第35話 誤算
「どうしてこんな空き地へ……」
男の子に関して調べて分かった事があった。と言ってもこれは人に聞いた事ではない。
いや、まぁ聞き込みは聞き込みなんだけど、この情報を入手したのはハーピーと私に助けを求めてきたラットマウスなのよね。相手はラットマウスと同じ小動物や鳥達。
人から情報が得られないならもしかしてと試してもらった方法だったんだけど、思いの外うまくいった感じ。
ただ……得られた情報は良いとは言えないものばかりだった。
男の子には母親がいて親子で小動物や小鳥にエサをあげたりしていたみたいなんだけど、ある日を境に母親の姿を全く見かけなくなったらしい。
塞ぎ混む男の子を見かねてラットマウスが話しかけて友達になった。男の子の名前はジョン。
それから今日までどう生活していたのかはよくわからない。指輪を拾ったという翌日から男の子の行動が変化してしまったためだ。もう、ラットマウスや小鳥達に関心を持つこともなくなってしまったらしい。
「ママ、どこへ行ってしまったの?」
ジョン君が空を見上げて語りかけている。
「僕をおいて行ってしまったの?」
私は物陰からその様子をうかがう。普通に母親を恋しがる男の子だ。おかしな点は見られない。ジョン君の独り言は続く。
「でもね。違うっていうんだ。僕をおいて行った訳じゃないって」
誰がそんな事を言ってあげたんだろう。慰めてくれた人がいたのね。
「ぼ、僕が僕に言うんだよ。ママは……ママは僕が食べたんだって!」
!! いけない。これはすでに様子がおかしいわ!
私はハーピーを無言で呼び出す。ハーピーに頷くと彼女も頷き、上空へと飛び立つ。頼むわよ。
「ママは美味しかった? 僕がママを食べたりするはずないじゃない。ママを……ママを返して!」
ジョン君は糸の切れた人形の様にガクンと脱力したように見えた。
(リノ! これは最悪の状況だ!)
分かってるわよ! もう猶予がない事くらい! 私は立ち上がりジョン君に向かって走り出す。本当はこっそり近付いてナイトに捕まえてもらう予定だったけど。
「げは。げはは。旨かったに決まってるだろぉ?」
ジョン君はゆっくりと立ち上がった。けど纏う雰囲気は幼い男の子のそれではない。……ジョン君。
向こうが私に気がついた。
「んー? なんだお前は? 食われたいのか? げはは。なら叶えてやろう」
そうはいくもんですか!
「ナイトお願い!」
私の側にナイトが出現する。
「! 思い出した。この前の女か!」
ナイトを見て相手は表情を変えた。
「せっかく復活できそうだって時に!」
「何が復活なのか分からないけどジョン君は返してもらうから!」
「なら急ぎな。ガキならすでに消えかかってるからよぉ! げは、げははは!」
この魔物下衆すぎる。遠慮はいらなさそうね。……嘘です。そんな余裕はありません。
相手を最終的に捕まえてはこ丸に消滅させる。ただし予想に反して戦闘に突入してしまい、『逃がさずに』という条件も加わってしまった。
私は戦闘なんてやった事ないけど、命を失うかも知れない恐怖に身をすくませずに済んだのは、仲間達の存在とジョン君が体験しているような理不尽に対する怒りがあったからなのだと思う。
そう、私はジョン君を助けたいんだ。
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