第127話 贈り物って何で緊張するんだろ……

 元々リカルドは今回の事で報酬を貰う気はあまり無かったが、それでも不自然にならないよう、ある程度は受け取る必要があると思っていた。


(でもこんなの用意してもらったら、もう他に貰えないって)


 これ以上何か貰ったら本当にバチが当たりそうだとリカルドは内心笑い、思考を切り替えてお金を含めた守護布以外の報酬辞退の交渉を開始した。


「正直お金をいただくのもどうかと思っているんですよ。

 私が受けた依頼はクシュナさんの護衛だったのに、途中で放棄するような真似をしたでしょう? そういう意味では未達成だと言えますから」


 苦笑して見せながら己の減点ポイントを話すリカルドに、ダグラスは反論するように眉を寄せた。


「そうしなければヒルデリアが落ちると思われたからですよね?」

「そうですが、それも結果的にうまくいったから言える事です。あの時私が前に出て、クシュナさんの護衛を外れてしまったのは紛れもない事実です」

「……だとしても、貴方が何をされてきたのか、事実を知っている者としてその行いに報いなければ道義に反します」


 引かないというより引けないという表情のダグラスに、なるほど道義……とリカルドは思考を巡らせ、ちょっと方針修正。


「……では一つ、お願いを聞いていただけないでしょうか?」

「それは、はい。私達に出来る事でしたら」


 ダグラスは報酬を断りそうな気配を出していたリカルドからの要望に、ほっとして表情を少し緩めた。


「報酬をクシュナさんとナクルくんの個人資産として、半分ずつ管理していただけませんか?」


 返答までに数秒、間が空いた。


「……それは」


 出来ない事はない。出来ない事はないが、それでは報酬としての意味がないと言い淀むダグラス。

 そんなダグラスをリカルドは気にせず続けた。

 

「聖女にはそれぞれ予算が組まれているとは思いますが、それは聖女個人のお金というわけではないでしょうから。

 だから二人が何かをしたいと思った時、何かが欲しいと思った時に、自由に出来るお金として確保しておいて欲しいんです。これから益々自由が無くなるであろう二人に、少しでも自由が得られるように」


 私は二人とは違い自由な身ですし、生活に困っているわけでもありませんからねと軽く話すリカルドに、ダグラスは再度口を開いて――しかし言葉が出ず、額に手を当て俯くように目元を隠した。

 

 いい感じに心揺さぶられてしまっているところあれだが、お察しの通りリカルドは単純に『道義が通ってればいいんですね?』とそれが通りそうな二人にスライドしてみただけである。

 もちろん二人が自由に出来るお金が出来れば、それはそれでいいと考えているが、ぶっちゃけ自分が出しゃばらなくても二人にはパトロンが掃いて捨てるほど現れるだろうなとリカルドは予想している。なにせ二人は世界に数少ない破邪結界の使い手なので。

 とまぁその辺の事はともかく、


「ダグラスさんなら安心してお願いできます」


 心を落ち着けようとしているダグラスに、笑顔で畳み掛けるリカルド。

 さすが道理を重んじるラドバウト相手に、とんでも鎧を受け取らせた性質タチの悪い死霊魔導士リッチである。

 ダグラスは根負けしたように頭を振ると、困ったように笑った。


「……わかりました。そのように収めてみましょう」

「ありがとうございます」

「いいえ。二人の未来まで気にかけていただいて、こちらこそ感謝いたします」


 そう言って互いに深々と頭を下げたところでジョルジュが戻り、リカルドは守護布リボンが収められた小さな箱を礼を言って受け取ると、じゃあ他の物も……と言われない内に撤収だと立ち上がった。


「それでは私はこれで」

「あ、リカルド殿。明日の夜は何かご予定がありますか?」

「明日ですか?」


 リカルドに合わせ立ち上がったダグラスに、少し考えてからリカルドは首を振った。


「いえ、特にないですが」


 占いの館を開けたい気持ちはあるが、何を措いても、という訳でも無い。

 ダグラスから何か依頼があるなら全然対応するつもりで答えれば、ダグラスは良かったと表情を崩した。


「明日の夜であればクシュナの時間が空いているのです。良ければ会ってやって貰えませんか?」


 無事だと伝えてはいるのですが、おそらくまだ心配したままなので。と付け加えるダグラスに、あー……と申し訳なさがいっきにぶり返すリカルド。


「わかりました。大丈夫です」


 来ます。絶対。来ますんで。としっかり頷き、そんなやりとりを最後にして、リカルドは教会を後にした。


 そうして帰り道、マフラーを口元に上げながらのんびり歩いていたリカルドは、ふと気がついた。

 あれ?俺、帰ったらシルキーにリボンこれプレゼントするの?と。

 そのために貰ったのだから当然それしかないのだが、花とは違い装飾品を渡すとなると緊張するというか、改めて考えると妙な動悸(妄想)がしてくるリカルド。

 ひとまず往来で足を止めては邪魔になるので端に移動し、いやいや何を緊張する事がある?とリカルドは自分に言い聞かせた。


(普通に渡せばいいんだよ。普通に。いつもありがとうって。シルキーなら受けとってくれるから……くれるよね?)


 自問自答したところで不意に、家の事を任せてもらえるなら何も要らないんですと、出会った頃に言われたシルキーの言葉が頭を過ぎったリカルド。


「……やばい。不安になってきた」


 これ考えない方がいいかも。とリカルドは歩き出した。

 考えると渡せなくなりそうな気がして、もう勢いでいこうと段々早足となり急いで家に到着、ノープランで玄関のドアを開けた。


「ただいま」

〝おかえりなさい〟


 いつものようにシルキーはリカルドを出迎えると、外套とマフラーを受け取って玄関横の壁に掛けた。

 それを横目に、ぎこちない動きで早速例のものを取り出すリカルド。

 大多数から『お前玄関そこで渡すのかよ』と突っ込みが入りそうな、情緒も何もないロケーションであるが、そこを気にする余裕はリカルドには無い。


「シルキー、あのさ……えー……その、いつもシルキーにお世話になってて、何かしたいなと思ってたんだけど、なかなか何がいいのか思いつかなくて」


 いつもありがとう!と単刀直入に言うつもりが、気づけばもごもごと言い訳じみた前置きが口から出ていた。


「街中で探したりもしてたんだけど、これってものがなくて、それで——」


 しかも止まらない。

 やばいと思ったリカルドは、咄嗟に箱をシルキーに差し出した。


「——日頃の感謝の気持ちです。いつもありがとう!」


 そして前後の脈絡無視して強引に結論へ着地。

 これまで占いの館で散々お客に助言してきた実績皆無の出来栄えである。


 シルキーは驚いた様子で差し出されたそれを受け取ると、〝開けてみても?〟と問い、うんうんと頷くリカルドに後押しされて箱を開け――目を見開いた。


〝…………〟

「……あの……ええと、実はジョルジュさんが、俺が何がいいかって迷ってるのを知って、それでいくつか用意してくれたものから選んだんだけど、その色合いがシルキーに似合いそうだなって思って。で、それで、えーと……」


 無言のまま動かないシルキーに、焦って余計な事まで言うリカルド。


〝これは……私が、いただいてもよろしいのですか?〟

「もちろん!」


 思わず声が大きくなるリカルドだったが、シルキーはリボンを見つめたまま、そっと手に取ると頬に当て、春の木漏れ日のような笑みを浮かべた。


〝ありがとうございます……とても暖かいです〟


 どうやら気に入ってくれたらしいとわかって、物凄くほっとするリカルド。人間であれば手汗が凄い事になっていただろうが、乾いた骨は笑みを作って胸を撫でおろした。


〝つけて来てもいいですか?〟


 シルキーの言葉に今度は落ちついて、もちろんと頷くリカルド。

 そしてシルキーが姿を消したところでリカルドは居間に行き、ソファに座って脱力した。


(受け取ってくれて良かったー……ジョルジュさんのチョイスに感謝だな)


 でもって、今度は自分一人でもちゃんと用意しないとだなぁ……と、ソファにもたれ天井を見上げるリカルド。

 リボンで喜んでもらえるなら他の装飾品も有りなような気がして、いやでも家事するのに邪魔か……?と思ったり、だったらエプロン的なものとかは?と思考を巡らせて、だけど今のを大事にしてたら困らせそうだし……それに服を贈るのって確か意味が……いや、いやいやいや、そういうつもりは全くないですけども!と、無表情のまま思考がアホな方へと流れていった。


〝リカルド様〟

「っ――」


 思考の(アホな)迷路に陥っていたリカルドはシルキーの気配に気づかず、呼び掛けに驚いて仰け反っていた姿勢をがばっと戻した。


「あ」


 そこには纏めている髪に、細いリボンを編み込んだシルキーが少し照れた様子で佇んでいた。

 レアな照れ顔に心臓(無い)を射抜かれるリカルド。

 その場に崩れ落ちる己を幻視したが、シルキーの前で無様な姿は見せるまいと拳を握りどうにか耐えた。

 そして、今こそ働け俺の魔力制御!と、リカルドは微笑みを作り、思った事を頑張って口にした。


「似合ってる。可愛いよ」


 シルキーはその言葉に小さくはにかむと、頭を下げてその場から消えた。


(あーーー……)


 後には語彙力を喪失した死霊魔導士リッチが一匹、顔を覆っていた。


 そうしてリカルドが暫くシルキーのはにかみを頭の中でリピートするボットと化していると、居間のドアが開いてリズが入ってきた。

 すぐさま正気に戻り、人外の速度で取り繕うリカルド。


「リカルドさん、丁度良かった」


 若干目が充血気味のリズは、リカルドの姿(足を組んだ上に手を置いて謎のモデル座りをしている)を認めると、職人の顔つきで手に持っていた、やや厚みのある布を居間のテーブルに広げた。


「確認をお願い出来ますか?」


 広げられた帯状の黒い布には、リカルドが当初依頼した中央部と両端部分だけでなく、かなり広い範囲に刺繍が施されていた。そして薄い黄色から鮮やかな赤まで多くの糸が使われたそれは、図案が幾何学模様に似た模様の組み合わせでしかないのに、色のグラデーションによってまるで炎のような揺らめきを感じさせるものになっていた。


「すご……」


 思わず組んでいた足を外して身を乗り出し、真顔で見惚れるリカルド。

 追加で刺繍を入れる相談は受けていたので刺繍の範囲については驚かなかったが、こんな風に色が入るとは全く想像していなかった。


「効果は? 効果はどうですか?」

「え? あぁ、ええと——はい。大丈夫です。しっかり付いてます」


 鑑定で確認して答えると、リズはほっとしたのか力が抜けたようにその場にへたり込んだ。


「大丈夫ですか?」


 自分から近づかないようソファに座ったままリカルドが問えば、リズは眉を下げて苦笑いを浮かべ頷いた。


「すみません、ちょっと気が抜けて……あ。本当に大丈夫ですから」


 シルキーを呼ぼうと、音がするキッチンへ視線を向けたリカルドを止めるリズ。

 そうですか?とリカルドは視線をテーブルの上に戻し、にしても凄いな……と改めて思った。


「これだけの刺繍をよくこの短期間でされましたね……まだ日数が残ってますし……」

「問題があった時、少しでも修正する時間が必要でしょう?」


 だからちょっと急いだんです。と答えるリズに『ちょっと』ではなさそうだけどなぁとリカルドは内心苦笑しつつ、何はともあれこれでこちらの用意は出来たと感謝した。


「ありがとうございます。これで祭りも盛り上がると思います」

「祭り?」

「はい。ちょっと火を使った祭りを行う部族がいるんですが、そこで使う予定なんですよ」

「そうだったんですか……」


 祭りに……と呟いたリズは、ふふ、と口元に手を当て唐突に笑い出した。

 何かと思ってリカルドが見ていると、リズは首を振ってすみませんと謝った。


「てっきり危険な魔物を倒す為に使われるのだと考えていたので。お祭りに使われると思ったら、今まで緊張していたのがなんだかおかしくなったというか」

「あー……すみません。話していればよかったですね」

「いえ。私が早とちりしただけなので。それにお祭りでも使われる方の事を考えれば、それはそれで緊張していたと思いますし」


 笑いを治めて、ふぅと息を吐くリズ。


「楽しそうな事に使われるって、いいですね……。なんだか、自分も少し参加出来たような気になるというか……」

 

 安心したように穏やかに話すリズに、そうですねとリカルドは相槌を打った。


「これを使えば皆さん喜ばれると思いますし……どうだったか後でお伝えしましょうか?」


 今後の励みになるかな?と思ってそう言えば、リズはパッと目を輝かせた。


「本当ですか? ぜひ聞きたいです」


 明るいその表情に、リカルドは了解ですと頷いた。

 そこへ夕食が出来ましたよとシルキーの声が掛かり、リズが立ち上がるのを待ってキッチンに移動。

 久しぶりに二人で食事となったのだが、疲れと気の緩みからかリズは途中でうつらうつらし始めてしまった。


(ほっといたら顔面からダイブしそうだな……)


 本日のメインは熱々のラザニア風グラタン。そこに突っ込んでは悲惨だろうとリカルドはシルキーに声を掛け、リズを二階に転移させてそのままご就寝いただいた。


 そのあとリカルドは一人で食事を再開したのだが、戻ってきたシルキーが明日の仕込みをしながら、時々纏めた髪に手を近づけてはふにゃっと小さく笑うので、心臓が持たない(以前に無いが)と食べ終わって早々地下に避難した。


「……はー」


 一人椅子に座って、あれはやばい……あれは……と机に肘をつき額を押さえるリカルド。


「えー……と。占いの館を開くにはまだ少し早いか。なんかやる事あったっけ」


 上に戻るのは(己の精神的に)危険だと思ったので、やらなきゃいけないタスクはとリカルドは考え、そういやラドに認識阻害の魔道具を作るんだったと思い出した。


「あ。あとルゼの訓練も再開しないとだな」


 今行けるかな?と調べるとルゼ達は食事中だったので、じゃあまた明日にするかと一旦保留に。先に魔道具の方をやってしまおうと材料を取り出した。


(依頼主や必要な相手には姿を見せたい感じだったから、例外設定が出来るようにしないとだよな……)


 以前ラドバウトに提案した時、要らないと言われた理由を解消する形で仕様を考えるリカルド。


(鑑定の仕組みで特定するのは……無理か。まぁ魔道具は人を鑑定出来ないからな……となると、生体パターンか何かで判別できるか……魔力の質でいけそうか? だとすると魔波探知ディアソナーを調整して対象かどうか識別……魔力の質を覚えさせる領域もいるから……あー全体の魔力消費も抑えないと……あと周りから供給して……)


 頭の中であれこれ考えながら設計し、かなり細かい回路を刻まないとだなぁと思うリカルド。

 それでもラドバウトの鎧を作った時よりは楽だと作業に取り掛かり、二時間程で完成した。


(これでラドの負担が軽くなってくれたらいいんだけど……)


 夜中にお邪魔するのもあれだから、明日あたり様子を見て渡そうとリカルドは椅子の背で背中を伸ばし、肩の凝り(気のせい)をほぐした。


「さて。そしたら……そろそろやりますか」


 伸ばした身体を戻すと、姿をグリンモア版へと変えて作業に邪魔だった水晶を取り出して定位置に配置。

 よしっと気合を入れて背筋を伸ばし、リカルドは久しぶりに路地裏に接続して、札を起動し――


「賢者殿!」


 ——ザックが現れた。


「何故あんな小僧に教えを授けたのだ!? ルゼならばまだわかる! わかりたくないが! 資格という意味ではわかる事にしよう! だがあれのどこにその資格が!?」


 しかもなんだかえらくエキサイトしていた。

 テーブルに両手をついて捲し立てられたリカルドは、意味がわからず時を停止。

 何なんだいきなり……と思いながら調べてみれば、小僧というのはアイルの事だった。ルゼの訓練中に話を聞いて、ちょっと手を出してみたあの事だ。


(教えを授けたって、あれで?)


 ただちょっと魔力を通して感覚掴ませて、練習方法をメモに書いただけじゃんと思うリカルドだが、『自分には教えてくれないのに』という前提がザックにある事を忘れている。


(っていうか、何でわかったの?)


 アイルは他の魔導士に自分の事は話すなとクランメンバーに釘を刺していたので、自分から言うとはリカルドには思えなかった——のだが、しっかりアイルがザックに言っていた。

 四日前、ヒルデリアからグリンモアの拠点に戻ってきたザックとアイル達が合流した時、アイルはルゼに黙っとけと言われていたのに、魔法が使えるようになったのが嬉しくてうっかりポロリ。結果、こうなっていた。


(いやまぁ、口止めしてたわけでもないからいいんだけど……)


 アイルって残念枠の立ち位置だよなぁ……と、ザックに闇魔法の影で宙吊りにされたらしいアイルに思いを馳せつつ、どう言ったら手っ取り早く大人しくなってくれるかなと追加で調べるリカルド。


(……あの時考えてた事を言えばいいのか)


 案外簡単だったと時を戻したところで、リカルドはザックに更に迫られた。


「何故教えを授けたのか説明していただきたい!」

「やってみたかったからですね」


 言う事はもう決めていたので、微笑み固定で即答するリカルド。


「やってみたかったから?!」


 声のボルテージが上がるザックに、リカルドは冷静に返す。


「魔法の素質がゼロだとご本人が言われていたのですが、魔力が無いわけではなかったので、素質がゼロというわけでは無いのでは? と思ったのです」


 で、やってみたら出来ました。と、それだけの話だと伝えるリカルドに、ザックは束の間沈黙。ストンと椅子に座った。


「つまり、興味からやってみたというわけか」

「はい」


 ザックの言う通り、リカルドは『アイルが可哀想だから』とか『出来たらいいね』という気持ちよりは、『出来るんじゃね?』と思って興味本位でやったところが大きい。

 相違ないですとリカルドが頷くと、ザックはむすりとした顔であったが一旦落ち着いた様子で腕を組んだ。


「ならば致し方ないな。賢者殿の探究を阻むわけにもゆくまい」


 息を吐いてそう矛を収めたザックに、本当にあっさり終わったなと思うリカルド。

 まぁこれもザックがリカルドの事を賢者殿と敬意を払っているからこそ、己が大事にしている探究心をリカルドにも当てはめて配慮した結果である。当のリカルドにはそんな探究心などと言うほど大それたものはなく、好奇心程度しか持ち合わせていないのだが。


「ではこの話は終いとして、賢者殿。形にしたぞ」


 主語のないザックの言葉であったが、リカルドはピンときた。


「消滅魔法の制御が?」

「辛うじて、ではあるが。このサイズにまで狭める事が出来た」


 ザックは言いながら懐から小さな紙を取り出し広げた。

 紙には直径五ミリ程度のまるが描かれており、そしてその内側がくり抜かれたように穴が開いていた。

 つまり、その穴の部分を消滅魔法で消したという事だ。

 ルゼに続いてではあるが、ここまでの精度に仕上げられる魔導士は紛れもなく天才である。

 リカルドとしては欲を言えばもう少し小さくして欲しいが(鬼畜な要求)、これでも十分だと判断。『どうだろうか?』と確認するように自分を見据えているザックに頷いてみせた。


「教会に在籍され、闇魔法に対して偏見を持たず、そしてそれなりの地位におられる方を紹介させていただきます」

「そうか……そうか、そうか」


 ザックは真面目な顔で頷いていたが、くふっ、くふふふ……と段々と崩れていった。認められてかなり嬉しいらしい。

 そりゃまぁこの人本当に努力してたもんなと、その希望を叶えるべく時を止めて先方の様子を確認するリカルド。

 何しろ相手は忙しくて当たり前の人なのだ。

 調べてみればやはりまだお仕事中で、各地からの嘆願書に目を通しているようだった。

 これはこの間みたいに引き込まないと無理かな?と考えつつ、懸念事項もついでにチェックしてリカルドは神柱ラプタスの下へと飛んだ。

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