ピート

 

 深夜の海岸・・・…砂浜に腰を下ろし夜空を見上げる。街中では想像もできない星が輝いている。

 秋も深まり季節は冬になろうとしていた。

 こんな時季、それも、こんな深夜の海岸に訪れるのはよっぽどの物好きなんだろうな。一人黙々と作業を続けながら、苦笑いを浮かべた。何年前になるんだろう?この場所に初めてきたのは・・・…考えてみるとあれ以来来てなかったようだ。

 明 け方の海岸道路を、何かの用事をすませた帰り道に偶然発見したんだったな。一目で、この風景に魅入られた。明け方にしか見られない、鮮やかな風景だっ たからかもしれない。きっと、友人が聞いたら、耳を疑うだろうな。俺が海を好きじゃないのを、連中はよく知ってるからだ。潮の香りが好きになれない、潮風 もベタベタして性に合わない。でも、この場所だけは気に入っていた。

 そして今日、数年ぶりに思い描いた『画』を見るために、この場所に訪れた。海岸を走る車もわずかだ。それに朝まで時間はたっぷりある。

 暖をとるための焚き火を起こすと、カメラの準備をした。夜景を写すため、『画』を切り取るためにやってきたのだ。

 月の位置を考えながらシャッターを切っていく。光源は月灯りだけ、現像するまで、どんな『画』が写っているのか、想像もつかない。砂浜には潮騒と、シャッ ター音、そして時折、薪の爆ぜる音が響くだけだ。月の位置がもう少し地上に近づくのを待つため、焚き火の横に腰を下ろした。

 焚き火の炎を見つめ空想に思いをめぐらせる。

 ふと思いついて、三脚をセットし、セルフポートを撮る事にした。はじめからストロボは用意していないので、光源は焚き火の炎になる・・・どんな写真になるんだろう?

 何枚もシャッターを切った、砂浜を歩き回り、様々な角度から何枚も・・・…夜が明けるまで撮りつづけた。



 数日後、現像された写真を受け取り、ある場所へと俺は出かけた。

 幻想的な色合いを見せる夜景・・・…月は緋く、星は美しく輝いている。肉眼では決して見る事のできない『画』が切り取られていた。

 写真をめくっていくと、何枚か写したセルフポートがあらわれた。ボンヤリとした『画像』だ。まぁ、これはこれでなかなかいい感じだな。

 !?何枚目かのセルフポートに、彼が写っていた。俺の隣で彼は優しく微笑む。先日亡くなったばかりの彼が・・・…。


 初めて、あの場所を訪れた時、彼が一緒にいた。

「秀さん!車停めて!!この場所、すごいよ!絶対に『画』になるよ!俺、必ず撮るよ、弟が写した写真より絶対にすごいの撮るよ!」いつも物静かな彼が興奮して、はしゃいでいた姿が頭をよぎる。

 和・・・…お前が撮りたかったんだな?お前が望んだ『画』は撮れてるか?俺は、お前の代りに写せたか?

 写真を一枚、また一枚とめくっていく。

 彼は満足そうに・・・…とても嬉しそうに夜空を見上げ笑っていた・・・…。


 墓前に花と共に写真を置くと、俺は彼に別れを告げた。



 Fin

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