第10話

「おはよ...」

夏休みで授業のない円佳は、蒸し暑さに堪えかねて目を覚ました。

「おはよう~」

「おはようございます!」

どうやら、トワも先に起きていたようだ。

「今ね、トワちゃんにこれまでの生活ののことを聞いていたところなの。」

「ふーん、たとえば?」

「まず、朝ご飯は白米と味噌汁なこと。晴れの日は山道整備、雨の日は雨漏りのひどい家で留守番をしてたこと。山道整備の仕事は、大変だけど、おじさんたちが可愛がってくれたこと、とか?」

他愛もない話をしていたようだ。

「さ、円佳もさっさと食べて。みんな食べ終わったら、これからのこと、すこし話そう。」

互いを名前で読んでても、姉妹はいざとなれば姉が主導する。

「はーい」

甘えてはいけないな、とおもうけど、そんな関係が、円佳は心地よかった。



「さて」

朝食を食べ終わった食卓を三人で囲んでいる。榛名は今日は、午前中は研究室には行かないことにしたらしい。

「まずはつまんない話から。トワちゃんにうちにいてもらう時にね、万一お母さんから警察に捜索願っていうのが出されていると、私たちが黙ってトワちゃんを泊めていることが、罪に問われる可能性がある。だから、警察には一度事情を話しに行かなくちゃいけないの。いいかな?」

「ケイサツっていうのは、いい人?」

「うん。私たちの味方。」

(一般的にはね)と榛名の言葉の後に円佳は心の中で付け加える。まあ、今そんなことをいっても仕方ないからね。

「わかった。いいよ。」

「じゃあ、きまり。今日の午後にでも一緒にいこう。」

これには円佳も、すこし安心した。そして、榛名は居住まいを正した。


「そしたら、いくつか聞きたいことがあるの。答えられる範囲でいいから、お母さんがいなくなった日のこと、詳しく教えてくれる?」

榛名の好奇心に満ちた目が輝いていた。

「うん」

そう言って、トワは語り始めた。







あの日は朝から快晴だった。

お母さんも、今日は一日晴れだと言った。あ、お母さんはね、いつも天気を当てるの。大体とかじゃない。いつも、それも途中で雨になるとか、途中から晴れる、とかもね。

そうそう、だから、晴れるから、その日は仕事に出掛けた。

なんの変哲もない日だったわ。

だけど、夕方になって、突然雲が現れたの。急に雨が降ってきて、それで、湖畔に雷が落ちたの。その日から、お母さんは帰ってこない。


...お母さんはどんな人か?

そうね、わたしは記憶にあるかぎりはずっとお母さんと二人暮らしよ。毎日朝働きに出て夜帰ってくるのだけど、疲れた顔ひとつしなくて。すごく優しかった。

お母さんの仕事は、しらないなあ。あんまりそういう話はしたことない。仕事までの道にいる小鳥の雛の成長とか、リスにあったとか、そういう話はしてた。

そうね、だから街のほうではないわね。湖のほうかしら。





「おそらく、仕事先か仕事場までの道で行方を眩ました。だけど、その仕事場がどこかわからないから、調べようがないと。」

榛名はそうまとめた。うーん、と唸る。

「でも、天気を当てるお母さんが、外して、いなくなったって言うのとさ、10年前のことと合わせると、その雷が怪しいんじゃない?」

円佳は思わず口走る。トワはキョトンとしている。

「それは、私たちの常識。世間一般には繋がらないの。」

ため息がちに言う。

「やっぱり、先生に話してみたほうがよさそうね。」





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