七草粥

種〻くさ〴〵味物ためつものよりくすしとよ七草の粥ねがかしける



◇短歌



 人日じんじつなる元七がんしちに七草の粥をふるは通例ならひなれど、が味をづる人甚だすくなし。

 萬葉にられたる長忌寸意吉麻呂ながのいみきおきまろの歌に


 醬酢ひしほすひるつきてゝ鯛願ふ吾にな見せそ水葱なぎ煑物あつもの


 醬酢尓 蒜都伎合而 鯛願 吾尓勿所見 水葱乃煑物


とあるが如く、蔬食しよじきに足るよりしやうほふりて肉を食らふに愉悅ゆえつせるが吾人のごふ。萬物の靈長などゝ奢りたるも其性そのしやうれば斯許かばかり

 七草の風習とて、元朝ぐわんてうより數日すじつ肉食にくじきほしきまゝとせる臟腑に少憩せうけいあたふべき方便に過ぎず。


 しかるに、靑臭あをくさき草の粥もしきあたりの手づから菜を摘みてかしける一椀とせば、吾にな見せそとはよも言はじ。


 まして、古今に所載の仁和帝にんわのみかど御製おほみうた


 君がため春の野にいでゝ若菜つむ我が衣手に雪は降りつゝ


とあるは、親王みこにおはしましゝ時に詠ませられたりなれど、大王おほきみ御自ら菜を摘ませたまふぞかしこき。

 かる御菜みな御羹おほむあつものにありせば、猶更なほさらにあらまし。

 いづくにぞ忌寸いみきの「吾尓勿所見」とるべけむや。







 

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