三人妻ありて(その6)

その夜遅くに、二人妻が息せきかけてやって来た。

お貞の家にいた安兵衛を、覆面をした二人の暴漢が襲って拉致した。

縛り上げられたお貞は、みずから縄目を解き、お静とともにやって来たと言う。

浮多郎は、すぐにピンと来た。

「なに、安兵衛さんの命に別状はねえ。奴らの狙いは、金だ」

二人妻にそう言い残すと、浮多郎は往来へ駆け出した。

土手八丁から日暮里を突っ切り、真の闇に沈む根岸の里にようやく辿り着いた。

お香の妾宅の枝折り戸の前に、見張りの若い衆が立っていた。

後ろへ回って首を絞めて落とし、生垣に沿って坪庭に入り込み、小さな池の端の小藪に身を潜め、家の中ををうかがった。

蒸し暑い夜だった。

障子戸が開け放たれた座敷は、雪洞に照らされ、能舞台のようだった。

座敷の中央に白絹の布団が敷かれ、半裸のお香と蝮の甚六がからみあっていた。

雪洞の置かれた反対側の隅に、手足を縛られた安兵衛が転がっていた。

後ろからお香を半抱きにして口を吸っていた甚六だが、やおら立ち上がり、これ見よがしに褌を外した。

色白で細身の外見に相違して、それこそ蝮の鎌首のように、隆々とそそり立つ甚六の魔羅が、ひたひたと下腹を打った。

ふぐりに手を添えたお香が、そいつを下から舐め上げる・・・。

それ以上、道化じみた芝居に付き合う気のも馬鹿馬鹿しいと思った浮多郎は、ずかずかと座敷に上がり込み、

「そこまでだな」

と十手を突きつけた。

それでも、お香も甚六もひるむことはない。

「なんだい。なんだい。目明し風情がよう。こちらのお大尽にさあ、ちょいとばかり仲のいいところを見ていただく趣向だったのさ」

「そうかい。見物のお代をたっぷりいただくつもりだろうが。外道め!」

悪びれずにそそり立ったままの魔羅を、浮多郎が十手ではっしと打ったので、甚六は股間を押さえて七転八倒した。

その時、植え込みでガサゴソ音を立て、裏木戸目がけて駆け出す黒い影が見えた。

どうやら、今夜の出し物の見物人が、もう一人いたようだ。


安兵衛を町駕籠に乗せて、泪橋へもどった。

お貞お静の二人妻の前で頭を垂れたまま、安兵衛はひと言も発しない。

「安兵衛さん、目が覚めたかい。見目こそ麗しいが、お香は性悪な女だ。ここはすっぱり手を切って、元の鞘にもどってはどうだい。二人がどれだけ心配したか知れやしねえ」

政五郎は、ことばを尽くしてお香の性悪ぶりを説いた。

黙って聞いていた安兵衛だが、

「いや。泪橋の親分さんのお話はもっともだ。お貞とお静を離縁するのは止める」

顔を上げて、きっぱりと言った。

それを聞いた二人妻は手をとりあって喜んだが、それもつかの間・・・。

「やっぱし、お香を三人目の妻に迎える。お香は、あの蝮とかいう男に踊らされているだけだ。儂が立派に更生させてやる」

固い決意を表明する安兵衛だった。

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