第五話 双子と将来の夢

 気づいたら俺は白い空間に立っていた。

 目の前には、白髪で俺とそっくりな外見の人物がいる。


「やあ、こんにちは。璃央くん」

「ああ、お前と会うのは久しぶりだな。中学のとき以来か?」

「いいや、ついこの前も会ったばかりさ」

「何? 俺は覚えてないぞ?」

「キミが忘れているだけさ。このようなやり取りは、もう何回もしているんだよ」


 何か質問しようとしたが、こいつの意図がわからない。

 とりあえず、黙っていることにした。


「おや? いつもならここで、キミから質問が飛んでくるのだけれど、今回はちょっと違うね」


 もう一人の俺は笑みを浮かべながら話している。

 一方、俺は眉ひとつ動かさない。


「まあ、僕にはそのほうが都合がいいんだけどね。説明する手間が省けて助かるよ。それで、今回はね。キミをお祝いしようと思ってたんだよ」


 お祝い?

 どういうことだ?


「キミは、牧本さんを助けた日のことを覚えているかい? そのとき、キミはおじいさんに自分の過去を明かしたね? そして、改めて過去と向き合うことを決めた。キミはまた一歩成長したね。おめでとう、僕は嬉しいよ」


 なぜこいつは嬉しがっているんだ?

 俺は別に大したことはしていない。

 当たり前のことをしただけだ。 

 それにしても、まさかこいつから褒められるとは思わなかった。

 本当に何を考えているかわからないやつだ。


「キミはこれから、過去の記憶を思い出していくことになるかもしれない。その記憶の中には、つらい記憶もあるだろう。だけど、過去と向き合って、受け入れてほしいんだ。そうすることで、キミに新しい未来を掴んでほしいんだよ」


 過去の記憶?

 そんなもの今は必要ない。

 それがつらい記憶ならなおさらだ。

 忘れていたほうが楽に決まっている。


「たしかに、つらい記憶なら忘れていたほうが楽だろう。でも、何がきっかけで記憶を思い出すかわからないんだ。過去を知ったとき、キミはきっとひどく混乱するだろう。そのときは大切な人を頼ってほしい。もちろん、僕でもいいけどね」

「おい! それはどういう――」


 次の瞬間、白い空間があっという間に崩れてきた。

 俺の意識も徐々に遠のいていく。


「今回はここまでのようだね。キミは忘れているかもしれないけれど、ここで話した事実は消えないんだ。頭では忘れていても、きっと心や身体が覚えているよ。じゃあ、また会おうね」


 空間が完全に崩壊し、ついに俺は意識を失った。







 清々しい初夏の風に肌も汗ばむ頃、俺はある悩みを抱えていた。

 悩みの原因、それは先月の中間試験の結果が関係している。

 なんと俺のテストの結果は、すべての教科の点数が平均点以下だったのだ。

 

 俺の通う学校は進学校であり、生徒の学力が結構高い。

 今回の試験の平均は、全教科八十点に近かった。

 そんな中、俺の平均は六十点台という、なんともいえない結果だったのだ。

 瑠璃は平均九十点以上、鈴音の平均も九十点に迫る点数だった。

 悪友である剛志と弘人でさえも、平均は七十点を超えていたのである。


 なぜこんな点数を取ってしまったのか。

 それは、俺が予習復習をまったくしなかったからである。

 というのも、一年生の頃は授業を受けるだけで、平均八十点くらいは取れていた。

 なので、予習復習はこれまでまったくしてこなかったのである。

 しかし、二年生になり、受ける授業の数が増え、徐々に内容も難しくなっていった。

 そのため、俺は授業についていけなくなってしまったのだ。


 自覚はしていた。

 だが、なんとかなるか、と思って楽観視した結果がこれである。

 しかも、俺は『将来の夢』というものがまだ決まっていない。

 俺には目標がないのだ。

 そんなわけで、勉強に身が入らない状況に陥っていた。


「はあ……なんとかしないといけないな……」

「おい、璃央。どうかしたのか?」

「ん? ああ、ちょっと考えごとをしてたんだ」


 今は早朝ランニングの最中だ。

 だが、一人で走っているわけではない。

 なんと牧本と並走しているのだ。

 

 牧本は一か月前に右足を捻挫したが、今では完治しており、ランニングもできるようになっていた。

 どうやら牧本は、何年も前から早朝ランニングをしていたそうで、俺とは何回もすれ違っていたらしい。

 確かに同じくらいの年代の人物は、何回か見かけたことはある。

 だけど、その人物がまさか同級生とは思ってもみなかった。

 

 なんでも、先月牧本を助けたことで、俺に対する好感度が上がったらしい。

 その結果、一緒に走ろう、と提案してきたのである。 

 俺はその提案をありがたく受け入れた。

 そんな経緯があって、今こうして牧本と一緒に走っているというわけだ。


 というか牧本は、部活の朝練もあるのに、早朝のランニングもしている。

 そんなに走るのが好きなのか?

 牧本の体力は底なしだな。


「考えごとなんかしてると、転んで怪我をするぞ」

「牧本には言われたくないな」

「むっ、ペース上げるぞ!」


 陸上部のエースなだけあって、牧本は走るのが相当速い。

 俺でも、追いつくのがやっとだ。

 本音を言うと、これ以上ペースを上げられると困る。


「ところで、一つ質問してもいいか? 牧本は中間テストの平均点はどれくらいだったんだ?」

「試験の平均点? だいたい全教科平均六十点くらいだったな。私、部活ばっかやってたから、勉強してなくてさ。そういう璃央はどうだったんだ?」

「……俺も平均六十点くらいだ」

「おっ、そうなのか? じゃあ、私たちは仲間だな。……あれ? でも、璃央は部活に入ってないよな? 勉強しなかったのか?」

「か、家事がちょっと忙しくてな」

「へー……」


 牧本はニヤニヤしながら、こちらを見てくる。

 どうやら、牧本には速攻で嘘だとバレたようだ。


「瑠璃も同じ状況のはずなのに、クラスではトップだったよな? 双子の姉弟なのに、こんなに差が生まれるのはおかしくないか?」

「る、瑠璃はな。一度見たものは、だいたい覚えられるらしい。俺もそんな能力欲しいぜ」

「そうなのか!? やっぱり瑠璃はスゲーな! そうだ! 瑠璃に勉強を教えてもらえばいいんじゃないか?」

「それは、やめといたほうがいい。あいつの勉強法は独特だから、たぶん俺たち凡才には理解できないと思うぞ」

「そ、そうなのか……」


 腕時計を確認すると、すでに一時間ほど経過している。

 なので、俺は走るのをやめて歩くことにした。

 走りながら喋るのはさすがに疲れる。

 だが、牧本はまだ走り足りないようだった。


「私はあともう少し走ってから帰るわ。じゃあ、また学校で会おうな」

「おう、またあとでな」


 牧本は、さっきよりペースを上げて走り去ってしまった。

 ……やっぱりあいつは体力お化けだ。


 そういえば、テストの話に夢中で、牧本の将来の夢を訊きそびれてしまったな。

 まあ、また今度訊けばいいか。

 どうせ毎日会うんだからな。







「なあ、瑠璃。瑠璃の将来の夢って何だっけ?」


 帰宅後、瑠璃に将来の夢をそれとなく訊いてみた。

 瑠璃は腕組みをしながら、じとっとした目で俺を見る。


「……前にも言ったわよね。医療系の仕事に就きたいって。それで、璃央の将来の夢はもう決まったのかしら?」

「一応、確認しただけだよ。俺は相変わらず何も決まってない。なんか将来のビジョンが見えないんだよな」

「だからって、あんな点数をとっていいわけじゃないわ。目標がなくても勉強することは大切よ。璃央が望むなら、今晩から私が教えてあげてもいいけど」

「正論言ってくれてありがとな。本当に自分でもそう思うよ。勉強教えてもらうのは……考えとくよ」


 瑠璃の勉強法とは、教科書を一ページずつ見て、内容を全部覚えるというものだ。

 瑠璃はそれだけで全部覚えられるらしいが、はっきり言って常人にはできない行為である。

 物覚えが悪い俺にはたぶん向いていないだろう。


「わかったわ。じゃあ、私は先に行くわね」

「おう、行ってらっしゃい」


 瑠璃は最近、俺と一緒に登校しなくなった。

 少し寂しい気もしたが、からかわれることもなくなるし、別に気にすることでもないよな。







「俺の将来の夢?」


 お昼休み、俺と剛志と弘人は、使われていない空き教室で昼食をとっていた。

 俺たちは去年の事件以降、自分たちの教室では昼食をとっていない。

 女子たちからの見えない圧力によって、教室を追い出されている状態なのだ。

 まあ、こればかりは自業自得なのでしょうがない。


 いや、そんなことはどうでもいい。

 それより、今は二人の将来の夢や目標などについて、知っておかなければならない。

 きっと参考になるはずだ。

 俺はまず剛志に訊いてみることにした。


「何だよ、藪から棒に」

「いいから、教えてくれよ」

「んー、そうだな……」


 剛志は頭をボリボリ掻きながら悩んでいる。

 もしかすると、こいつも俺と同類か?


「……俺はとにかく野球がしたいな。野球の強い大学がいい。そのためには、勉強をもっと頑張らないといけない、とは思ってる」


 どうやら俺と同類ではなかったようだ。

 それにしても、剛志らしい答えだな。


「弘人はどうだ? 行きたい大学とかはあるのか? 」

「ぼ、僕かい? ええとね……」

「なければ無理に答えなくてもいいぞ」

「いや、僕の目標はもう決まっているよ。僕は地元の企業に就職したいと思う」


 就職……。

 そうか、就職という手もあるのか。

 たしか、この高校だけに募集をかけている有名企業が複数あったっけ。


「僕の家はそんなに裕福じゃないし、そもそも勉強もそんなに好きじゃないんだ。借金をしてまで大学に行く必要はないかな、って思ってる。地元の有名な企業で、手に職をつけるほうが、僕には合っていると思うんだ。もちろん、勉強も頑張ろうとは思ってるよ。内申点のためだけどね。それに、就職を希望する理由は、ほかにもあるんだ……」


 ほかの理由も気になるが、それを訊くのは野暮ってもんだな。

 それにしても、弘人は堅実に生きようとしてるなぁ。


「二人とも、答えてくれてありがとな。今の時点でそこまで考えてるなんて、お前らはすごいよ。それに比べて、俺は全然ダメだな。いったい、どうしたらいいんだろうな……」


 自分が情けなくなり、つい本音が漏れてしまう。

 ちょっと恥ずかしいな。


「お前には、『彼女を作る』っていう目標があったよな? とりあえず、それを大学に進学するための原動力にするのはどうだ? 高校生のうちは無理でも、大学に行けば選択肢が広がると思うぞ」

「なんかそれ、すっげぇ不純な動機な気がするんだが?」

「でも、ないよりはましだと思うけど」


 自分が何をしたいのか、よくわからなくなってきたな。

 俺は自分の矮小さを知った気がした。


「あっ! そういえば!」

「どうした、弘人?」

「璃央はこの前、牧本さんを助けただろ? だから、人を助ける仕事とかどうだろ? 警察官や消防士、自衛官とかさ」


 先月牧本を助けてから、俺たちへの評価が少し変わったらしい。

 なんでも、牧本が俺に助けられたことをみんなに話した結果、評価が少しだけ上がったようだ。

 人を助ける仕事ってのも、案外悪くないのかもな。


「まあ、前向きに検討しておくよ。二人とも、相談に乗ってくれてありがとな」

「おう」

「僕たちでいいなら、また相談に乗るよ」


 二人に打ち明けて正解だったな。

 改めてこいつらが友達でよかった。







 放課後、俺は動くことが億劫になり、机にしばらく、うなだれていたのである。 

 今日の最後の授業は体育だった。

 ちなみに授業の内容はバスケだ。 

 俺は普段どおり、楽しくバスケをしようと思っていたのだが、今日はなぜかみんなが本気になっていた。

 それに付き合ったせいで、疲労がかなり溜まって、動けなくなってしまったのである。 

 果たしてこんな有様で、体育会系の仕事なんかに就けるのかと疑問に思い、自己嫌悪にも陥っていた。


「璃央君。ちょっといいかな?」


 そのとき、誰かに声をかけられた。

 この声はたぶん鈴音だろう。


「……どうした、鈴音?」

「えーっとね、璃央君にちょっとしたご報告があります……」


 目の前にいる鈴音は、妙にそわそわとしていて、いつもの落ち着きがなくなっていた。

 何かあったのだろうか。


「わ、私ね。モデルになったの! モデルといっても読モだけどね」

「読モ?」


 読モ……。

 聞いたことあるな。

 たしか、読者モデルの略だったような。

 ていうか、え? 読モ? 鈴音が?


「おお、すごいな。おめでとう、鈴音」

「あ、ありがとう……。この雑誌にね、私の写真が載ってるんだ」


 鈴音は机の上にファッション雑誌を広げた。

 そこには、鈴音の写真が載っている。

 相変わらずスタイルがいいな。


「わ、私ね。昔は、背も低くて、体型も太ってて、自分自身が嫌いだったの。でも、ある日、ありのままの私のことを、可愛い、って褒めてくれる人に出会ったんだ。その人にもっと可愛いと思われたくて、頑張ってダイエットしたり、美容に気をつけるようになったの。今の私がいるのは、その人のおかげなんだよ」


 鈴音は若干早口になりながら喋っていた。

 少し興奮しているようにも見える。

 鈴音がその恩人を、どれだけ大切に想っているかがわかる気がした。


「鈴音はすごいな……。将来は本格的にモデルになるのか?」

「う、うん。まだまだ新人で、人気もそんなにないけどね。一応、大学に進学することも視野に入れてるけど、高校を卒業したら、プロの事務所に入れればいいなぁって思ってるの」

「鈴音なら大丈夫だ。可愛いし、スタイルもいいし、頭もいいし、性格もいいし、悪いところが見つからない。応援するよ」

「う、うん。あ、ありがと……」


 気がつくと、鈴音の顔が真っ赤になっている。

 しまった!

 またなんか恥ずかしいことを言ってしまった気がするぞ。



「あ! わ、私、今日は用事があるから、もう帰るね! じゃあね、璃央君! また明日!」


 鈴音は逃げるように教室から去って行ってしまった。

 おいおい、何度目だよこの展開。

 鈴音と話していると、たまになんともいえない雰囲気になってしまう。

 たぶん、毎回俺が変なことを言うからかもしれないな。

 次こそは気をつけよう。


 しかし、鈴音も自分の夢を向かって努力してるのか。

 みんなすごいな。

 それに比べて俺は……。


 ……俺もそろそろ帰るか。

 あれこれ一人で悩んでいても、何も解決しないだろう。

 明日になったら、稲田先生に相談でもしてみるか。


 校門まで来たところで、俺はジャージ姿の牧本を発見した。

 なぜか牧本は一人で校門に寄りかかっている。

 部活中なのだろうか?


「よお、牧本。こんなところで何してるんだ?」

「お、璃央。私は今部活中だぞ」

「……お前以外の部員が見当たらないが?」

「実は、今さっきまでみんなと学校の周りを走ってたんだ。だけど、私が速すぎて、みんなを置いてきちゃったみたいなんだよ」


 なんだこいつは?

 やっぱり化け物か?

 そういえば、牧本には将来の夢を訊きそびれていたな。

 今ここで訊いてみるか。


「なあ、牧本。ちょっと質問してもいいか?」

「あ、うん。今なら大丈夫だ。でも、一応部活中だから、質問は一つだけにしてくれ」

「わかった。単刀直入に訊くが、牧本の将来の夢ってなんだ?」

「えっ……私の将来の夢……か」


 牧本は悩んでいるようだ。

 いきなりこんな質問をされるとは思わなかっただろう。

 牧本は頭を抱えて、俺の前で右往左往としている。


「わ、私は走ることが好きだ。だけど、将来のことを考えると、走るだけじゃいけないっていうのもわかってる。一応、大学には行こうと思ってるんだ。けれど、今は部活で全力を出して走ることしか考えられないんだよ。でも、勉強もやらないといけないし……」


 牧本もいろいろと葛藤しているようだ。

 これ以上考えさせると、部活に響きそうだな。


「牧本、悩ませて悪かった。質問に答えてくれてありがとな。今を全力で、っていうのがためになったよ」

「そ、そうか? 私の言葉が、少しでも璃央の役に立てたのならよかったよ。……そういう璃央の将来の夢はなんなんだ?」


 やはり訊かれたか……。

 さすがに、「彼女を作るために大学に行く」とは答えられない。

 俺自身もこの案はなしだと思っている。

 しかし、人を助ける仕事に就くっていうのも、今一つピンとこない。


「今はない……な。こっちから質問したのに、こんな答えですまん。俺はどうしたいんだろうな……」


 今はこう答えるしかなかった。

 牧本はそんな俺のことをまじまじと見ている。


「じゃあさ、璃央も私と一緒に、全力で毎日を過ごそうぜ! 毎日頑張って生きてればさ、将来やりたいことのヒントとかを見つけられるかもしれないぜ?」


 牧本の提案に俺は驚いた。

 まさか、「一緒に」という言葉が、口から出てくるとは思わなかったのだ。

 ちょっと前までは、こんな展開になることはあり得なかっただろう。


「だから、勉強も一緒に頑張ろうぜ。勉強できるようになれば、将来の選択肢も広がるからさ。そのために、頭のいい人に勉強を教えてもらうのがいいんじゃないか? なあ、瑠璃はやっぱりダメなのか?」


 牧本の言葉が俺には新鮮に感じられた。

 新しい仲間ができた、と思うとなんだか嬉しくなってくる。

 これが青春ってやつか?


「牧本、ありがとな。お前のおかげで、俺は前向きになれた気がするよ」

「そ、そんなお礼を言われることはしてねーよ。なんだか恥ずかしくなってきたぞ……」

「いや、言わせてくれ。牧本、ありがとう。明日からまたよろしくな」

「お、おう……」

「でも、瑠璃に勉強教えてもらうのはやめとけ。……そうだな、鈴音あたりにでも頼むのがよさそうだと思うが……」


 こうして俺と牧本は、将来に向けて一緒に努力する『仲間』になったのだ。

 これは大きな進歩じゃないのか?

 おかげで勉強もなんとか頑張れそうだ。


「あの……羽ヶ崎璃央さん……ですよね?」


 突然背後から誰かに声をかけられた。

 振り返ってみると、黒髪でロングヘアーの背が低い女子生徒が立っている。


「は、はい、俺が璃央です。俺に何か用ですか?」

「あの……。これを受け取ってください!」


 女子生徒は、いきなり俺に何かを渡してくる。

 よく見てみると、それはどうやら封に入った手紙のようだった。


「えっ? あ、どうも……」

「いきなりすみませんでした! そ、それでは失礼します!」


 女子生徒は手紙を渡したあと、すぐに走ってどこかに行ってしまった。

 というか、これはまさか……。


「お、やったな、璃央。 ラブレターか?」


 案の定、牧本がからかってきた。

 俺はからかってくる牧本を無視して、貰った手紙を確認する。

 見た目は普通の手紙に見えるな……。


 俺は家に帰ってから、手紙の内容を確認しようと思っていた。

 しかし、どうしても好奇心には抗えない。

 なので、その場で手紙を開封することにした。


「お、おい! こんなところで開けてもいいのかよ!?」


 俺は牧本の言葉を聞き流し、中身を確認する。

 手紙を内容を確認した途端、驚きで心臓が高鳴った。

 

『明日の放課後、屋上で待っています』


 という内容の手紙が入っていたのだ。

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