象られた親子
風和ふわ
象られた親子
「アンタなんか、生まれてこなければよかったのよ」
その言葉が、今でも脳内にこびりついている。子供の脳というものは不思議なものだ。論理や道理などの小難しい知識をインプットされていない状態だというのに、第六感とも言うべき「直感」によって自分の今後に影響するであろう事柄を理解する。そしてしっかりと記憶を焼き付けていくのだ。
──だからこそ子供の頃のトラウマというものは人間を苦しめる。一生、忘れられない。逃げられない。
***
東京都某区、冨和辺児童保護総合センター。築十五年、三階建てのビルに広がるそのオフィスでは電話のコール音が鳴り響き、施設に所属している職員達が慌ただしく出入りを繰り返していた。そんな中、丁度昼休憩中の男──犬飼利光は隣の席の同僚からもらった新聞を広げ、コンビニエンスストアにて購入したホットドックを齧っている。
「ほー、アンドロイドねぇ。こりゃ、未来のネコ型ロボットも夢じゃないっすわ」
そんな独り言を呟いていると、ふと記事に影が差した。「行くっスよ」と一言降ってくる。利光は眉を顰めた。
「おいおい、まだ昼飯も食べ終わってねぇよ」
「俺が運転するっスから、車で食べればいいでしょ。ちょいと厄介な案件が入ったんでね。係長のアンタにもついてきてもらうっスよ」
「分かったよ。ってか田中。お前やっぱその口調変だぞ」
コートを羽織りながら、同僚の田中を揶揄う。彼は利光の旧友でもあるのだが、出会った当初はそんな口調ではなかった。しかし口うるさい鬼嫁に出会ってから、彼は「ボスの顔色を窺う下っ端」のような口調に変貌してしまった。独身の利光からすれば、大変愉快な話ではある。しかし田中が未だに彼女を手放す気配を見せないので、鬼嫁と恐れていても彼がなんだかんだで嫁を愛しているのだということに羨望していたりもした。
「うるせぇっスよ」
田中の窮屈な軽自動車に大の男が二人乗り込む。ここまで来ると流石に利光の脳みそが仕事モードに切り替わった。
「──それで、今回は?」
「容疑者はすっげぇタイムリーな人物っスよ。丁度新聞にも載っていた……」
田中が利光の持っていた新聞を顎で指す。その中で一番目立つ写真がひとつ。先程利光が読んでいた記事に添付されていたものであった。
「鋼山充、か……」
【鋼山充 超性能アンドロイド開発で世界をひっくり返す!!】
利光はそんな大げさな見出しの横で満足気に微笑む男をまじまじと見つめる。白髪交じりのふくよかな男であった。体形に加えて柔らかく下がっている太い眉が、穏やかな雰囲気を演出している。傍から見れば児童保護施設にお世話になるような──子供を虐待しているような人間にはとても見えない。しかし利光の経験上、そういう人間の加虐ほど質が悪い。周囲に気づかれないようにずる賢く子供に牙を剥く親などいくらでもいる。
利光は無意識に拳を握る。いつの間にか額に汗が滲んでいたのでこっそり袖で拭った。
「鋼山には既に亡くなっている奥さんとの間に娘がいたんスよ。鋼山シノちゃん。その子が今回の保護対象っス」
「OK。娘本人からSOSが届いたのか?」
「いや、それが……」
田中はそこでどういうわけか口を濁した。その理由を尋ねても、「どうせ後で分かるから」と青い顔で誤魔化される。何か思い出したくないことでもあるかのように。利光は彼と良好な関係性を保つためにはこれ以上の詮索はしない方がいいと口を閉じた。田中が「後で分かる」と言っているのだからきっとそうなんだろう、と理解しているからだ。
***
「なるほど。私の家から通報があったと」
ニコニコ。そんな胡散臭い効果音が頭の中で浮かんだ。利光は仏頂面でターゲットを睨みつけている。一方田中は内心冷や汗を掻きながら利光の“暴走癖”が今回は発揮されないことを願った。
「しかし困りましたねぇ。私は勿論虐待なんかしていませんよ。一体この家の何者が通報したのか見当もつきませんね」
「それに関しては録音データがあります」
職場から支給された音楽プレイヤーを取り出す田中。この時、利光はようやく田中の「どうせ後で分かるから」の意味を理解した。しかし田中はどういうわけか客間のとある一点に視線を止め、機器の再生ボタンを押すのを躊躇っている。その視線の先には──鋼山充の妻の写真。彼女の名前は鋼山未世子。車の中で田中が見せてくれた鋼山の参考資料に記載があった。
そして、
【──オ、ネガ、イ】
田中が味わうように再生ボタンを押す。最初は途切れ途切れで曖昧な発音だった高音が徐々に聞き取りやすいものになっていった。
【お、ね、お願い、お願いします。シノを、私の、娘を……たす、けてください……虐待、されています……どうか、どうか……あの子を、救って──】
「────、」
沈黙。その場にいた全員が黙り込む。黙るしかなかった。
利光と田中が鋼山を見る。その顔色は真っ青になってブルブルと震えていた。この時、利光は理解する。この声の主が既に亡くなったはずの未世子の声で間違いないのだと。鋼山は頭を抱え、身体を縮小させた。田中が彼の名前を呼べば、我に返ったようにすぐに立ち上がる。
「失礼。不意に妻の声を聞いてしまったので心が、ね……。しかしその音声には妻特有の暖かさがないので、音声合成アプリで作られた偽物でしょう。間違いありません」
「では、一体誰が通報を──!」
──と、利光が声を荒げようとした矢先、客間にノック音が響いた。咄嗟に田中に腕を抓られた利光は吐き出そうとした苛立ちを飲み込む。仕方なく客間のドアを見るとそこには車の中で田中から渡された資料にて写真が添付されていた鋼山シノの姿。眩しいほど艶やかな茶髪が後頭部で束ねられており、彼女のあどけなさを際立たせていた。透明感のある白い肌と母親似のはっきりとした二重も相まって将来有望な少女である。しかし今、利光が彼女に目を光らせているのはそんな彼女の可愛らしさ故ではない。彼女の袖、スカートから晒された肌を見るが、傷一つなかった。いや、これだけではまだ真相は分からない。ひとまず利光は身を屈めてシノに声をかけてみる。
「こんにちは、シノちゃん。僕は犬飼利光」
礼儀正しい子なのだろう。シノは突然話しかけてきた利光に少々戸惑いながらも軽く会釈した。利光はにっこり微笑んで言葉を続ける。
「実はね、僕達は君と君のお父さんが喧嘩しているって話を聞いてね。心配になって見に来たんだ」
子供は分かりやすい。「他人に嘘をつく」ことや「演技をする」ことは非常に技術や経験を必要とする動作だからだ。故に必ず何かしらの隙が見える。
……だが。
「……?? 何を言っているのおじさん。私はお父さんと一度も喧嘩したことないよ? 私は、いつも優しくて頭のいいお父さんがだいだいだーいすきっ!」
シノは何の躊躇もなく満面の笑みでそう言い放った。そして鋼山の腕にそれはそれは幸せそうに絡みつく。利光はズレた眼鏡を掛けなおし、田中と顔を見合わせた。その後、シノの身体チェックと一対一の面接を行ったのだが──何一つとして鋼山がシノに虐待をしている証拠など見当たらなかった。
「こりゃ、ただの悪戯っスね。今や時の人である鋼山をよく思っていない人間なんて沢山いるでしょうし」
「…………」
調査を終え、鋼山宅の玄関を出た田中と利光は重い足取りで軽自動車の下へと向かった。しかしすぐには車を出さず、車の傍で訪問の余韻を噛み締める。特に利光は未だに仏頂面を崩していなかった。田中は煙草を一本咥え、苦笑する。
「オイオイ。悲しい想いをしている子供がいないならそれに越したことはないじゃないッスか」
「それは分かってる。でもなんか引っかかるんだよ。シノちゃんは確かに普通だった。傷一つねぇし、心の底から鋼山を慕っているように見える。だが、俺はあの未世子さんの声が頭にこびりついて離れねぇんだ。なんかこう、あの通報をただの悪戯で終わらせちゃあいけねぇ気がするんだ。上手く説明できねぇけど……」
利光は頭を掻きむしり、ため息を溢した。田中はそんな利光に煙草を一本渡す。利光がそれを受取ろうとした時──、
【よろしいでしょうか】
「!!」
二人の意識が瞬時に背後に集中する。少々ノイズの含まれた無機質な声。二人を追ってきたのか、鋼山宅で見かけた丸みを帯びた白いボディが特徴の女性型ロボットが立っていた。おそらく彼女が鋼山宅にて雑務や家事を担っているのだろう、利光達が鋼山宅を訪問した際にまず迎えてくれたのも彼女であった。
「えっと、何か御用で?」
利光が淡い期待を抱きながらそう尋ねる。しかしその期待は無慈悲に壊された。
【犬飼様から預かっていたコートをお返ししておりませんでした】
そういえば、訪問の際に彼女にコートを預けていたのを忘れていた。利光は彼女からコートを受け取ると、これで心残りはないとばかりに足早に帰っていく白い背中を見守ることしかできなかった……。
***
「ちっ、余計な詮索を……!」
犬飼、田中が去った自宅で鋼山は一人そう呟いた。頭痛を抑えるかのように頭を抱える。するとそんな鋼山に寄り添う影が一つ。
「お父さん、大丈夫……?」
「…………、」
シノの円らな瞳が鋼山を見上げた。鋼山は自らに寄り添うシノの髪を撫で──強引にひっつかんだ!
「私に触るな泥棒が!!」
「っ」
シノの身体が強く地面に叩きつけられる。すると今まで“普通の少女”だったシノの動きが若干ぎこちなくなった。
【エラー発生。ただちに修復プログラムを適用します。少々お待ちください】
シノの口から発せられるその声は明らかにシノのものではない。乱暴にされたことに対する一切の悲しみや恐怖を感じさせない無機質な“音”である。鋼山はそんな彼女に唾を吐きかけた。
──と、そこで、
【40号がどうかなさいましたか、ご主人様】
犬飼のコートを返却しに家を出ていた女性型ロボットが客間に帰ってきた。鋼山は殺意の籠った瞳を今度はそちらに向ける。
「0号。貴様の
【大変申し訳ございません、ご主人様】
0号と呼ばれた彼女は深々と頭を下げた。鋼山はそんな彼女にようやく溜飲が下がったらしい。
「まぁいい。心もないガラクタに当たっても何も愉悦は得られない。満たされない。殴るなら……本物に限る」
ニタリ、と口角を上げる。鋼山はその気味の悪い笑みをそのままに客間を出た。0号と鋼山シノを模したアンドロイド──40号が彼に続く。鋼山が向かったのは自宅の地下である。鋼山宅の地下にはありとあらゆる世界最先端の技術が備わった鋼山の研究室が広がっていた。機械特有の起動音が心地よい。自分以外の呼吸の気配を感じない空間。ここは幼い頃から機械いじりしかしてこなかった彼にとって唯一心落ち着ける場所である。
しかし鋼山にはこの場所以外にもう一つ、心落ち着ける場所があった。
──『充さん、』
ハッとする。すぐに振り向いたが、そこにいたのは追従している0号と40号だけ。鋼山は奥歯を噛み締めた。コツコツ、革靴が地面の叩く音がよく響く廊下を歩きながら鋼山は一人の女性を思い出す……。
鋼山未世子。それは鋼山が今まで生きてきた人生の中で唯一尊敬し、愛した女性である。
未世子は鋼山の両親が天才故に社会から孤立していた鋼山を心配して彼に宛がった女性である。鋼山も最初は未世子の存在を頑なに拒否していたものの、彼女の底なしの優しさにいつの間にか敵対心を解かされてしまっていた。それどころか恋心やら愛情やら、今まで彼が嘲笑していたはずのそれらを理解するほどになっていた。この女に出会う為だけに自分は生まれたのだと錯覚してしまうくらいには鋼山は彼女に溺れてしまっていたのだ。
ところが──未世子は不幸にもシノの出産によって亡くなってしまう。未世子の命とシノの命が天秤にかけられた状況で、彼女は鋼山との未来より自分達の愛の結晶であるシノの誕生を選んだのである。鋼山にとってそんな彼女の選択は人生で一番衝撃的なものだった。彼女は当然、自分を選ぶと思っていたからだ。しかし彼女はシノを選んだ。その事実は鋼山の中の何かを大きく歪ませる。その歪んだ隙間から溢れ出すのは未世子に選ばれたシノに対する嫉妬、羨望と自分から未世子を奪ったシノに対する憤怒、憎悪。
だから、
鋼山の足がピタリと止まる。彼がたどり着いた場所を一般的な呼称で表すのならば「地下牢」だろう。そしてその中で震えているのは40号と瓜二つの少女──正真正銘本物の鋼山シノである。シノは鋼山を見上げ、顔を真っ青にさせた。そして悲鳴を上げながら、泣き出す。たすけて、たすけて。悲痛の彼女の叫びが虚しくその場に響き渡る。鋼山はそんなシノの姿を見て、愉悦を覚えた。憎き相手が不幸な状況に対して愉悦を感じない人間などこの世にはいないのだから。
「シノ。先程な、児童保護施設の連中が訪ねてきたよ。お前が作った0号が私の隙をついて通報しやがったからなぁ」
「っ、0号が……?」
「あぁ。しかもご丁寧に未世子の声で泣きつくという手の込んだ演出付きだ。お前、いつの間に私のデータベースから未世子の音声データを盗んだんだ。……まぁいい、そんな細かいことはどうでもいいのだ。お前が0号を使って児童保護施設に通報をしたことには変わりないのだから」
「待ってお父さん。本当に待って! 私は0号にそんなプログラムをインプットしてない! お母さんの音声データを彼女に入力したのは確かに私だよ! でも、それはただ寂しかったから! お母さんの声のロボットを作ったら、寂しくないかもしれないって思ったから! ただ、お母さんみたいに寄り添ってくれる存在が欲しかったからなの……! だから通報させる意図なんてなかったし、一般的な家事以外の動作プログラムをインプットした覚えもない! お父さんなら彼女のデータベースを見ればそんなこと分かるでしょう!」
シノが必死にそう訴えるが鋼山は鼻で笑った。
「ではなんだ、0号は泣いているお前に寄り添っていくうちに自分がお前の母親なのだと錯覚したといいたいのか? 感情知能のプログラムなんぞこの私ですら製作不可能だというのに?」
鋼山が拳を握り、振り上げる。その矛先は勿論シノに向けられていた。シノは痣だらけの腕で己の身体を抱きしめる。そして咄嗟に独学で製作した0号の正式名称を叫んだ。
「嫌だ! もう嫌だ、痛いのも寂しいのも嫌だぁ! 助けて、助けてよ、『お母さん』──!!」
「ははは!! 残念だったなシノ! この0号はもうお前の声には反応しない! お前をここに閉じ込めてから私がそう改造したからなぁ! お前の『母親』はこの世にいないんだよ馬鹿め!!」
「うぅっ!」
わっと泣き出すシノに迫る拳。それは容赦なく彼女の頬に埋まり、脳を揺らすだろう。だが、そうはならなかった。何故なら──
「──馬鹿野郎。シノちゃんの『母親』は確かにここにいるだろうがっ」
鋼山の拳がシノの皮膚に触れる前に利光の拳が鋼山の身体を吹っ飛ばしたのだから。鋼山は突然反転した視界に思考が追い付かなかった。それはシノも同じで、大きな瞳をさらに丸くさせて利光を見上げている。利光は痣だらけの彼女に一瞬眉を顰めたが、優しい笑みをにっと浮かべた。
「正義のヒーローここに参上、ってな」
「あ、あなたは……」
「俺は児童保護施設の者だよシノちゃん。君のお母さんの通報を受けて、君を助けに来た」
「お母さんの……!?」
すると田中を含む児童施設の職員が鋼山を取り囲む。あっさりと拘束された鋼山は唾液を垂らして、目玉をひん剥いていた。
「何故、何故だぁ!! 何故お前らがここにいる!! 何故この家に侵入できたんだ!!」
「ここに来るために必要なセキュリティコードはどういうわけか犬飼のコートのポケットに入ってたっスよ」
田中が鋼山に手錠を掛けながら答える。そこで鋼山は0号が犬飼のコートを預かっていたことを瞬時に思い出した。
──馬鹿な。
──馬鹿な、馬鹿な馬鹿な馬鹿なぁ!! 0号のデータベースは確かに私が入力し直したたはず! セキュリティコードのデータを職員に渡すという高度な動作をプログラムもなしに行える機械があってたまるか!
鋼山は今の状況を理解するべく頭を必死に動かすが、どうしても理解することができなかった。その鬱憤をぶつけるように傍にいた0号を睨みつける。
「0号、貴様ぁ!! なぜだ、何故だぁ!! 何故、貴様はぁ……!」
「
「!!」
その瞬間、鋼山の動きが止まった。その声は確かに鋼山が長年求めていたものだった。鋼山の空っぽだった心にすぅっと入ってくる透き通った小鳥のような声。一瞬で鋼山の瞳に涙が溢れる。
「──未世子……?」
「ごめんなさいね。貴方を独りにしてしまって」
「っ、」
0号から発せられているのは、ただのデータから再現された音声だ。それは分かっている、分かってはいるが──鋼山にはどういうわけか今の0号の声に確かな“暖かさ”を感じた。途端に彼は無気力になって、ただただ泣き崩れる。
今までシノへの憎悪や嫉妬によって誤魔化してきた「大切な人を失くした悲しみ」を、ようやく彼は受け入れることができたのである。
***
「お父さん……」
一方。拘束され、大人しく大人達に連行される小さな父親の背中にシノは唇を噛み締めていた。暴力から解放された安心感と今後への不安が一気に彼女の中で暴発し、涙という形で消費されていく。そんな彼女に寄り添うのは──
【泣かないで】
──丸みを帯びた、白いボディの女性型ロボット。
その身体はわずかに女性らしさを感じさせるが、勿論彼女は人間ではない。しかしシノにとって彼女は間違いなく『母親』だった。
次の瞬間──鋼山にデータベースを弄られた彼女が泣いているシノの傍らに寄り添うようにプログラムされているとは到底思えないが──確かに彼女はシノを強く抱きしめ、その頭を撫でたのだ。
【大丈夫、大丈夫】
「……うん、ありがとう、お母さん。守ってくれてありがとう。大好きだよ……」
シノは微かに微笑み、0号に腕を伸ばす。互いを抱きしめ合うあの二人を「家族」と表現せずしてなんとするのか。ぼんやりと利光は二人を見守りながらそう思った。
「つまり今回はあのロボットに“心”が芽生えたことで解決に繋がったってことっスかね? よく分かんねえっスけど……」
「さぁな。俺も理解はしてねぇよ。ただ──」
利光は地下室の天井を見つめる。その時彼の脳裏を過ったのは──
「少なくとも彼女は俺の母親よりは母親向きだ」
汗で冷えた手をズボンのポケットに突っ込む。そんな利光の背中を田中が軽く叩いた。
「さぁ、シノちゃん達を連れて行くっスよ。あの子らの今後は俺達が見守ってやらねぇと」
利光は頷く。鋼山の頬を殴った際の痛みを確かに感じながら、彼は強く強く拳を握りしめ、シノの方へと歩きだしたのである──。
象られた親子 風和ふわ @2020fuwa
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