第12話
「おはようございます~」
穏やかな声で現れたのは佐倉先生だった。ラッキーだ。
榛名は、佐倉先生に話すべく、席を立った。
「佐倉先生、少しお話したいことがあるんですけど」
「おお、西城さん。ちょうどね、私も西城さんに話したいことがあったんですよ、すこし私の部屋で話しませんか?」
「…はいっ!」
「私の話は、そんなに長くないので、先に良いですか?」
「あ、はい。もちろん。」
「実はね、大学では、全学科・研究科から優秀な学生を3人を選出して、顕彰という形で表彰しようという、総長顕彰、というのがあるんですよ。それに、西城さんを推薦したいな、と思っていまして。」
「…はあ。」
予想外の話だった。
「ほら、西城さんの論文、結構いい雑誌に載せれましたし。研究にも熱心で、非常に優秀なのは間違いありません。」
論文を載せてもらえたのは、正直、佐倉先生の力も大きいように思う。確かに他の人より研究には熱心かもしれないけれど、それは、就職したり、より現実的なことを考える人が多い中での話だし、助教先生やほかの先輩と比べて、特別自分が優秀だとは思えない。返事に窮していると、さらに重ねてきた。
「それに、進学希望だったでしょう?少しでも箔はついていて損はないはずです。」
「…まあ、たしかに、そうですね。」
佐倉先生はこういうところがある。物腰柔らかそうで、実は自分の意見は、しっかり通してくる。まあ、そうでなければ、この世界、生き残れないのだろうが。
「では、この件は、そういうことで進めますね。」
「はい。」
「では、西城さんの話とは、なんでしたか?」
いつの間にか、完全に、佐倉先生のペースだった。すこし、釈然としない思いも抱きながら、それでも、話してみなければ、始まらない、と思い、榛名は話し始めた。
「昨日のことなのですが、、、」
「なるほど...。もし、その子の言っている話が本当だとすれば、10年前の河口村の状況とほぼ同じなわけだですね。」
「はい。先生は、どう思われますか。」
「…どうって、そうですねえ。西城さんが話す内容を聞く限りでは、西城さんの思っていることと同じ結論にしかなりません。同じことが起きているのだと思います。ですが、今回も、証拠がない。西城さんもそう思っているんですよね?」
「…そうなんです。」
「まずは場所を特定するのがいいと思います。なにか証拠になるものや、手掛かりがつかめるかもしれません。そして、今は昔と違い、場所がわかれば、詳細な気象状況もシミュレーションすることができますから。それが唯一、10年前と違う点です。」
「はい、わかりました。やってみます。」
佐倉先生は学生の意思を大事にする。あれをしなさい、これをしなさい、とは言わない。今回のことも、今取り組んでるテーマとは少し違う。それでも、やってみたら、というスタンスだし、榛名は、それが心地よかった。
でも、別の人に言わせれば、そうやって、使えそうな学生を使って研究の手を広げてるんだ、とか、教育にあまり興味がない、だとか、まあひどいことも言われてはいる。
それを否定することもできない。もしかしたら、榛名も佐倉先生にとっては使える駒の一つかもしれない。それでも、むしろ、自分が佐倉先生を使ってやればいい。そんな風にも思う。
席に戻ると、さっきまで編集中だったファイルを閉じ、PCで猛然と地図データを漁った。
そんな榛名を、隣の小杉は不思議そうに眺めていた。
竜の国 三浦花 @kaniyomu
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