曉月

いづかたに渡らふべしやこの月も今日を限りに見じと定めて



 ◇短歌




 第二句末、質問・反語の終助詞(係助詞)「や」は上代文法上の禁を犯せり。

 則ち、「か」と異なり、「や」は、何、誰、何時など、疑問詞と共には用ゐず。國語學者 大野晋曰く、疑問詞と共に用ゐらるゝ例あるも、斯かる折は、「此處こゝにして春日や[也]何處いづこ雨障あまさはり出でゝ行かねば戀ひつゝぞ居る」<萬葉 一五七〇>の如く、必ず「や」を上に据うべしと。中古以降には、疑問詞の下に用ゐる例あるも、上代には無しと。

 又、大野かく、「や」を話者胸中の疑問の意として用ゐるも、中古以降には例あれど、上代には、必ず相手に問ひかくるていにて、單なる疑問に非ずて質問の意として用ゐられきと。

 さはあれど、此歌は、斯かる語法にて詠まくほれば、かくそ吾が詠める。

 泉下の大野はもとより、萬葉の祖にも、愚裔の恣意放埓を謝す。








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