幼馴染に「好きって何なのかな?」って聞かれたんだけど
久野真一
第1話 幼馴染に「好きって何なのかな?」と聞かれて考えてみた
「「「ご馳走様でした」」」」
「いや、美味しかった。ありがとな、
「いつものカレーとそんなに変わらないと思うけど?」
「美味しかったんだから、何度言ってもいいだろ」
美味いものは何度食っても美味い。
本日の花山家の食卓に並んだのは、やや辛口のカレーにサラダ。
瑞樹のお母さんである
だから、瑞樹がカレーを作る時は、いつもやや辛口。
「喜んでもらえるのは悪い気はしないけど」
瑞樹は、少しクスっと笑った後、
「じゃ、お皿洗うから」
と食卓にある皿を集めようとするけど-
「それくらい、私がやっておくから。二人はゆっくりしてなさい」
「でも、今日は私が当番だし……」
「それも本来は私のやることなんだから。ほら、部屋、戻ってなさい」
瑞樹が割り込む間もなく、強引にカレーやサラダが入っていた皿を集めて、台所へすたすたと運んでいく陽子おばさん。
「戻るか」
「そうね。あと、ちょっと相談あるんだけど、いい?」
少し戸惑ったような視線が送られてくる。
「別にいいけど、なんか深刻な話か?」
「ううん。ただ、私自身、整理しきれてないから」
「ま、とにかく、聞くよ」
「ありがと」
こうして、瑞樹の家で夕ご飯、あるいは朝ご飯を一緒にするようになってどのくらいが経つだろうか。
俺、
お互い、幼い頃に両親が離婚して、シングルマザーの家庭で育った間柄。
シングルマザーの家庭で何がややこしいか。
一番には、母親への負担が大きいという一言に尽きる。
特に、俺の母さんも陽子おばさんも、息子のために、娘のために、と熱心に働き、少なくない時間を子育てに当ててくれている方だと思う。
ただ、幸いだったのは、うちの母さんと陽子さんが友人同士であったこと。
忙しい時は、相手の家に息子あるいは娘を預けるのが習慣になっていた。
ちょうど今日は土曜日で、でも、母さんは平日休みで土日勤務。
だから、花山家で夕食をともにしていたのだ。
そんな俺達は、親が居ない間の寂しい気持ちを、埋め合っていたところがある。
兄妹、あるいは姉弟。そんな間柄に近いのかもしれない。
もっとも、お互い一人っ子だったから、兄妹も姉弟もわからないのだけど。
しかし、相談とは何だろう。
◇◇◇◇
「それで、相談ってなんだ?」
座布団を敷いて、ちゃぶ台を挟んで向かい合って座る。
こうして向き合って話すのもとてもよくあることだ。
「好きって何なのかな?」
瑞樹から、少し控えめに小さな声で発せられた質問。
「メンテがしんどい」と短めに切りそろえられた髪。
スレンダーな身体つきに、シミひとつ無い肌に、強い意思をたたえた瞳。
控えめに言っても美人と呼べるそんな容姿を持つ瑞樹。
そんな瑞樹は、心を見通そうとするような視線をよく向けてくる。
「……それってLikeの方の話か?それとも、Loveの方の話か?」
彼女の事だから、どっちもありえる気がした。
「どっちも、かな。ゆっこちゃんに、ちょっと聞かれて……」
「俺と付き合ってるのか、って?」
目を真っ直ぐ見返しながら、率直に問い返す。
基本的に、率直に意見を交わし合うのが俺たちのスタイルだ。
「そう。でも、付き合ってはいない、よね?」
「そりゃそうだ。で、何に悩んでるんだ?」
なんとなく想像はつくけど、あえて問いかける。
「私は和樹の事どう思ってるのかなって」
普通の人が聞けば、答えに困るような質問。
ただ、こいつは純粋に心を整理したいだけなのだ。
「自惚れじゃなければ、Likeの意味では好いてもらえてると思うけど」
「それはそう。じゃあ、Loveなのかな?どう思う?」
恋をしているのなら、頬が紅潮したり、うろたえたりするんだろうか。
ただ、彼女は真っ直ぐに俺を見つめていて、微塵もそんな様子を感じさせない。
「んー。Loveって言っても色々あるだろ。例えば、家族愛とか」
少なくとも、俺が瑞樹に感じている感情の一部はそれだ。
「そう、なのかな。確かに、半分、家族のようなものなのかも」
でも、と。そう言ってから、目を閉じて何やら考え込んでいる。
こういう時は、彼女が心の中を整理しているとき。
しばらく、黙って待っていると。
「じゃあ、恋、なのかな?恋って、一日中相手の事が頭の中から離れなかったり。熱っぽくなったり。すっごく触れ合いたくなったり。そういうものなんだよね?」
「俺も恋愛経験ないからわからないけど。そうとは聞いたことはあるな」
ただ、そこまでのものが恋なら、俺は瑞樹には恋してないだろうけど。
「……一日中は無いけど。夜寝る前に、ちょこっと考えることはあるのよね」
「それは初耳だな。詳しく」
ずいと身を乗り出して、さて、何を考えてたのかと。そう問う視線を送る。
「たとえば、今日みたいに、仕切り越しに寝泊まりするときとかに」
こうして、相手の家で夕食を食べた後は、お互いそのまま泊まることが多い。
とはいえ、さすがに年頃の男女。さすがに、別の部屋で寝る。
「ふむふむ」
「こうして、一緒にいつまで一緒に居られるのかなって」
ふと俯いた彼女の顔は少し寂しそうだった。
「俺は一緒の大学に行ければ、って思うけどな」
「うん。私もそれは同じ。って、なんか少し安心した、かも」
と、寂しそうな顔が微笑みに変わる。
「ひょっとして、その辺、寂しかったりしたか?」
「今、気づいたんだけど。離れるのが寂しいのかな」
と再び目を閉じて考え込んでしまう。
「離れるのが寂しいのは俺も一緒だよ」
もちろん、他の友達だって、離れるのが寂しい気持ちはある。
ただ、ここまで心の内をさらけ出せる相手は他に居ない。
だから、彼女が居なくなるのが寂しいと思う。
「そういうところ、器用だよね、和樹」
「器用かな。単純に気持ちを言っただけだけど」
「だって、私の場合って、よく、こうやって、和樹に聞いてもらって、ようやく気持ちが整理出来たりするじゃない?すっごい不器用だなって」
「瑞樹がそうなのは今更だろ。気にするなって」
「もちろん、和樹がこうして側にいてくれる間なら、それでいいんだけど……」
と、らしくもなく、何か言いづらそうな表情。
ああ、そういうことか。
「次は、社会人になったら。とか考えてるだろ」
「そうそう。ほんと、よくわかるよね」
「わからいでか。お前、さびしんぼだからな」
ま、俺も人の事は言えないんだけど。
「じゃあ、ついでに聞いちゃうけど。就職しても側に居てくれる?」
ある意味、予想通りの質問を瑞樹は寄越してきた。
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