第13話 シスリ=ピーオ
「な、なんでしょうか?」
「見ない顔ね。ひょっとして冒険者ギルドは初めてかしら?」
私はやはりぎこちない動きで頷く仕草をする。麗しの君は優雅に立ち上がったかと思うと、優雅な動きで私のテーブルの空いているイスに移動してきた。手には何か飲み物を持っている。
「運がいいわよ、貴女。今丁度仕事を終えて手が空いた優秀な冒険者がいるから」
麗しの君はニコニコと私を見ている。優秀な冒険者......私は目の前の女性から受付で騒いでいる冒険者の男性へと視線を移す。すると麗しの君は私の視線に気付いたのか、やはり優雅な仕草で笑い出した。
「ああ。彼も確かに優秀かも知れないけど違う違う。ふふふ、貴女って面白いわね」
私が半信半疑な顔をしていたからだろうか。麗しの君は笑いながら持っていた飲み物をぐいっと煽った。
え? 煽った? あ、お酒の匂いだわこれ。……ちょっとまさか、この人って酔ってるの!? 私の麗しの君に対するイメージが音をたてて崩れていく。
「彼は素行に問題が多いのよ、特に女性関係とかね。週末は冒険よりも歓楽街で飲み歩いてる方が多いわ。それで問題を起こす事もしばしば。で、ついたあだ名が週末のハナキン」
平日の真っ昼間にギルド内で飲酒している人が他人の素行や飲酒による問題点を指摘している。解せない。
「その点、私達なら安心確実よ? ランクもBだし。貴女可愛いから特別料金で請け負ってもいいわね」
「達?」
「そうあそこにいる......」
(ねぇはこ丸、この人って......)
(ああ、間違いなく酔っている)
(いや、それはわかるから。そうじゃなくて......)
(ああ。リノをギルドに依頼にきた人間だと思っているようだな)
はこ丸め、やっぱり気付いてたんじゃないの。人が悪い。......いや、この場合箱が悪い?
「いえ、私は」
依頼にきたのではありません。
と言い出す前に受付で用事を終わらせた男性がこちらに来た。
「アルツ、終わったの?」
「ああ。......こちらは?」
「ギルドに初めて来たお嬢さん」
二人はこちらを見て女性の方(元・麗しの君)が話を続ける。
「改めまして......私は『シスリ=ピーオ』で
こっちが相棒の『アルツ=ディッツ』共にBランクの冒険者よ。さぁ、お嬢さんの困りごとを聞かせてもらえる?」
(なんだかシスリさんの中では私が依頼者だと決定して話が出来あがっているみたいね。 あ、出来あがっているのはシスリさんの方か)
(誰が上手い事を言えと)
はこ丸が突っ込んできた。アルツさんの方はまだ状況が飲み込めていないみたいだけど無理もないかな。
「......実は冒険者の登録に来たんですけど、今丁度空いたあちらの受付に行けばいいんでしょうか?」
え? と言って固まった麗しの君、シスリさんの表情を私は忘れない。まぁアルツさんの方も驚いていたようにも見えたけどね。私は先程アルツさんが居た受付前に移動した。私の姿を確認した女性が声をかけてくれる。
「はい、王都の冒険者ギルドへようこそぉ。......ご依頼、受注、登録とありますがご依頼という形で宜しいですかー?」
聞こえていた間延びした声が私を迎えて......あれ? 私はまだ用件を言ってないのに受付の人にも依頼人扱いされた。後ろからはシスリさん達の
「ほらぁ、やっぱり冒険者を志望をするような子にはとても見えないのよ」
「......理由は人それぞれだろう」
というやりとりが聞こえる。
「可愛いのにもったいないー」
あ、この部分は悪い気はしないわね。なにがもったいないのかは分からないけど。しかし今相手にすべきはシスリさんではなくこの受付の女性。私はニッコリと微笑み、
「はじめまして、リノと言います。冒険者登録をしたいのですがよろしいでしょうか?」
可愛いらしく装いつつもはっきりと言い放った。
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