あり立つ


との曇りやゝ降始ふりそむる浦廻うらみにはあり立つ鷺と背向そがひに吾と



◇短歌



 仲秋なかのあきへども、霽亙はれわた日寡すくなし。


 との曇れるあした、降らじとて出行いでゆく程に、やゝありて頰に鼻に落來おちきたれるものあり。


 さりとても、いたくもあらねば、もあらばあれかしとて、行き〳〵て浦に到る。


 風は無し。水は油を流せるが如く凪ぎてあり。

 水際みぎはに、ひとり靑鷺ありて動かず。

 鷺の背向そがひに吾ありて動かず。


 鷺と吾とあり立つ程に、糠雨ぬかあめいよゝ頻降しきふる。


 鷺は動かず。吾も動かず。

 水面みなもあゆかず。風もそよがず。


 雨、いよゝ益〻ます〳〵降頻ふりしきる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る