中秋


頻見しきみれどいまいまさず芋無けどいもとし待つも此月このつきの月



◇短歌



 結句はしかり、次をふまふ。


 月〻に月見る月は多けれど月見る月はこの月の月


 此歌このうた作者不詳。

 鈴木忠侯のあらはしける『小窓閑語』に典ありなれどもつまびらかならず。もとより、鈴木忠侯なる仁の何如いかなる人なりやも知らず。

 しかるに、此歌このうたひろく人口に膾炙くわいしやし、中秋の月を詠めると言はゞ、多くの人の襟懷きんくわいに去來すべきは、何を措きても此歌なるべし。


 待てども月いでず。


 しばし、家裡やぬちにて、杯を嘗め飯を食らひてのち、出でゝたつみを仰げば、今、中天に月あり。


 さいを呼びて、共にこれを眺む。


 すでいさゝ醺醺くん〳〵たり。


 桂樹けいじゆもとうずくまる、嫦娥じやうがなる蟾蜍せんじよに供せんに、芒も芋も無きをたゞ謝するのみ矣。




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