第36話 理想と現実

「貴様らぁ!」


 アイテムボックスに身体を乗っ取られたジョン君との戦闘。紛らわしいのでジョン君もどきと呼ぼうかしら。


 当初の計画が狂い苦戦を覚悟していたのだけど、ナイトが上手く立ち回ってくれて優位に展開していた。これは嬉しい誤算と言ってもよい。本当にナイトはよく出来た子(?)だと思う。


(ナイトは戦闘経験に関してはヨーダが面倒をみていた魔物達の中でも群を抜いていたからな。こういう事を見越してリノに任せたのだろう。いや、リノを。か)


 素直にヨーダさんに感謝しよう。相手は不利を察して逃走をはかったりしたけどそこは私も考えていたからね。


「そうはいかないんだよ!」

「ぐわあっ!?」


 空中でハーピーに攻撃されて落下してくるジョン君もどき。彼女の仕事は逃走の阻止よ!


 自在に空中を移動するハーピーと跳躍したら惰性でしか動けないあいつとじゃ結果は分かっていたからね。


「いける! これならジョン君を助けられる!」


 だけど変化は突然訪れた。


「が!? ぐああっ?」


 相手が頭をおさえて苦しんだのだ。でもこちらは特に何もしていない。


 ! ひょっとしてジョン君の精神が身体を取り戻そうとあいつと戦ってる?


 今がチャンスと考えてしまった。これが経験の浅い私の甘さが露呈した瞬間。


「分体が消滅した……? 何が起きた!?」

「今よナイト、あいつを押さえつけて!」

「お任せを!」


 この指示でナイトの動きが直線的になる。


「調子に……乗るなぁ!」

 

 ジョン君の左腕が、何? 大木? メキメキと音を出したかと思うとあっという間に太い樹木の様になりナイトを押し潰した。


「ナ、ナイト!」


 潰れてはいない。だが力で押さえつけられて動きがとれないようだ。


「て、てめぇ!」

「仕方ねぇ。おら!」


 空からハーピーが攻撃しようとするが右手からの雷撃で牽制される。私とハーピーじゃ雷撃には耐えられないから近付けない! 


ナイトは拘束されてるし、はこ丸に戦闘なんて論外。私のポケットに潜んでるラットマウスでどうにかできるとも……


「ぐ。そうだ一切動くなよ。近付けばこいつを押し潰すからな」


 ……? 私は変な違和感を覚えた。


(優位なのは向こう。ならなんで相性の悪いナイトを盾に私達を脅すの? さっさと潰して雷撃で私達倒すのが一番効率いいような気がするんだけど。……もちろんナイト潰されるのは嫌だからね!)

(リノ。君は妙な時に冷静だと感じていた事は何度かあったが……)


 あ、呆れられた?


(違う。感心したのだ。もしかしたら優位なのはこちらかもしれない)

(どういう事?)

(奴はナイトを『潰せない』)

(え、なんで? 敵でしょ?)


 まさかこちらの数に怯えてる訳じゃないわよね?


(違う。ジョンの肉体が未成熟だからだ。その為に本来の力を発揮しきれてないとみた)

(確かに……ダメージ与えてないのに苦しそうね。息もなんか荒いし。雷撃ももっと使えばいいのに)


 という事は時間を稼げばなんとかなるかもしれない?


(ジョンの精神がどうなるかが分からない部分ではあるが)


 そうだ。すぐさま行動に移さないと。


「ね、ねぇ。ちょっと話があるんだけど。いえ、話というか提案?」


 その内容なんて考えてないんだけどね。話に乗ってきてくれさえすれば


「あぁ? 話す事なんか何もねぇ」


 即却下されて駄目でした! どうしよう! 私は目線を外して考える。


「がはっ!?」


 がは? 何? どうしたの……え?


 枝かと思った。彼の胴体から枝が生えたのかと。だけどよく見ればそれは槍。ジョン君もどきを背中から貫いて地面へと縫い付けたような景色が私の目に写った。


「ごおぉ、こ、この槍は……?」


 私も多分同じ疑問を抱いたと思う。ショッキングな光景で思考が麻痺していなければ。


「ロンギヌス」


 ジョン君もどきの側には一人の少年が立っていた。いつの間に?


「今度は子供の身体か」

「き、貴様は……そうか、貴様が我が分体を」

「そしてお前も、だがな。うまく逃げのびたと思っていたか?」

「く、くそぉ! こうなれば貴様も道連れだ!」

(いけない。あの現れた男を止めるんだ!)


 え? はこ丸? 


(あの男は)

「カラドボルグ」


 え? 少年の手には淡い光を放つ剣が握られていて。


 そしてその少年は……なんの躊躇いも見せずにその剣をジョン君の身体へ突き刺した。

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