ラボ

第11話

先生に話す、といっても、基本的に忙しいあの人に、じっくり話を聞いてもらう時間をとってもらうのはそれなりに大変だ。

日差しを避けながら、ラボのある建物まで向かう榛名の頭の中は、トワのことで一杯だった。

(...普段の研究は助教先生や、ポスドク先輩に助言をもらえばいいのだけど、今回のことは10年前のことも関わっている。先生に話したい。)


とりあえず、ラボに来たが、先生は不在だった。

「はよー」

昼間にも関わらず、そんな挨拶をしたのは、榛名の唯一の同期、小杉だ。

「おはよ」

榛名も挨拶を返すと、となりのデスクに荷物を下ろし、パソコンの電源を入れる。

先日のフィールドワークで設置したカメラの映像と気象条件を紐づける作業の途中だ。

「なー、西城さんさー、就活とかしてんの?」

小杉もなにやら作業しながら、榛名にそう聞いてきた。

「…いや、してない」

「まじか、進学?」

「…今のところは、そのつもり。」

なにせマイナー分野だ。そう甘くはない。それをわかっているから、榛名の答えも歯切れが悪くなる。

「いざとなったら教職かなあ」

「でも、試験の勉強はしてねえんだろ?」

「まあ、そうね。」

結局は、研究を続けたいのだ。

「小杉君は?就活、してんの?」

「まあ、ぼちぼちな。けど、結構きびしくてさあ。じつは、まだ内定でてないんだよな」

「そっか。。。大変だね。」

「ああ」

そこで二人の会話は途絶えてしまった。


結局、自分の人生を決めるのはは自分自身でしかない。

他人がどうしようと、何を言おうと、変わることはない。

研究は学生まで、と割り切ってその先はそこそこの収入と、福利厚生のしっかりとした会社でそれなりに楽しく生きるという道も、榛名にとって、なくはない。というか、そういう家庭で育ったのだ。それが当たり前と思った時もあった。


榛名の席に、窓から、柔らかな光が差し込んでくる。

この世の中は、本当に科学ですべて説明されてしまうのだろうか。今この瞬間、ふいに差し込んでくるこの日差しは、ただ、太陽の核融合のエネルギーが電磁波となって届いているだけなのか。

世の中の、流れに逆らう思想なのはわかっている。それでも、そう思わずにはいられない。

あの日の、あの雷は、科学では説明できないではないか。

証拠がないから、見なかったことにされている、そんなことが実は山ほどあるのではないか。


その情熱が、榛名を研究という、茨の道へいざなう。



「おはようございます~」

その声が、榛名を思考の海から掬いだした。

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