第2話 幼馴染とずっと一緒に居られるか考えてみた

「じゃあ、ついでに聞いちゃうけど。就職しても側に居てくれる?」


 この質問は、少しだけ、勇気が必要だった。

 だって、大学までなら、一緒に居ることを最優先に出来るかもしれない。

 でも、仕事がそこまで甘くないことは、高校生の私にもわかる。


「うーん。ちょっと考えさせてもらえるか?」

「うん。待ってる」


 和樹かずきの美点は、私の質問に、真剣に向き合ってくれることだなあ。

 なんて思う。


「うーん。将来イメージの問題になるのかもな」

「将来イメージって、どういう職業につくかとか。会社は、とか?」

「そうそう。あと、お互い、いつまでも母親のスネかじるわけにもいかんだろ」


 確かに、和樹の言っていることは的を射ていた。


「だとすると、別に賃貸マンションとか借りてすむよね。たぶん」

「そうそう。で、地元の大学に行って。地元の企業に就職なら、気兼ねなく、お互いの家を行き来出来るんじゃないか?」


 確かに、それは普通にあり得る未来かもしれない。

 平日の朝に出社して、夜帰って来て。お互い予定が合えば、一緒にご飯も食べて。

 でも、じゃあ、たとえば、休日は?別に二人で遊ぶのはいいとして。

 夜は、どう過ごすんだろうか。と考えて、何か大事な事を飛ばしている事に気がついた。

 そして、その事を想像した途端、急に恥ずかしさが込み上げてきた。

 え?ちょっと待って欲しい。確かに、確かに、そうなんだけど。


「どうしたんだ、色々挙動不審になってるぞ」


 心配そうな顔でぐいと身体を近づけられる。


「ちょ、ちょっと待って!急にわけわからない気持ちになって来て。整理、させて」

「あ、ああ」

「その。お互いに就職したとして。近くにマンション借りたと、して」

「うん」

「休日、の、夜、とか、どう、過ごす、の、かな、って」


 今は、私たちも高校生。

 それに、なんていうか、お互い昔から世話になってきたのだし。

 普通に別の部屋で寝ることに抵抗はなかった。


 ただ、お互い一緒に居たい、と思って。そのためだけに近くに暮らして。

 それで、時々一緒に遊べれば満足なのだろうか。少し、違う気がする。


「あ、あー。それは、俺も、考えてなかった。馬鹿だな、俺」


 額に手を抱えて、なんてことだ、と言う和樹。

 でも、それは私も同じだ。


「なあ、もうついでに聞いてしまうけどさ。たとえば、その、お互い就職してさ。お互いの家を行き来するようになって。キスとかしたいとか言い出したら、どう思う?」


 顔を真っ赤にして、和樹が聞いてきたことは、まさに私が考えていたこと。

 少し、心に問うてみよう。目を閉じて。その様子をイメージする。

 全然、嫌じゃない。むしろ、嬉しいかも。


「えーと、全然、嫌じゃない。ていうか、嬉しいかも。正直」


 つまり、キスをして嬉しいということは。

 あと、ついでにいうなら、その先もだけど。

 別にオッケーだと思ってしまっているのはどういうことだろう?


「お、俺も。そういうふうに出来たら、正直、嬉しい」


 照れくさそうに返事を返してくれるのが、とても嬉しい。


「こ、こういうのが、恋ってやつ、なのかな」


 こうやって、言葉で気持ちを整理して。さらに将来像までイメージして。

 ようやく、あれ?実は、私って、和樹の事、かなり好き?と思ってしまっている。


「た、たぶん。いや、きっと、そうなんだろ」

「はー。やっぱり、そうだよね。なんか、ダメダメだね。私たち」


 でも、気持ちは整理出来た。きっと、私は和樹の事が好きで。

 和樹も私の事を好きで居てくれる。


「こうして、お互いずっと一緒に居たいから、恋人になろうって言うのかな」

「なんだろうな。そういう約束をしておけば、安心とは言えるかもしれん」

 

 約束、か。確かに、大学は一緒に行くと約束しあって。

 就職しても近くに居ると約束しあって。それが、友達という間柄だろうか?

 さすがに、違う。


「その。たぶん、答えでちゃった気がするんだけど」

「ああ、俺も同じく」


 お互い目を見合わせて、苦笑してしまう。

 私たち、二人揃って、とんでもなく不器用なんだと。


「付き合っちゃおうか」

「そだな。普通のお付き合いより、だいぶ意味が重いけどな」

「下手したら、結婚一歩手前だよね」


 でも、そんな風にして、気持ちが通じ合ったことが嬉しくて。

 これから、私たちの関係は少し変わるんだろう。


 そんな事を少し考えた春の夜。

 でも、無意識に避けてきた、スキンシップとか色々。

 そんな事を考えると、この先、大丈夫かな、と。

 そんなことも少し心配になってしまうのだった。

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幼馴染に「好きって何なのかな?」って聞かれたんだけど 久野真一 @kuno1234

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