ノックの音が

ジュン

第1話

ノックの音がした。

達夫は「誰だ、こんな遅くに」と思った。

達夫がいる部屋はホテルの一室だ。達夫は仕事で、ホテルに泊まっている。

達夫は思った。「仕事が長引いたからな。僕は疲れているんだ」

また、ドアを叩く音がする。

「誰だ」

達夫は仕方なくドアを開けた。すると、知らない女が立っていた。

「誰ですか、あなたは」

女は言った。

「となりの部屋に泊まっていますの」

達夫はきいた。

「僕になにか用ですか」

「実は、主人と二人で部屋を借りたのですが、喧嘩してしまいまして」

「それで」

「主人が部屋を開けてくれませんの」

達夫は言った。

「そういうことは、ホテルのスタッフに言ったらどうですか」

女は言った。

「もちろんそうしましたわ。でも」

女は続けて言った。

「ホテルの人は、鍵を開けて中に入っていきました。しばらくして、部屋から出てきて」

達夫はきいた。

「それでどうなったんです」

ホテルの人が言うんです。

「だんな様は怒っていて『妻は入れない』っておっしゃっています」と。

達夫は思った。

「だったら、とりあえず他の空いてる部屋に泊まったらどうなんです」

女は言った。

「もちろんそう考えましたわ。でも」

女は続けて言った。

ホテルの人が言うんです。

「本日は満室で空いてる部屋はないんです」

達夫はきいた。

「だから、僕のところに」

「そうなの」

達夫は言った。

「困ったなあ」

達夫は続けて言った。

「とりあえず中に入って」

「ありがとう」

達夫はきいた。

「なぜ、だんな様と喧嘩を」

「夫は浮気しているようですの。それを問いつめましたの」

「それでだんな様が怒ってしまったのですか」

「そうなのよ」

「そういうことか」

しばらくしてまた、ドアを叩く音がした。

達夫はドアを開けた。

「誰ですか」

「警察だ。達夫さん、あなたのところに女が来なかったか」

「はい。来てますが」

「その女を夫を殺した容疑で逮捕する」

女は逮捕された。

女は言った。

「わたし殺してなんかいませんわ」

達夫は思った。

僕の妻と浮気した男がとなりの部屋に泊まっていることがわかったからな。僕が殺したのさ。まさか、部屋に入ったホテルマンが僕だって気づかなかったな。部屋に入るのは簡単だ。僕はこのホテルの社長だからな。マスクをしてるから、顔も割れない。

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ノックの音が ジュン @mizukubo

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