだ?」

「え?」

「だから、お前は誰が好きなんだ?」


 剛志は、なぜか突然恋バナモードへと突入していた。

 いや、今だけはありがたいけども……。

 流れを変えるために、ここらで勝負に出るとするか。

 俺は一度深く呼吸をし、剛志と向き合った。


「剛志。今から俺の好きな女子をお前に教える。だから、お前の好きな女子も教えてくれ」

「ああ、いいぞ。男と男の約束だ」


 俺は大きなチャンスを意図的に作った。

 しかし、これは俺の好きな女子も言わないといけない諸刃の剣でもある。

 米原のためにもここで腹をくくるしかない。


「お、俺が好きな女子は……女子は……」

「どうした璃央! 男ならハッキリと言ってみろ!」


「俺は鈴音が好きなんだぁー!!」


 ……言ってしまった。

 しかも、店内に響くような大声で。


 鈴音を選んだ理由は単純な消去法だった。

 瑠璃は実の姉だし、米原は論外、牧本は友達としか見れない。

 結果、鈴音にしたのだ。

 もちろん、鈴音のことは嫌いではない。

 むしろ好きだと言ってもいいだろう。

 ただし、友達としてだがな。


「……」

「……」


 剛志と弘人は黙ったままだ。

 果たして、米原のためにここまで自分を犠牲にする必要があったのだろうか。

 冷静になって頭が冴えてきた俺は、後悔の念を感じ始めていた。


「璃央、お前の気持ちは俺のハートに響いたぞ」

「璃央、君の勇気に感服したよ」

「あ、ありがとう……?」

「ちなみに僕が選ぶなら瑠璃ちゃんかなー」

「……何だと?」

「り、璃央、そんな怖い目で見るなよ」


 瑠璃の名前が出て内心ドキッとしたが、弘人の言動は演技だとわかる。

 なぜなら、弘人には中城さんという恋人がいるからだ。

 しかし、俺はそんなに怖い目をしていたのだろうか?

 瑠璃に恋人ができたほうがいいと思っていたのだが、なぜか心がモヤモヤする。

 いや、今はそんなことはどうでもいい。

 今度は剛志の番だ。

 

「剛志、俺は答えたぞ。次はお前の番だ」

「お、おう……。お、俺はな……」

「剛志ぃ! 声が小せぇぞ! 部活のときみたいに腹から声を出せよ!」


 剛志が躊躇っている姿を見て、俺は少しイライラしてしまい、強く言ってしまった。

 俺のダメージもでけぇんだぞ。


「お、俺は米原が好きだぁー!!」


「……は?」

「……え?」


 剛志は今何と言った?

 好きなのは米原だ、と聞こえたぞ。


「すまん、剛志。もう一回頼む」

「……米原が好きだと言ったんだ。何度も言わせるな」


 俺と弘人は驚いてお互いの顔を見合わせてしまった。

 これは俺たちのサポートは必要なのか?

 これなら放っておいても、自然にくっつくのではないか?

 そのような疑問があふれ出て止まらない。


「つ、剛志はいつから米原のことが好きなんだい?」

「一年のときからだな。俺は米原を一目見た瞬間、なんかビビッときちまったんだ。その……なんつーか……一目惚れしちまってさ」


 剛志が珍しく顔を赤らめて喋っている。

 米原喜べ、お前と剛志はきっとベストカップルになれるぞ。


「俺には過去の過ちがあるし、米原もたぶん俺のことなんか嫌いだろ? だけど、仲良くなりたかった。でも、どうすればいいかわからずに、俺は悩んでたんだ」


 これはもう俺たちが本格的に恋のキューピッドになるしかないな。

 剛志と米原の両想いが確定してる以上、中城さんの計画はさらに活きるはずだ。


「剛志、明後日から補習が始まるよな?」

「ああ、そうだな」

「補習が終わったあとに、丸一日空いてる日とかはあったりするか?」

「空いてる日ならあるぞ。それがどうかしたのか?」

「なら、その空いている日に、みんなでプールに行こうぜ。もちろん、米原も誘うからな。米原の水着姿、見たいだろ? ついでに、そこで仲良くなっちまえばいいんだよ。俺たちも協力するぜ」

「お! マジか……。協力してくれるなら助かる。それに、米原の水着姿は見たい! お前らが親友で本当によかったぜ!」

「友達ならこれくらい当たり前だろ。お前の恋が上手くいくように応援するぜ、剛志」

「僕も全力でサポートするよ」

「お前たち……。ありがとな……」


 そのあと俺たちは、男同士でしかできない話で盛り上がった。

 女子たちがこの会話を聞いたらきっと呆れてしまうだろう。

 とんでもなく馬鹿な会話だったが、俺たちの絆は前よりも深まった。







 話が盛り上がりすぎたせいで、俺は夜遅くに帰宅した。

 じいちゃんと瑠璃はリビングにいなかったので、もう寝てしまったのだろう。

 俺はシャワーを浴びてから、自分の部屋へと戻る。


 現在の時刻は午後十一時。

 今日の作戦が上手くいき、俺は興奮して眠れなかったのである。

 なので、次の作戦について思案していた。  


「このままいけば、あの二人は無事付き合えそうだな。しかし、そうなるとやっぱり俺も彼女が欲しくなってくるな……」

「璃央はどんな子を彼女にしたいの?」

「そうだな、優しくて気が合う感じの……って瑠璃!? いつの間に俺の部屋にいたんだよ!? ビックリしたぞ!」

「璃央が油断しすぎなだけよ。ちゃんとノックはしたわ。わざわざ声を何度もかけたのよ。気がつかなかったの?」

「えっ? そうなのか? まったくたるんでるな俺は……」


 どうやら俺は興奮しすぎて、周りが見えなくなっていたようだ。

 これはなかなか恥ずかしい。

 次からは気をつけなければ。


「もう一度訊くけど、璃央はどんな子が彼女だったらいいの?」

「そ、それはだな……」

「待って、やっぱりいいわ。また今度教えてちょうだい」

「おいおい」

「それより、あなたたちなんだか面白いことしてるじゃない? なんで私も呼んでくれなかったの?」

「米原から事情を聴いたんだな? 悪い、話すのが遅くなった」

「別に気にしてないから大丈夫よ。でも、驚いたわ。まさか、一紗の好きな人が剛志君だったなんて……」

「瑠璃でも気づけなかったのか?」

「疑惑はあったけど、あえて訊かなかったのよ。これってデリケートな問題でしょ? それで、肝心の剛志君は、一紗のことをどう思ってたの?」


 瑠璃は興味津々で訊いてきた。

 さすがの瑠璃でも、友達の色恋については気になるらしいな。


「ああ……その件なんだが……」 

「も、もしかして、一紗じゃダメそうなの?」

「……両想いだ」

「え? 両想いってことは……」

「そうだ! なんと剛志も米原のことが好きらしい!」

「やったわね! 一紗!」


 瑠璃は珍しくガッツポーズをとりながら喜んでいた。

 米原は瑠璃にとって大切な親友だ。

 喜ぶのも納得できる。


「それで、一紗には報告したの?」

「いや、まだだ。今日はもう遅いし、明日にでも連絡しようかと思ってたところなんだが……」

「今日連絡したほうがいいに決まってるでしょ! 早く一紗に連絡しなさいよ!」

「お、おう。わかったよ」


 瑠璃に急かされたので、渋々米原に電話をかける。

 こんな遅い時間に電話に出るわけないだろ。

 だが、意外なことに米原はワンコールで電話に出た。


「もしもし、俺だ。こんな夜遅くにすまん。お前にどうしても連絡したいことがあるんだ。今話しても大丈夫か?」

『もしもし、連絡待ってたよ。今日はお疲れ様。今は何もしてないから、話をしても大丈夫だよ』

「わかった。それじゃ、今から話すからな」

『う、うん。そ、それで剛志の空いてる日はわかったの? それと、あ、あたしについては何か言ってた?』


 電話越しでも、米原が緊張しているのが伝わってくる。

 ここはできるだけ、ストレートに言ってやるとするか。


「計画してた『みんなでプール作戦』の予定決めは成功だ。剛志も来てくれるらしいぞ。それで、剛志が米原のことをどう思ってるかだが……」

『璃央! 変に溜めないでよ! 緊張す――』

「喜べ、剛志も米原のことが好きだそうだ。どうやら剛志も、お前に一目惚れをしたらしいぞ」


 一瞬、電話越しに何かが落ちる音が聞こえた。

 おそらく、嬉しすぎて動揺してしまったのだろう。 

 

『お、大きな音出してごめん。驚いて、ベッドから落ちちゃった』

「大丈夫か?」

『ぜ、全然大丈夫。ていうか、本当に両想い!? 嘘じゃないよね!?』

「そんなに心配なら、弘人にも訊けばいいさ。嘘は言ってないよ。ちなみに、剛志もお前のことについて悩んでたぞ。それもすごくな」

『マジ!? 璃央、本当にありがとね!』

「おいおい、感謝するのはまだ早いだろ? お礼なら、お前たちが付き合ってからたっぷり聴いてやるよ」

『わかった。あたし頑張るよ。今日は本当にお疲れ様』

「ああ。今日はもう遅いし、これで切るぞ」

『うん。じゃあ、おやすみー』

「おやすみ」


 時計を見てみると、もう午前零時を過ぎていた。

 もう夜も遅いことだし、そろそろ寝るとするか。


「言われたとおり、米原に電話したぞ。これでいいか?」

「……」


 瑠璃はいつの間にか俺の隣に座っていた。

 しかも、何かを考え込んでいるようだ。

 よからぬことを考えてなければいいが。


「ちょっと璃央の携帯を貸してくれる?」

「ん? 俺の携帯か? 何に使うんだよ?」

「いいから!」


 瑠璃は俺の携帯を奪い取る。

 そして、勝手に操作し始めた。


「おい! 人の携帯を勝手に――!」

「璃央は少し黙ってて」


 瑠璃は誰かに電話をかけているようだ。

 いったい誰に……?

 ……まさか!


『おう、璃央か? どうしたこんな時間に?』

「もしもし、剛志君? 残念だけど、璃央じゃなくて私よ。瑠璃よ」


 案の定、瑠璃は剛志に電話をかけた。

 しかも、俺にも聞こえるように携帯をスピーカーモードにしている。


『な、なんで瑠璃が璃央の携帯から電話してるんだよ? 俺に何か用でもあるのか?』

「あなたに伝えたいことがあって電話をしたの。もちろん、内容は一紗に関係していることよ」

『よ、米原のことでか……?』

「一紗はね。どうやらあなたのことが好きみたいなのよ」

『お? え? マジで? 』

「あなたたちが上手くいくように応援するわ。でも、一紗を泣かせたりしたら承知しないから」

『そ、そんなことしねぇよ……』

「信じるわよ? じゃあ、これで用件は終わり。おやすみなさい」

『お、おやすみ』


 瑠璃のやつ、やりやがったな!

 ここは普通隠しておくだろ!

 あぁ、瑠璃のせいで俺たちの計画が……。


「璃央は私の行動に、納得してないようね」

「当たり前だ。二人が会うたびに気まずくなったら、どうするつもりなんだよ? どう考えても、今のは悪手だろ?」

「違うのよ、璃央。恋っていうのは一方通行じゃダメなの。お互い向き合って意識させなきゃいけないのよ。でも、ここから先は二人の問題だから、私たちは下手に介入できないわ」

「じゃあ、俺たちはどうすればいいんだよ?」

「もちろん、何もしないわけじゃないわ。私たちはこれから、剛志君と一紗が二人きりになれる機会を作ることに徹するべきなのよ」


 ……そうか!

 二人が両想いってことは、もう俺たちが無理に介入する必要はない。

 あとは、二人の仲が進展するまでのお膳立てをして、見守るしかないんだ。


「……瑠璃、ありがとな。確かにお前の言うとおりだ。俺はそこまで頭が回らなかったよ」

「大丈夫よ、璃央。あなたにもいつかわかる日が来るわ」

「というか、瑠璃はすごいな。どこでそんなことを身に付けたんだ?」

「それは……秘密よ 」

「また秘密かよ」

「女の子には秘密が多いって前にも言ったでしょ? その辺もちゃんと理解しときなさい」

「何だよそれ? まあ、別にいいけどさ。なんにせよ今回は助かったよ。ありがとな、瑠璃」


 俺はまた無意識に瑠璃の頭を撫でていた。

 やばい! これはまずかったか?

 一瞬そんな心配をしたが、瑠璃は抵抗もせずにそれを受け入れている。

 どうやら心配のしすぎだったようだ。


「ねぇ、璃央。やっぱり訊いてもいい?」

「ん? 何をだ?」

「あなたの好きな女の子のタイプ。参考までに、訊いておきたいの」

「え? 別にいいけど、もうこんな遅い時間だぞ? 眠くないのか?」

「一紗の話を聴いてたら、目が覚めちゃったのよ」

「そ、そうなのか……」


 俺はもう寝たいんだが……。

 しかし、瑠璃にはさっきの恩がある。

 しょうがない、今晩は瑠璃の恋バナに付き合ってやるとするか。

 

 今は夏休みだ。

 まだまだ時間はたっぷりとある。

 明日も特に用事があるわけじゃない。

 だからこそ、思いっきり夜更かしができるわけだ。


 こうして、瑠璃が眠くなるまで、深夜の恋バナは続くことになったのである。

 幸いなことに、今回は夜更かしをしても、風邪を引かずに済んだのだった。

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