第5話 その名はナイト
「え? 試験......ですか?」
私ははこ丸さんが言うように、単純だったのかもしれないと考える。
「そうだよ。なに、本当に簡単なものさ」
試験があるなんて聞いてないよ! ......そりゃ聞くって事をしなかったのは私だけど。正面にはニコニコしているヨーダさんが座っている。でも額にあったサークレットはない。現在は私の額についている。......だってこのサークレットが『はこ丸さん』であり『アイテムボックス』なんだもの。サイズはいかようにもなるらしいので契約さえ成立すれば問題はないらしい。
「はこ丸はそこを説明せずに契約を持ちかけたのかい。はぁ......仕方ないねぇ。今のハコワンの状態はいわば『仮契約』みたいなものなんだよ。この場合は......はこ丸を使いこなせるかどうかの試験を受けてもらうって形になるといえばいいのかね」
はこ丸さんを使いこなす......アイテムボックスの使い方を教えてくれるのかな? ......でもそれは試験とは言わないよね。まさかこれも適性が必要とか!? やっぱり私はアイテムボックスを持てないの?
「適性がなくてアイテムボックスと契約できなかった私なので試験という言葉には抵抗を感じます。......身構えてしまうというか」
正確にはアイテムボックスの嗜好の問題だっただけなんだけど、私が自信なさそうにそう言うとヨーダさんは笑いながら右手で自分の額を指差し、
「それはもうそこにはこ丸が居るんだから問題ないんだよ。適性を見るのは仕事、職業への方さ」
「職業......ですか?」
「そう。はこ丸と協力して仕事を達成できるかどうか。だね」
そう言えば今の私は実質無職だ。
「まぁ、説明より実際にやってもらった方が早いだろう。なに、ハコワンなら大丈夫だよ」
なぜか当人よりもヨーダさんの方が自信ありげに言い切っている。
「まずははこ丸の中身を確認する事からだね。はこ丸の中身をみたいと念じてごらん?」
「え、え? えーと、はこ丸さん、中身を見せて?」
「ははは、口に出さなくてもかまわないよ。むしろ人前でそれをやったら恥ずかしいから気をつけた方がいい」
確かにそうかも......アイテムボックスと会話してる人なんて今まで見たことないし。意識してないとやってしまいそうだわ。
(これではこ丸さんに考えが伝わるのかしら?)
(問題ない。届いている。ちなみにさんはつけなくてかまわない)
「きゃあ!」
「わあ! ......な、なんだい急に大きな声を出して。なにか変なものでも入っていたかい?」
ヨーダさんが驚いている。
「あ、頭の中にはこ丸さんの声が」
「ああ。最初は確かに驚くかもしれないね。はこ丸とはそれで会話ができるんだよ。私は『念話』と言っているけどね。それで中身は見れたかい?」
「いえ、まだ......あ!」
その時私の頭の中に唐突にアイテムボックス、つまりはこ丸の中身がイメージされた。
「これは......路地裏で会った全身鎧の人?」
「お、どうやら見れた様だね。それがその『ナイト』さ」
ヨーダさんが教えてくれる。本当にアイテムボックスの中に人が入ってるのね......
「では次はそのナイトをここに呼び出すんだ。本当は念じるだけでも呼び出しはできるんだけど......人前では声に出した方が都合がいいと覚えておいておくれ。まぁ、これも時と場合によるから判断はハコワンがしてくれるといい」
「は、はい」
「じゃあ呼んでみてくれるかい」
「で、出てきてナイトさん!」
私がそう言った瞬間、頭の中のイメージからナイトさんが消え、私のすぐ側に路地裏で会った巨大な全身鎧の人が立っていた。多分二メートルは余裕で越えてると思う。
呼び出されたナイトさんは無言で私とヨーダさんを見下ろしていた。フルフェイスの兜をつけているので表情は分からないけど。
「彼がナイト。これからハコワンの剣となり時には盾にもなってくれる頼もしい仲間さ」
私の剣と盾? ヨーダさんに質問しようと抱いた疑問には頭の中ではこ丸さんが答えてくれる。
(これから君は時に厄介事に巻き込まれたり、君自身を上回る純粋な腕力が必要になる場面と遭遇するかもしれない。それらに備えての助っ人だと考えればいい)
「必要な時に呼び出し、必要じゃないときははこ丸の中に戻しておくのが基本スタンスとなるからね」
「そんな!」
私はヨーダさんの説明に思わず反応してしまう。
「どうかしたかい?」
「だって人をそんな道具みたいに使うなんて可哀想じゃないですか! はこ丸の中では時間が経過しないなら空いてる時間に好きな事もできないし、美味しいご飯だって食べたいじゃないですか!」
私は捲し立てたのだがヨーダさんはきょとんとした後、さも面白そうに笑いだした。なんでよ!?
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