なつのひの花火で
アオヤ
ほろ苦いアイスクリーム
「裕二、一学期末テストまたクラスでトップだったんだ。」
「ああ〜!真司、俺にはそれくらいしか取り柄がないからな!」
「また、裕二君トップだったんだ。すごいね!」
上野加奈の屈託のない笑顔に俺はドキッとなる。
彼女はナツオンナの典型みたいな人だ。
彼女に見つめられると・・・
俺、たぶん彼女が好きだな・・・
もうすぐ高校二年の夏休みがやってくる。
蝉のこえが頭に貼り付いて離れようとしない。
俺は今度のテストでトップをとれたら、加奈に告白しようと決めていた。
放課後、加奈が自転車置場に一人で居るところを見計らって声をかけた。
・・・まわりくどい事無しでストレートに!
「上野加奈さん!もし、誰ともつきあってなかったら俺とつきあってください!」
「エッ? 大谷裕二君が?」
「私でよかったらイイよ!」
思いがけない応えに俺は涙が出る程、嬉しかった。
そして、一気にデートの予約をしようと心が焦り
「来週の花火大会とか予定ある?」
もう、俺はドキドキがとまらなかった。
「ゴメンね。その日は由貴と先約があるんだ!」
少し俺のドキドキは萎んでしまったが・・・
Line の交換はできたし、その日は彼女とのデートを夢見て帰宅した。
「かあさんただいま〜!」
「祐二、紗菜ちゃん来てるよ。今日、勉強みてあげる約束してるんじゃなかったの?」
「あっ!ごめんね!待ってた?」
紗菜ちゃんは隣の家に住む小学校6年生、母子家庭で母親の帰りが遅いときはうちでご飯食べたりしている。
「お兄ちゃん、おそ〜い!!ずっと待ってたんだよ!」
「ごめん、ゴメン!着替えたらすぐ宿題みてあげるから・・・」
紗菜ちゃんは小6にしては妙に大人っぽい時があって、ちょっとドッキとする時があるが、普段は芸能ネタが大好きなアイドル好き女の子だ。
「ワークのこの問題が分からないんだ!」
「ここは平行四辺形の対角は同じだから・・・」
紗菜ちゃんは少し算数が苦手みたいだ。
俺は数学は好きな方なので、紗菜ちゃんに出来るだけ分かりやすいように解説した。
紗菜ちゃんもやり方さえ理解すれば、宿題はあっという間に終わった。
「あっ!紗菜ちゃんは来週の花火大会、誰かと行くの?」
「ママが”友達とじゃ危ないから行くな!”って言うの・・・」
「俺がママに言ってあげるから・・・ 一緒に行く?」
「ウン!一緒に花火見る!」
「確か、妹の浴衣とかあるはずだから・・・ よかったら着てみる?」
「えっ?いいの?うれしいな〜。」
「それじゃ、かあさんに言っておくね。」
______________________________________
花火大会当日、浴衣姿の紗菜ちゃんを連れて花火大会に向かった。
「ねえ〜 紗菜ちゃんは何食べたい?」
「う〜ん? アイスクリームが食べたい!」
「屋台でアイスクリームあるかな? 途中のコンビニでいい?」
「うん! いいよ!」
俺たちは会場そばのコンビニに入った。
「好きなの取っていいよ!」
「じゃ〜 遠慮なく・・・ ハーゲンダーツのいちごを・・・」
・・・ハーゲンダーツか・・・?
俺は普通に午後の紅茶ミルクティを買った。
紗菜ちゃんと他愛ない話しをしながら会場まで歩いていたら・・・
ばったり加奈ちゃんと出会った。
しかもクラスメイトの悟と一緒だった。
「えっ?加奈ちゃん由貴と一緒に花火大会に行くって言ってたけど・・・」
「あ〜あ! バレちゃったか? 祐二君、勉強できるから予備でとっておきたかったのに・・・ 残念。」
加奈ちゃんはわるびれる様子もなく言い切った。
俺は何がなんだか・・・ 何も信じられない気持ちになった。
「チョット! お兄ちゃんの気持ちを弄んで何やってんのよ? このあばずれ女!」
「お兄ちゃんは勉強できるだけじゃなくて、とっても優しいんだから!お兄ちゃんの優しい気持ちを弄んで許せない!」
なんで紗菜ちゃんがかばってくれるのか分からなかったが、嬉しかった。
「ロリコンの祐二にはかわいい彼女がお似合いだね!」
加奈は一言残して去っていった。
紗菜ちゃんは俺の手を取って歩き出した。
「もうすぐ花火はじまるよ!あそこのベンチ空いてるからあそこで一緒に見よ!」
「ほら〜! あ〜んして!」
紗菜ちゃんは適度に溶けかけたアイスクリームを俺の口に運んでくれた。
花火も始まり周りは賑やかになった。
「私がずっと一緒にいてあげるから落ち込まないの!」
花火のドン〜という音の合間に紗菜ちゃんは俺を慰めてくれた。
俺の口の中には何故かほろ苦いアイスの味がひろがった。
なつのひの花火で アオヤ @aoyashou
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