一章 剣士としての日々

未来を思い


「うぅぅぅ……頭痛え……」


 昨日帰宅した後、アマーリエに二人揃って試験に合格した事を報告し、アーロンの帰宅を待ってみんなで結婚祝いも兼ねたパーティをした。

 二人とも心から祝福してくれたが、特にアーロンの喜びようは凄かった。

 子供の様にはしゃぎ、浴びる様に酒を飲み、最後は気絶した様にテーブルに突っ伏して寝た。

 俺も人生で一番酒を飲まされ、二日酔いになってしまった。


「カズトさん、起きてる?」


 がちゃりと扉を開けて、アスナが部屋へと入ってきた。


「起きてるよ……頭痛が酷くて気分は最悪だけど……」

「だと思った。はい、二日酔いによく効く薬とお水を持ってきたよ」

「ありがとう……うぇ⁉︎苦ぁ……」

「あははは。カズトさん、凄い顔してるよ。よく効くんだからそれくらい我慢しないと。良薬口に苦しって言うでしょ?」

「確かにそうだけどさ……」

「でもカズトさんがその状態じゃ、朝の稽古はお休みかな?」

「いや、やるよ……今まで一度も休んだ事ないから……」

「わかった。じゃあ先に行って素振りしてるね。カズトさんは着替えてから来てね」

「了解、すぐに追いかけるよ……」


 小走りで部屋を出て行くアスナを見送り、重だるい身体を起こし、寝巻きを着替え身だしなみを整えてから一階へと下りた。


 ♦︎♢♦︎♢♦︎


「九十八……九十九……百……はぁはぁ……やっぱりきつい……」


 滝のように汗をかきながら、アスナは気合いで素振りを終わらせた。


「素振りは毎日の積み重ね。すぐに慣れる事はないから頑張ろう」

「……後から来た師匠が私より早く千回終わらせたのを見たら、確かに慣れなんだなって思うよ……」

「まあ、一日の長ってやつだね。さ、今日は型稽古もやろうか」

「型稽古?」

「簡単に言うと、不知火流の技の動作の練習だね」

「え⁉︎技を教えてもらえるの⁉︎」

「そうだよ。最初は俺の動きを真似して、徐々に覚えていこう。一か月でアーロンに勝たなきゃいけないからな」

「うん!頑張ってお父さんに勝てるように頑張る!」


 アスナは拳をぐっと握り締めてやる気に燃えている。


「その意気だ。じゃあ、早速始めようか」

「はい!」


 ………………

 …………

 ……


「はぁ……はぁ……はぁ……師匠……これ……本当に……きつい……です……」


 最後の型が終わった刹那、糸が切れた様にアスナはその場にへたり込んだ。


「よく頑張った。不知火家の人間以外で初回で最後までやりきったのは俺の知る限りアスナで二人目だよ」


 本当によく頑張ったアスナの頭を優しく撫でてあげる。

 汗が滴る髪はアスナの努力を証明していた。


「やった……師匠が撫でてくれた……嬉しいなぁ……」

「これならもう少し詰め込めば一か月後にはアーロンを超えているだろう」

「あの……これよりきつくなるの……?」

「少しだけだよ。さて、稽古はここまでにしようか。今日はギルドに行くから汗を流して着替えないと」

「そうだね……お風呂に入らないと……」

「先に入りな。俺はその後に入るから」

「うん……行ってきます……」

「ああ、行ってらっしゃい」


 かなり限界だったようで、アスナはふらふらと歩きながら家へと入って行った。


 さすがに型稽古は早かったか?

 いや、アーロンに勝つ為に万全を期さないと。

 アスナなら大丈夫だ。

 才能も根性もある。

 一か月もあれば高弟ほどではないが、優秀な剣士になるだろう。

 そして行く行くは……。


 俺はよく晴れた空を見上げながら、アスナの将来に思いを馳せた。

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残念な異世界転移〜憧れの異世界に魔法はありませんでした〜 彼岸花 @naomon

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